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最終話


目を開けるとそこは………



走っている馬車の中でした。


えーっと、なになに……




ー私と連絡が取れなくなった後、不測の事態が発生したと感じたアリシナ様から荷物用の馬車をプレナーレ王国に向けて走行せよとの指示が出された。今私がいるのはその馬車の中。



ふぅ………

そうなんだ。


「あの………あっ、失礼しました。名前、教えてもらってもいいですか?すみません、今更で。」



ー気になさらないで下さい。私のことは、リーネとお呼び下さい。今、馬車を操っているのは、マリーです。隊長のヴァイオレットと魔導士のパール様は、馬で後から追いかけてきています。


………メイドさんなのに、隊長呼びなんですね。

リーネさんが、筆談で説明してくれてます。


またリーネさんは小さい黒板のような板に何かを書いています。


それにしても………


疲れたよ~

一生懸命、男爵令嬢気取ってみたけど、やっぱり私は、一般庶民ですよ。豪華な馬車より、荷物たくさんのこの馬車の方が落ち着きます。

短時間だったけど、あまりにも濃い時間でした。


リーネさんが、聞いてきます。


ーこの馬車は、荷物用の馬車だった為、食料を乗せていない。しかし、今しばらくは、このまま走らせて、城から遠ざかる方を優先させてもいいか。2時間ぐらい走らせた先の大きな村に夜遅くまで開いている飲み屋があるので、そこで、隊長と魔導士様と合流しつつ、食料を仕入れてもいいか………


もちろん、大丈夫だと伝えます。

動いてるけれど、寝ている状態のリーネさん達は食べ物が必要ではないそうです。


むしろ私のために時間を取らせるのが申し訳ないと言うと、そんなことは気になさらないで下さい、だそうです。


夜道なのに、馬車を早く走らせることが出来るのは、“透視”の力で物を見ているので、明るさは関係ないからなんですって。



「あの、“例のモノ”入手出来たんですけど、安全に保管出来そうな物ってありませんか?」


リーネさんが、首を傾げながら、私の胸を片手で指し示します。


えーっ。ここですか?

胸と胸がクッション代わりになるって?本当ですか?


「そ、そうですか。」


リーネさんが、革ひものついた小袋を出して渡してくれました。


これに入れてしまっとけということですね。

小瓶を取り出して、さっと小袋にしまいました。

だって、中身は………ねぇ………


「リーネさん。とても行儀の悪い事だとは思いますが、私の荷物があるなら、馬車の中ですが着替えてもいいですか?」


馴れないコルセットとドレスで揺れる馬車に座っていると少し馬車酔いしてきたのです。


リーネさんが、頷いてくれたので、足元にあった私の荷物から、いつもの服を出します。

継母が作らせたオーダーメイドのグレーのワンピースです。


これが意外と着やすくて丈夫なんです。

しかし、これを着るにはコツがいるのです。

ある一定の場所がスリムに作られているので、ワンピースとセットで着用する為のサラシも出します。胸の大きさを強調すると苛めてくるいっちゃんがいたので、いつも胸はギュッギュッとサラシを巻いていました。


でも、今は小瓶を守る為、リーネさんが手伝ってくれて、すごく上手にふんわり胸を盛りつつサラシを巻いてくれました。


胸を盛ると、Aラインのワンピースでボタンが5個ついているのですが上3つが留めれません。そこに、リーネさんが、どこからか白のレースを出してきてつけてくれました。

さすが出来るメイドさんは違います。馬車が揺れても針仕事をお任せ出来る安定感。スピードも仕上がりも私とは段違いです。


着ていたドレスは座席の下に綺麗にしまってくれました。

そんなところに収納があるんですね。でも、大事なドレスにシワがつかなくて安心です。

装飾品も全て渡しました。


(あっ。パンプス片方脱いだままだ。ガラスの靴じゃなかったし、思いっきり名前言って、身元バレてるけど、靴を片方忘れてきたのは、お話のままになっちゃった。)


