3-02_芳沢弘樹という男
ワイは芳沢 弘樹というもんや。
職業はデジタル機器の回路設計を行っておる。
毎日、朝9時に出社し、ワイの机で電子回路とにらめっこ。そんで定時過ぎても終電ギリギリまで仕事する生活を続けてきとった。
こんな生活、ワイが学生時代受けてきたことに比べりゃ大したもんや。
ワイの家庭環境や俗に言うキョロ充とやらの喋り方などが原因で虐められたり、うざがられたりしたが別にワイは全然気にしとらん。だって人間はそういうもんやろ。普通と違っていたら避けられたり虐げられたるもんや。
だけどワイは普通が嫌いや。だから普通のやつとは違う生き方をしていく。
…そう思いながら今まで過ごしていたはずなんやが。
なんでかワイはビルの屋上で手すりを離したら、すぐにでも落ちそうなギリギリな所へ立っておる。なんでやろうな…。
そうか…。ワイはこんな弱かったやな思ったより…。初めて信頼できる相手に裏切られたからか…。
ワイがこの会社に入社してよく面倒を見てくれた先輩がおった。
だんだん仕事に慣れてきてある時その先輩と、ある機器の開発を取り組むことになった。そんでワイがなんか張り切って取り組んだら、開発が上手くいって課長から褒めてくれとった。そん時から先輩と仕事するようになってお互いアドバイスをし合いながら支え合って仕事して初めて信頼できると思えて楽しいと思えただがや…。
ある時、たまたま一人で外食しに出かけようと思っとうとやが、財布を忘れてのワイの机まで戻るしとうたら、あの先輩が他の人と喋ってるのが聞こうての、そんで偶然聞こえたのが、
「マジで芳沢の野郎は喋り方がムカつくわ~、なんであんな変人が仕事が出来るだろうな~普通の人とは違うし障がい者じゃね?」
という言葉にワイの頭のなかで何かが吹っ切れた気がしたわ、そーしたらいつの間にかこんな所にいとる。
こんなの学生時代で大体慣れてきていたもんやのにな…。ただ一般人が嫉妬しとるもんや気にする必要は無いんやがな。ワイだけが勝手に信頼しとっただやろうかな…。
はぁ…。
…何やっとるやろうなワイは…。自殺なんてする気無いんやがな。
さて、頭の中で色々と愚痴っとたら勝手に冷えとし戻るか。
そう思いながら、足の踏み場が少ない危険な所から登るように手すりに足を掛けようとした瞬間。
「あっ、あかん。落ちるはこれ。」
足が滑り体勢を崩し、身体が空中へ投げ出された。
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああ」
そしてそのまま芳沢弘樹という男は高層ビルから下へと転落していくのであった。
この瞬間、彼を見たものは居なかったのだった。




