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5話


「そうだ、君、咽渇いていたんだよね?」


しんみりとした空気を変える為でしょうか。

ロンバードル様が唐突にそんな事を言い出しました。


「えっ?」


ロンバードル様が唐突に言った言葉に、私はキョトン顔です。


「フフっ、その顔も可愛いね。」


ロンバードル様は、私の両手の間から、大きな手を抜いて、また頬を撫でていきます。

その手が下に下がったかと思うと、次の瞬間には、王子様の手の中に、透明の液体の入ったグラスが握られていました。(隣に座られた時から、王子様のもう一方の手はずっと私の腰です。いつのまにか、当たり前のように腰に手が置かれてます。これって普通の事ですか?男女で座る時の常識ですか?もう、自然過ぎて、どう突っ込んでいいのか、突っ込んでいいものなのか判断出来ません)前世の手品のようでした。えっ?どこから出したんですか?


「僕の部屋にあったお水だよ。心配しなくても、毒なんて入ってないからね。」


どこから出したのかビックリして、そのまま王子様を見つめていると、冗談っぽくそう言って、そのままグラスに口をつけ、中身を飲んで見せて下さいました。


「えっと…その、吃驚しました。これも魔法ですか?毒なんて、そんな…そんな事は考えてもみませんでしたわ。」


私は、グラスを差し出す王子様からグラスを受け取りました。


「そう?でも、駄目だよ?魔法で出されたものなんて口にしたら。そういう怪しいものは、一度は疑ってみなきゃね。」


やんわりと注意されてしまいました。

そう言われてしまいますと、このお水を飲むのを少し、躊躇してしまいますが……


先程、冗談めかしてはいましたが、自ら一口飲んで見せてくれました。あれは毒見も兼ねていたのですね。

私は、下品には見えないように、ゆっくりグラスの中身全てを飲み干します。


「そんなに咽が渇いていたのかい?もう一杯必要かな?」


ロンバードル様が、そうおっしゃるので、慌てて要らない旨を伝えます。


「あ、あの、それより…本当に長くお引き止めして頂きました。申し訳ございません。足の治療もドレスも…なんとお礼を申し上げればいいのか…」


今、私の頭の中は………

どうやってこの場を去るかでに頭がいっぱいです。なぜなら……


“特定の物を特定の場所から取り寄せる”

この魔法を杖も詠唱もなしで出来るとは聞いたことがないのです。

アリシナ様は、念力を使ってお城の別の場所から何でも取り寄せることが出来ると思います。ただし、その場合、移動中の物が目に見えると思います。(高速移動過ぎて、目で捉えられない時はあるかもしれませんが)


王子様の魔法技術、高すぎではありませんか?


それに、この部屋に入ってから、アリシナ様の声が聞こえません。もしかして…王子様の魔法と何か関係があるのではないでしょうか?


アリシナ様のフォローがないとこんなにも不安で仕方なくなるなんて…

私が頑張る!と宣言しましたが、結局はアリシナ様を頼りにしていたのです。

目的は達成しておりません………

でも、ロンバードル様が時々見せる、“捕食者”のような目がとても、気になります。


親切にして下さってる方を前に失礼ですね…

アリシナ様と念話が通じないので、必要以上に不安になっているだけかも知れません。


しかし………

正直、何も分かっていませんでした。

男性の免疫がない私にはハードルが高すぎる事を。この短期間で、心臓がいくつ壊れるような体験をしたか……

今は取り敢えず、この場を去り、もう1度体制を整えるのが良いのではないでしょうか?

未婚の王子様はロンバードル様一人ではないと思いますし………

「今、別の事考えてなかった?」


ロンバードル様の笑顔が恐いです。目が笑ってないのです。

私は、今、感謝感激してます!!って顔でロンバードル様を見つめていたと思うのです。

それなのに、私の思考に被せるような、ロンバードル様の質問です。

“別の事”が違う言葉に聞こえたのは幻聴でしょうか?

ほ、他の男の人の事なんて考えていませんよ?他の人はいませんから………まだ…


「ねえ、さっき言ってた“絶対達成出来ない夢”って何?」


私がやんわりと腰の位置にあるロンバードル様の手を外そうとしている所に、この質問がきました。

手を離してくれないと立ち上がることは出来ません。ちゃんとしたお辞儀も出来ませんし、退室も出来ないのです。



アリシナ様。どうしたらいいと思いますか?

最終目的に繋がりそうな“振り”を王子様がして下さいました。

………アリシナ様のお応えはありません。


……………。

ここは………行くしかありません。

アリシナ様にやります!と宣言したのは私です。メイドさん達が綺麗にしてくれたお蔭で、今ここにいるんだと思います。


もし、断られても、恥をかいて終わるだけです。駄目でもともと。言うだけただ。女は度胸!!