リーネさんが、私の座り心地が良くなるように、座席の下にしまっていたクッションを2つ背中に置いてくれました。余っていた1つは遠慮なく抱きしめる用にさせてもらいます。

こうして、胸の前でクッションを抱きしめていると、とても落ち着きます。


いつもの服に着替えて、靴も履き替えて、やっと少し落ち着きました。

リーネさんも少しオフになるようです。脳をたくさん使っているので、隊長以外はこまめに休まないと活動が出来ないそうです。

隊長は活動の仕方がとても上手いそうで、少しのエネルギーで長く動けて、潜伏も相当な腕前なんですって。

筆談で、色々教えてくれました。


すみません、お疲れさまです。

色々とありがとうございます。


私も少し休ませてもらいますね。

今は何も考えられないくらい疲れました。小瓶が気になって、あまり身動きとれませんが、クッションのおかげでさっきより楽です。

少し、私もオフ状態に………







ガタッ


リーネさんが、突然立ち上がりました。


ビックリした………

少し、ウトウトしてた。


いつもはまだ起きている時間だけど、慣れない事ばかりで疲れてるみたい。


立ち上がったままリーネさんはじっとしています。


ー隊長を追手が追跡しているようです。少し道を変えます。今より馬車のスピードが早くなるので、深く座っていて下さい


念話を終了したと思われるリーネさんが教えてくれました。


フルフェイスの全身鎧の騎士が後を追って来ているとのこと。


夜道をフルフェイス?視界あるのでしょうか?


隊長の馬には二人乗っているので(パールさんは馬を操るまでの力がない)スピードが出ないみたいだけど、“隊長”が操る馬をこの短時間で追いつける程の腕前の乗り手みたいです。



***

トントン


馬車の扉がノックされました。


って、スピードMAXで走る馬車ですけどっ?


リーネさんが、立ち上がります。


リーネさん…その短剣どこから出したんですか?


バタンッ。

走る馬車の扉開きました。

扉は開いたまま動きません。


外を見ると、白馬に乗った全身鎧の騎士らしき人が並走しています。


「よっと。」


全身鎧の人が、そんな掛け声をかけて馬車に乗り込んで来ました。


「お嬢さん、こんなモノ振り回していると、危ないよ。」


一瞬の事でした。私は、凝視していたはずです。


なのに、扉の前に立っている男の手には短剣が二つ。リーネさんが、構えていた短剣だけではなく、多分どこかに隠し持っていた短剣も男は取り上げたみたいです。


リーネさんが、まだ腰元から何かを取りだそうと…

いや、もう手にナイフを握っています。

すごい早業です。


「リーネさん、ま、待って下さい。」


私は、立ち上がり………


「つーかまえた。」


走る馬車の中で一般人の私が立っていられる訳もなく………

男に捕まりました。


“男”というか………


「リーネさん、多分、私の国の第2王子様です。武器をしまって下さい。」


右手にナイフ。左手に短剣。

もう、どこに?とか、いつ?とか何も言うまい。

いくつ?はいつか聞いてみたい案件…


「多分…はひどいよ。君の旦那様にさ………」


謎な言葉を発しつつ、ロンバードル様は、兜を脱ぎました。


リーネさんが、狭い馬車の床にひざまづきます。さすが、王族に仕えるメイドさんです。

揺れて狭い馬車の中なのに、片膝をついている姿が微動だにしません。


「ちょっと、この子とお話したいから、御者席の方に移動してくれるかな?馬車は走らせたままでいいよ。」


リーネさんが、チラッとこちらを見上げます。

でも、目はもちろん開いていません。アイコンタクトって大事なんだなぁと実感…してる場合ではなく…


私は、微かに首を振りましたが、


「っね。」


と、後ろからギュッとされたら、王子様の言うことを聞くしかありません。


「私は大丈夫なので、そうして下さい。」



馬車が止まり、リーネさんが降りていきます。


「はい、忘れ物。」


王子様が短剣をリーネさんに返しました。4つ。

いや………どんだけとかいつのまにとか………以下略


静かに馬車が走り出します。


「あの…降ろしてくれませんか?」


今、私は馬車に座った王子様に座っています。膝の上です。王子様の片手は安定の腰。に、がっちりロックです。


馬車が動き出す前に、王子様は座席に座りました。座った瞬間、お城での格好になった王子様に驚いている隙に、腕を引っ張られ、膝に座らされました。


「嫌だよ。アリガはすぐに、僕から逃げようとするからね。捕まえとかないと。」


首筋にチュッと王子様の唇が当たります。


「あっ、あの、誤解というか、色々謝りたいんです。なので、降ろして、説明させて下さい。」


もう、私は魔法にかけられたシンデレラではないのです。

髪の毛はそのままの状態だけど、服は普段のグレーの服。

名だけの男爵令嬢。心は一般庶民。

0時は過ぎていないけど、魔法はもう解けています。


「そうだね。説明とかは欲しいけど、降りなくても出来るよね?」


ロックの解除はされませんでした。


「あの!お気づきでしょうが、色々、嘘をついていました。私は普段はこの格好で下働きのような事をしていて、男爵令嬢が身につけているべきのマナーも知りません。王子様が求めるような令嬢ではないと思うんです。騙してしまって申し訳ないですし、あんなことお願いして、謝りたいんです。こうやって、お膝の上に乗せてもらうなんて恐れ多くて。」


「ねぇ、さっきも聞いたけど、本当に僕とキスしたらどうなるのか知らなかったの?」


私の言った事、総スルーです。


王子様は、私の握りしめた手を片手でほぐしながら、そう聞いてきました。


キスしたら?

どうなるんですか?


本当に知りません。

首をフルフルっと横に振ります。


「さっきの、僕もファーストキスだったんだよ?」


えっ!ウソです。

手慣れてました。


「正直、女性と付き合った事はあるよ?でもね………」


王子様が秘密を教えるように、私の耳に囁きます。


「…王族は初めてのキスで、相手と結ばれるんだよ?」


物語では、キスは重要です。キスで目覚めたり、キスで魔法が解けたり。キスでめでたしめでたし………


「結ばれるってどういうことですか?」


さっきの王子様の言い方。

女性との深い付き合いはあったけど、キスをしたことはなかった…キスをすると何かが結ばれる。

キスは初めてで、私とキスをした………


「王族が、子を成せるようになって一番に守るのは唇なんだ。もし間違って、不意の事故でも異性と唇が触れあってしまったら、その人と契りが結ばれる。つまり、結婚してしまうからね………」


ドーン!!!

えっ?契りが結ばれる………

つまり………


“呪い対象者を心から愛している乙女と正当なる王家の血が流れている未婚の王子が混じりあった証の液体を24時間以内に呪い対象者の唇に塗ること”


これってどんだけ意地悪な解呪方法なんでしょうか?

呪い対象者が女性の場合、その人を愛する乙女が出現する可能性の低さや未婚の王子と接触出来るかの難しさがあり………


もし、呪い対象者が男性だったら………

呪い対象者を愛する乙女は現れるかもしれない。だけど、キスをしたら、キスをした未婚の王子と結婚してしまい、純潔を選んでも、他に心から愛している人がいるのに、他の男性に初めてを捧げる………


おぉ、悲劇!!!


って結婚!?


私、王子様と結婚しちゃったの?



「不思議だと思わなかった?僕が君と誰かの念話に入り込んだり、君の居場所が分かったりしたの。」


それは、不思議に思いましたよ?