「あ、あの………」


って言葉が出てきません。

足が、ガクガクのブルブルです。


「なんだい?ゆっくりでいいから教えて欲しいな。」


握りしめていたグラスがいつのまにか、ロンバードル様の片手に変わっていました。

もう一方の手は…はい、もはや定位置です。

さっき、外そうとしたせいか、逆にロックが強まっています。


「あの、私、もうすぐ結婚するんです。」


突然の結婚発言に、ロンバードル様が固まりました。驚かれたようです。それと同時にロックが解除……されませんでした。ますます強固になり、密着度がさらに上がりました。


嘘です。嘘ですよ!


と、告白してしまいそうです。

それをすると話が進まないので、一気に嘘設定を続けます。


私は、王子様の綺麗な喉仏を見つめながら言いました。強い視線を感じましたが、目を見つめる事は出来ません。全てを見抜かれそうな気がするのです。


「あ、相手は、私は知らない方なのですが、義母に決められてしまって。そ、それで相手の方の年齢が私とは大分離れていることを知りまして…あっ……もちろん、相手の方は素敵な方だとは思います。だけど、こ、子供の時から夢がありまして………は、初めてのく、く、く」


「ん?」


ロンバードル様は、優しく続きを促してくれました。


「………………は、初めての口づけはお慕いしている方としたいと。ずっとそう思っておりました。で、でも、それは幼稚な夢だと分かっております。そ、それに、私分かったんです。も、もう、一目会えただけで、お話できただけで夢が叶ったのと一緒だと。絶対達成出来ないなんて……その…変な事を言ってしまいました。だから、あの………」


「結婚…結婚ねぇ…。それ、本当なの?」


疑い…入りました。もう勢いです。


「本当かどうか分かりませんが、お義母様に言われたのです。この話は3年前から言われているので、わたくしが、成人を迎え、本当になったのだと思います。」


「ふーん、そっか。それで、君の夢は、僕とキスするのが夢だってこと?」


ロンバードル様は何かを思案されている顔をしております。

私は、聞かれたので、また俯くことで返事を示しました。


「キス。キスねぇ…僕とキスをするってどうゆう意味が分かってる?」


ロンバードル様が何かを探るように、真剣な表情で私を見つめてきました。


意味?意味って?

キスの意味?王子様とするキス?


「ま、まさか………不敬罪になる…とかですか?」


「ッフ、アハハッ。不敬罪って…キスしたら不敬罪って、そんなことはないよ。本当に知らないの?」


王子様が、今日一番の笑顔で笑っていらっしゃいます。


すっとんきょうな答えを返したとは思いますが、そんなに笑わなくても………恥ずかしさで泣いてしまいそうです。


もう、無理なら無理って早く断って下さいまし。

アリシナ様………目標は達成出来そうにありません。力足らずで申し訳ありません。


「いいよ。」


ほら、やっぱりです。

やっぱりお断りの………えっ?


「キス、しようか?」


え~~~~~っ!?

いいんですか?

キスに何か重要な意味があるんじゃないんですか?


えっ、いや、私は………やっぱり……


ッチュ。


………えっ、いま………




って!!!流れおかしくないですかぁ?

私の返事➡私の心の準備➡キスをする雰囲気………どこに行ったんですかぁぁ?


もう、私はパニックです。

ロンバードル様の両手が私の頬を押さえています。

あっ、ロンバードル様の左手さん、お久し振りですねっ。私の腰から引っ付いて離れなくなってしまったのではないかと思っておりましたよ。


「大丈夫?そろそろ時間みたいだから。急にごめんね?」


そう言われてみれば、今いるお部屋の扉前が騒がしいような気がします。

でも、それどころじゃありません。

さっきのはもしかしたら、幻かも………


「アリガって名前で呼んでもいい?」


王子様が私の頬を手で挟んだまま、私の目を見つめて聞いてきました。

雰囲気が、めちゃくちゃ甘いです。

幻ではないようです。

これが、大人の色気ってやつですか?


「は、い。」


「突然して驚いた?もう1回ちゃんとしてもいい?」


ロンバードル様が親指で、私の唇をなぞります。雰囲気にのまれ、私はそっと目を閉じました。




……………おうっ。

今、一瞬記憶飛んでました。

もう一言で言うなら、“凄かった”です。

体に力が入らず、ロンバードル様の腕の中でへにゃへにゃになっています。


バタ、バタッ、バタン!!


「こちらに、ロンバードル様がいらっしゃるとか、ロンバ………何していらっしゃるのっ!!!?」


急に扉が開き、誰か女性が入ってきたようです。


突然入ってきた女性の方にロンバードル様の気が逸れた、その一瞬に、胸の間から小瓶を取り出し、小さなコルク栓を外して、その中に“液体”を入れます。後はこぼさないように慎重に、胸の間に戻しながら、コルク栓の蓋を小瓶に押し込みました。


「へー、それが目的?」


耳のすぐ側で、ロンバードル様の声がしました。

ビクッと体が跳ねます。

あれっ?女性の方見てましたよね?

バレバレでしたか?