でも、なんかすごい魔法使いっぽい王子様だし、ハイスペック王子に不可能はないっていうか……それより


「取り消しは出来ないのですか?」


「アリガは取り消ししたいの?」


グェッ。王子様!ロックが締まってます。

緩めて下さい、お願いします。


「いえ、王子様に申し訳なくて。私は、一応、男爵令嬢という肩書きはあるかもしれませんが、本当はいつもはこんな格好をしているんです。さっき一緒にいたメイドさん達に今日はたまたま綺麗にしてもらっていただけで。貴族のマナーも知識もないんです。王子様に釣り合わなすぎて、申し訳ないんです。」


息が苦しいので、一気に喋りました………

あっ、ロックが緩みました。


「なんだ。そんなことか。大丈夫だよ。僕はねぇ………」


アリガのうなじに惚れたんだ。」


はいぃぃ?

う、うなじ?


「今まで、何人も女性を見てきて、可愛いなって思う子はいたけど、キスしたいなって思う子は居なかった。アリガが初めてなんだ。赤く染まるうなじを見て、初めて僕の物にしたいって思った。このうなじで色々想像しちゃったし。」


おうっ。


言いながら、うなじにチュッチュするの止めて下さい。

それに、うなじに惚れたと言われてもあまり、嬉しくないのですが………

うなじで色々想像って。

そこを聞くのは怖いので聞きませんが………


「でも、うなじだけじゃないよ。嘘ついて騙そうとしてるのに、こういう事に慣れていない表情とか、なんかアリガの仕草一つ一つに惹かれたんだ。」


顎を持ち上げられ、自然とキスをされました。深いやつです。

“液体”、さっきは口の中に溜めるのに必死でしたが、今はそんな必要はないし、顎を持ち上げられているので、自然と喉の奥に.……


「ほら、赤くなった。」


うなじをナデナデ………

口にチュッチュッ………


ストップ、ストップ、ストップ!


「王子様!まだ、話終わってないですし、いきなり、その、口付けるのは………ダメです。」


「でも、避けなかったよね?」


うっ。


顎を掴まれてからの動作はゆっくりでした。避けようと思えば避けられたスピードで………


「僕の心は君の物だよ?君の心が追い付いてなくても、結婚の取り消しは出来ないんだ。ゆっくり僕に堕ちておいで?」


もしかしたら、もう手遅れかもしれません。

なんだか黒い笑顔が素敵な笑顔に見えるような………


「それと、もう僕らは夫婦なんだ。僕の事は、ロンって呼んでね。」


いやいやいや。

夫婦って。

さっき知り合ったばっかりなのにキスしたら結婚って、どんだけファンタジーなんですか!

んっ、ファンタジーなのか?


まだ心がついてこれていません。


「それで、結局はどういう事なんだい?」


私は、ロンバ………いえ、ロン様に説明しました。

(念話はブロックされていて、私の思考は読めないはずなのに、“王子様”とか“ロンバードル様”って心の中で呼ぶたび、ロックがピクッと動くのはなぜなんでしょうか?)



説明………

ほとんど全部です。不思議な携帯の事。アリシナ様との関係。継母とのこと。ワインのこと。呪いの解呪方法。嘘の婚約話。言ってないのは、シンデレラという物語と前世の話。これも、アリシナ様に念話ブロックが解除されるか、ロン様の念話の力が強くなれば、知られると思うのですが、今は言っても、信じて貰えるか分かりません。頭がおかしいとか思われるのは嫌な気がしたので………





***

プレナーレ王国の城下町の魔の森につきました。

ロン様のお城を出て13時間です。

飛ばして15時間という話だったのですが、合流した隊長が飛ばしに飛ばして、2時間短縮です。

食べ物や飲み物は、ロン様が魔法で、○○ポケットから出すかのように出してくれました。



ロン様は、いい子に馬車に着いてきていた愛馬のシロちゃんに乗っています。白い馬だからシロ。本当にその名前だそうです。ロン様が名付け親だそうです。白い馬だからシロって………う、うーむ………


なぜ、ロン様が馬に乗っているのか………

はい、それは、私が乙女じゃなくなりそうになったからですね。

夜の密室………ヤバイです。


見かねたリーネさん達に、王子様ですが、追い出されました。

ずっと、御者役をしていたマリーさんも休憩が必要だったのは本当ですしね。マリーさんとリーネさんが交代で休憩しながら(休憩は馬車の中で)馬車を飛ばしてくれました。


クノイチ隊長のヴァイオレットさんはすごいです。休憩なしで、白馬を置いていこうとすごい勢いで馬を飛ばしてました。


一睡もせずに余裕で着いてくるロン様。馬達を魔法で回復させつつです。


凄すぎて怖いのですが?


私、あの人に嫁扱いされてますが?

この先不安になります。


………魔の森。割愛させて頂きます。

魔の森のギリギリまで、アリシナ様の騎士様達が迎えに来てくれていたのですが………

とても強そうな魔物を嬉々として率先して相手していたのは………ロン様です。


チラッと馬車の窓から覗きましたが、取り寄せたマイロングソードを振り回して、楽しそうでした。


魔法も出来て、剣も扱えて、王子で。

そうだ、イケメンってのも忘れてはいけませんでした。


優良物件。のハズなんですが………

女性に惚れるポイントがうなじって。

それってどうなんですかね?

欠点は、何となくですが………

『性格に難アリ』だと………


だから!そんな黒い笑顔のウインクはいりません。外を覗いていたら目が合いました。


すみません!

馬車の中で大人しくしています。




***

アリシナ様がいるお城にやってきました。入り組んだ森でも、アリシナ様の騎士の案内と全身鎧の騎士の猛進で1時間弱で着きました。


お城は………全く分かりません。

巨木と蔦に覆われて小さな山に見えます。しかも、蔦が絡み合っているせいで、正門も裏門も開かないそうです。

出入り出来るのは、押し開いた使用人口だけ。


ここからは馬車を降りて歩きます。


遂に、遂に!アリシナ様に会えるんです!


「なんか、僕に会うよりアリシナ姫に会う方が嬉しいみたいだね?」


冷たい冷気が真後ろから漂ってきます。


ーそりゃ、そうですー


なんて、考えてもいけません。


念話はブロックされているはずなのに、私の考えてる事は何故か筒抜けになるのですから。


でも、私の思考が筒抜けになるのなんて、アリシナ様で慣れているから平気ですよ~。


「んっ?キスする?」


真横に並んだロン様が、私を見下ろしながら、そう聞いてきました。


いや!そんな事考えていませんから!どうして、この場面でそうなるんですか?