「それ何に使うか、ちゃんと教えてもらわないとね。」


そう言って、ニコッと笑って、ロンバードル様が、ポニョんっと、私の胸を押しました。


………メーデーメーデー。

緊急事態発生です!

アリシナ様、応答願います!


緊急事態!ポニョんっ、ポニョんっとロンバードル様が、私の胸で遊んでおられます!


って違います!

王子様には、私が怪しいとバレていたみたいです。


メーデー…アリシナ様ぁ、どうしたんですかぁ?


先程入ってきた女性は、何かの壁に阻まれて、こちらに近づけないようです。声を出されているみたいですが、それすらも聞こえません。


王子様は笑っておられます。

目もちゃんと笑っております。

でも、その笑顔がとても怖いです。


(……………)

(……………っちゃ…………ん)

(シンデレラちゃんっ!!やっと繋がりましたわ!大丈夫ですか?)


アリシナ様ぁぁぁ。

アリシナ様、キターッ!!

大丈夫じゃないですぅ


アリシナ様!アリシナ様!アリシナ様!助けて下さいまし!


(どうしたんですの!?なにか酷いことされましたの!?)


酷いこと?酷いことは………されていませんね。足の治療をしてくれて、ドレスの染み抜きまでしてくれた、優しい王子様を騙したのは私の方です。


優しいだけの王子様ではなかったみたいですが………


ロンバードル様は何かを考えるような顔をしたまま、指で私の胸をポニョんポニョんしています。私は小瓶を取られないように必死に胸と胸の間を押さえます。(実は、メイドさんに盛りに盛られてすごい谷間が出来ています。)

いつのまにか王子様はソファーから立ち上がっていて、片手は私の肩を押さえていて、片手は私の胸を押している状態です。

その姿のまま、無表情に近い顔で私を見下ろしています。

いえ、正確には、私の胸を見つめています。


や、やっぱり、怖いっ!

例え、私が悪かろうとも、この状況、怖すぎます。


扉の方には、どこかの令嬢様以外にも、どんどん人が増えてきております。


(酷いことはされてませんけど、もう無理です。アリシナ様助けて下さいまし)


アリシナ様は念話も出来ますし、自分のテリトリーであれば、隅々まで見透す力がありますが、遠く離れたこの土地を視ることはまだ出来ないと思います。ですので、周りの様子をお伝えする役は私です。


………私なのですが、どうお伝えすればいいのか……


(分かりましたわ。今から憑依しますわ!同意して下さいまし!)


アリシナ様がそう言ってすぐに、私の中に何かが入ってきます。

それはとても知ってる気配。

“同意”をどうすればいいのか分かりませんが、“アリシナ様どうぞ”と念じてみました。


(憑依成功ですわ!逃げますわよ。)

(逃がすと思う?)


っ!


(やっと繋がったよ。初めまして、誰かさん。君は誰かな?)


ピョッ!!


この声は………


(僕だよ。さっきから助けてって酷いなぁ………逃がさないよ?)


私の胸を遊んでいた手で、私の顎を掴み、ロンバードル様が私の目を覗きこんできます。


(もうアリガは僕のものなんだからね?)

(なんなのですか?あなたは!この子はわたくしのですわよ!勝手に名前を呼ばないで頂きたいわ!)


ここで、

いいえ!私は誰のものでもありません!私は私のものです。

とは言いませんよ?


私はアリシナ様が望まれるなら、アリシナ様のもので構いません。ロンバードル様は………まだ、よく分かりません。


(アリガがよく分からなくても、もう君は僕のだよ。それに、勝手に名前呼びしているわけではないよね?アリガにちゃんと許可を貰ってるよね?)


ロンバードル様も私の思考に返事なさるんですね。

私の考えていることが筒抜けになるのは通常仕様なのでしょうか?


(フフフッ、もう会うこともないのですから、この子を名前で呼んだのは許してさしあげますわ。では、ごきげんよう……………)


グアンッと頭が揺れ、暗闇が襲ってきました。

目を開けると………


(あーあ。ホントに逃げられちゃった。)


……動じた様子のないロンバードル様の声が頭の中でしました。


ブツンッ。と念話が切れたいつものかんじがします。


(ハァッ…ハァ、ハッ…今…念話は通じないように…しま…したわ…………)


アリシナ様のお声がとても辛そうです。


ー初めて憑依とテレポートを使いましたの。同時に使って少し無理したみたいですわ。もう意識を保っていられませんの。わたくしのクノイチにあとは任せております。…わたくしの部屋でお待ちしておりますわ………ー


憑依のおかげでしょうか?

アリシナ様の思考が私の頭に直接流れてきました。


私を逃がす為に、無理をなされたみたいです。

すぐに、アリシナ様が抜けていく感覚がしました。


アリシナ様、有難うございました。

色々話したい事、あります。


だから、待っていて下さいね………

例の物は手に入れましたよ~


……ロンバードル様………逃げてしまったのですから、もう会えませんよね………



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