ロン様はキスが気に入ったのか、隙あらばしてこようとします。


………やっぱり、この先も念話ブロックは続行でお願いしなきゃです。

今は全く考えていなかったけど、この先、ピンクな事を考えているのが、2人にバレたら………

恥ずかしさで死ぬる………


って、そんなことは置いといて!です。


今は何よりもアリシナ様です。





***

ベッドの上には………


黒にも見える深緑の長い髪が漂う中に、とてもとても綺麗で可愛くて可憐なお姫様が眠っていました。


100年もの眠りの呪いをかけられているようには見えません。


その閉じられた目は今にも開いて、私に笑いかけてくれそうです。


頬はピンクにうっすら色づき、唇は健康的な赤色です。


「アリシナ様………」


神々しいお姿。今すぐ傅きたい。


「………アリガ」


ハッ。勝手に膝が………

あまりにアリシナ様が素敵すぎて、トリップしてました。


えーっと。

『わたくしの初めてのキスを………』

いやいやいや。


多分、アリシナ様は本気だったと思います。

でも、王子様とキスしてどうなったか。

同性ですが、アリシナ様も王族ですし、何が起こるか分かりません。


それに、後ろから熱くて冷たい視線が背中に刺さって痛いのです。



ここは、人差し指で失礼いたします。


胸の間から、例の小瓶が入った小袋を取り出します。

この中の液体は、つまりはアレなんですが………呪いを解くためとはいっても、こんなの塗るなんて不敬罪では………


アリシナ様………

何度心の中で呼びかけてもお返事はありません。


失礼いたしますよ~




初めは何の変化もありませんでした。

まさかの失敗かと思ったのですが、


「ほら、足が……あと、周りを見てごらん。」


ロン様の言われるままにアリシナ様の足と周りを見ました。


先程まで動いていたリーナさん達がじっと座り込んでいて………


アリシナ様の腰までの辺りが薄いピンク色に光っています。その光が一気に頭まで広がり………



「シンデレラちゃん?」


可愛い声が聞こえました。


「アリシナ様!!」


目を開いたアリシナ様は、やっぱりとても可愛くて………


「そちらの方はどなた?」


えっ?

私よりロン様が気になるのですか?


「初めまして、アリシナ姫。アリガの夫のロンバートルです。」


「夫?どういうことですの?」


「初めてのキスをアリガとしたから、契りが交わされたのですよ。」


あれ?アリシナ様の表情が険しいものに………

ロン様に一目惚れって訳では?


「そちらの国でも、初めてのキスの相手が婚姻相手になるんですの?」


「ええ。大元はこちらのプレナーレ王国からだと聞いていますが、プレナーレ王国から輿入れがあった国では、この魔法が受け継がれているとか。」


「ああ。曾祖母の妹姫が嫁いでいらしたわね。」


アリシナ様が何かを考えるようにしています。


「シンデレラちゃんと契りを結ぶのはわたくしでしたのに………」


んっ?同性ですよ?

私達。


「シンデレラちゃんの為だったら、性転換でも何でも出来ますわ。それに、名前を呼ぶのもわたくしだけの………」


「それは、残念でしたね。アリガとは、もう僕が契りを交わし、結婚しました。」


それ、私の了承は………


ロン様の両手が肩に置かれました。アリシナ様とロン様の間に火花が見えるような気がします。


「シンデレラちゃん、こっちにいらっしゃい?」


はい、アリシナ様。

すぐに………


行きたいです。

行きたいのですが………


アリシナ様が私の目を見てきます。


「多大な犠牲を払って、わたくしを目覚めさせてくださって有難う存じます。シンデレラちゃんの為なら、その契り、わたくしの全力を持って切らせていただきますわ。」


私の周りで、アリシナ様の部屋の色んな物が舞っています。


「目覚めたら、力が使えなくなるかもしれないと思っていましたが、そんなことはありませんでしたわ。これなら、すぐにでも、魔女達の元へ行けそうですわね。」


ああ。超能力が使えるか試していたんですね。


物がスレスレに飛んでくるので、怒っているのかと思いました。


「アリガは、僕との結婚嫌じゃないよね?」


えっ、その。


物達が静かに元の場所に収まりました。


「そうだ。アリシナ姫は、僕らの子供と結婚すればいいんじゃない?」


「ま、まさか………シンデレラちゃん。もう子供が?」


アリシナ様が、ベッドから降りて立ち上がりました。


「い、いえ。違います!まだ子供が出来るようなことは………」


「まだ、ね。」


もう、ロン様!

どうして、アリシナ様を煽るように言うのですか?


「多分、子供はすぐに出来ると思うよ?それに、プレナーレ王国は今は亡き国になっているんだよ?僕達の子供と結婚したら、僕の国が援助して、プレナーレ王国復興の手助けも出来ると思うよ。もし、年の差が気になるなら。魔女って言ってたね。アリシナ姫にかかった眠りの魔法の文献さえあれば、僕が、短い期間だけ、また眠りの魔法をかけてあげられると思うよ。」


ロン様が私の肩を引いて後ろに下がらせようとします。


「フフッ。必死な男の人は見苦しくってよ?全てお断りいたしますわ。わたくしが欲しいのはシンデレラちゃんですもの。」


いつのまにか、両手をアリシナ様に握られていました。

そして、私を見つめながら、そう仰いました。


手はアリシナ様。

肩はロン様。


に、逃げ場が………


キョロキョロ………


「あ、リーネさん。」


私は、少し強引に包囲網を抜け出しました。


壁際に、絵のように、リーネさん達メイドさんが並んでいるのが見えたのです。


リーネさん達に走りよります。


「リーネさん、色々とありがとうございました!」


リーネさん達も、魔法が解けたようで、目が開いてます。

勝手に喋りはしないようですが、にっこり笑ってくれました。


「シンデレラちゃん?」


「アリガ?」


後ろから同時に声がかかりました。


うぅ。

この状況、どうすれば………








こうして、シンデレラは王子様とお姫様と末長く仲良く暮らしましたとさ。


めでたしめでたし…………



では終われないみたいです………








物語は終わりますけど、むしろ、私のお話はこれから始まるみたいです。


王子様とお姫様は仲良くないですし、私は知らない間に結婚してましたし、ハイスペック男子と女子のハイスペックパワーで幸せにならないはずがないのですが、一般ピーポーな私は、ついていけるかどうか………



それから………私の大事な携帯………


ずっと肌身離さず持っていましたよ!どこに?って。

海外に行った時、そこに隠せって言われている場所ですよ。


馬車の中で、そこを触ろうとして、一瞬ビクッとなったロン様が可笑しかったです。



実は………

またまた新たにメールが届いたんです。その相手は………


そのお話は………私の第二章でお話しますね。


それでは、また・・・





「ロン様。私は、国には帰らず、プレナーレ王国で生きて行こうと思っています。でも、ロン様は色々お仕事があるのではないですか?」

「深刻な顔で何を言うかと思ったら。大丈夫だよ。僕は空間を繋げる魔法が得意なんだ。少しだけ時間はかかるけど、僕の部屋と僕に与えられた客室を繋げるから、仕事の事は心配しなくて平気だよ。僕がアリガから離れる訳がないじゃないか。」

「それは、わたくしの父の許可がいるのではなくって?」

「やあ、アリシナ姫。もう、許可は取ってあるよ?僕がプレナーレ王国の復興に協力するって言ったらすぐに許可をくれたよ。」

「お、お父様………」






「シンデレラちゃん。今から、シンデレラちゃんの呼び方を変えますわ。」

「アリシナ様………」

「シンデレラちゃんは、アリガメルトって名前よね?アリガ………いいえ、それはダメだわ。メルちゃん?………そうね、アーちゃんって呼ぼうかしら?」

「はい。アリシナ様でしたら、なんとでも呼んでください。」

「アーちゃん。」

「アリシナ様。」

「アーちゃん♪」

「アリシナ様♪」

「……アリガ。名前で呼び始めたのは僕がはじめてなんだよね?」

「あっ、ロン様。」

「あら、ロンバートル様。今は二人の時間ですわ。邪魔しないで下さるかしら?」

「あ、あの。3人でお茶でもしませんか?」

「アーちゃん、今はわたくしとお茶をなさるのでしょう?」

「アリガ。僕はアリガと二人で過ごしたいな。」

「あ~…………仲良くは?」

「出来ないね。」

「出来ませんわ。」








「ねえ、アリガ?僕に話してないことって、何?」

「えっ?何の事ですか?」

「アリシナ姫が、知らないんですの?って言ってたんだけど。」

「話してないこと~?………?あっ。」

「ふ~ん。やっぱりあるんだ?」

「えっ、その。」

「話したくなるように、体に聞いてみようか?」

「ロンバートル様。乙女に無理強いはいけませんわ!」

「乙女?アリガは、もう………」

「あわわわわ………」

「えっ?それは聞いていませんわ。」

「アリシナ姫もアリガの事で知らない事があるんですね。」

「アーちゃん?やっぱり念話のロック解除いたしましょうか?」

「そ、それだけは………それだけは止めて下さい~。わ、私にもプライバシーというものが………」

「じゃあ、洗いざらい話して………くれるよね?(くださいまし)」

「あ~う~。」


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