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スイッチ・オフ  作者: 南戸由華
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4/5

スイッチ・オフ-4-

いよいよ核心に入ります。

一体、主人公はどんな答えを見つけるのでしょう。

 

「人の話に興味が無いっていうか…」


 私は先ほどの話を少しだけ修正する。


「私、人の自慢話って苦手なんだ。羨ましく思う気持ちもあるんだけど、それ以上に、羨ましいことが悔しくて、自慢なんかしないでって思っちゃう。劣等感かな…多分。」


 お腹が空いていた私はそう言いながら、サンドイッチに手を伸ばした。一口食べると、シャキシャキのレタスと甘酸っぱいトマトの、さっぱりした味が口の中に広がる。


 私の話を聞きながら、コージもサンドイッチを取り、食べ始めた。

 彼が食べているのは玉子サンドのようだ。サンドイッチは2人分で、全種類2つづつあるみたいだ。玉子ももう1つあるので、次に取ろうと私は思った。


 食べながら少し考えて、彼は答えた。


「それは、みんな一緒なんじゃないかな。遠まわしで自慢されても、嫌な時は嫌だし。それに対して張り合おうとするのもなんか悔しいんだよね。」


 私はうんうんと頷いて同意を示す。

 口に入っていたものを飲み込むと、彼は付け加えた。


「でもさ、自慢したくなるのが人間じゃん。俺も、相手にとっては面白くないだろうって分かってても、つい自慢したくなる時あるもん。」


「…そうかも。」


 私はたまに自分が何かを人に自慢している時の、高揚感のような、快感のような、なんとも言えない気持ちを思い出す。


 じゃあ、どうしたらいいんだろう。自慢することが仕方ないのなら、自慢される側は、どう不快感を拭えばいいのだろう。

 ちょっとしたことでも自慢に捉えてしまう、ひねくれた私はどうしたらいいのだろう。


 私は悶々としながら、黙ってサンドイッチを食べる。

 コージはそんな私を見て、微笑みながら言った。


「すごく、当たり前のことで悩んでるんだね。俺と一緒だ。俺もすごく考えたから。」


「…考えて、何か答えは出た?」


 彼は、手に持った玉子サンドを食べきって、口を開いた。


「何も。前にマスターに聞いたんだけど、気にするなとしか言われなかった。でも、どうしても気になっちゃうから、それは解決にはならないよね。」


 私はうなずいて小さくため息をついた。全く気にしないでいられるなら、こんなに苦労はしない。


「あ、でもっ」


 私がため息をついたのを見て、コージが慌てて付け足す。


「最近、思うんだ。人の自慢話を不快に思うのは、正しい反応なんだなって。」


「え?」


 私は思わず首をかしげる。


 正しい反応?

 自分も不快だし、対応によっては相手を不快にさせてしまうのに?


「自慢されると、どうしても、自分もそうなりたいって張り合う気持ちが少しでも出て来るじゃん?」


 私は頷く。

 そうだ。

 私の場合、張り合おうという気持ちが出てきてしまうが、それが悔しいときもあって、張合うのか、張り合わないのか、どっちつかずの状態になるのだ。


 SNSにしても、友人の話にしても。


 コージはまた慎重に言葉を選びながら、ぽつぽつと言葉をつないでいく。


「生物学的…っていうとなんか仰々しいけど、人がそういう気持ちになるのって、…なんていうかな、そう、自分が幸せになるためなのかなって思うんだ。」


 幸せ?

 疑問に思いながら、レタストマトサンドの最後の一口を飲み込んだ。

 意外なワードに私は思わず問い返す。


「自慢する方の幸せじゃなくて?」


「うん。だってさ」


 彼が言葉を切り、私から目をそらして大皿の方を見ると、玉子サンドを手に取った。最後の一つだ。

 あ、と私は言った。


「私それ食べたかったのに!」


「へへ、俺、玉子好きなんだよね。」


 にっこり笑って彼はぱくりとかぶりつく。美味しそうな表情をする彼を、私は敗北した気持ちで睨むと、


「じゃあ私、もう1個これ食べる。美味しかったもん。」


 と、もう一つのレタストマトのサンドを手に取った。


「あ、俺もそれ好きなのに…」


 残念そうな顔をする彼を無視し、私は一口ぱくりと食べる。


「ね、今張り合ってやり返したでしょ?」


 彼が、少しだけ得意そうに言った。

 一瞬何のことか分からず、少し考えてしまった。

 あぁ、張り合う気持ちが正しいって話だったか。


「君は今、玉子サンドを食べる俺を羨ましいって思って、張り合ってレタストマトサンドを食べたじゃん。結果、君は幸せになったよね?あんまり、うまい例えじゃないかもしれないけど…」


 なんとなく、彼が言いたいことが分かる気がした。私は確かに、やり返してやったという優越感と、サンドイッチの美味しさとで幸せだと感じている。


「そうやってさ、人の幸せ自慢に張り合って、自分も幸せになろうと努力していって…人はそうして互いに幸せを高めあってくんじゃないかな?」


「…なるほど。」


 そんな考え方はしたことがなかった。


 張り合う気持ちが自然なのだ。それに悔しさも、嫌悪感を感じる必要は無い。思うがままに張り合うことで、自分も幸せになれるということだ。


「例えば、SNSで投稿されてるリア充写真とか、友達の彼氏自慢や、自分はいい人ですよっていう遠まわしな自慢に対して…」


 私は今まで深刻に悩んだ身近な例を挙げる。コージは「自分はいい人ですよ自慢」というワードに、「いるいる」とクスっと笑った。


「自分も彼氏を作ろうとしたり、自分の人格を高めようって努力したり…?」


「そだね。その結果、君は幸せに向かうじゃん?」


「そうかも…。それって…私みたいにひねくれてて、何でも自慢に捉えちゃう人でもそうかな?」


 自分がひねくれているということを人に言うのは気が引けたが、どうしても、今聞きたかった。彼は、何と答えるだろうか。

 彼は少し考えて言った。


「…確かに、何でも自慢に捉えるってのは少しひねくれてるね。」


 彼が私の自虐を、「そんなことないよ」と無責任に否定するのではなく、真っ直ぐ受け止めてくれたことに、なんとも言えない安心感が溢れてきた。そんな彼だから、彼の言葉は私の心にすんなり入って来るのだろうか。

 そんなことを思いながら、彼の言葉に耳を傾ける。


「でも、それって、人の幸せにより敏感なんだとも言えるんじゃないかな。小さいことでも自慢だと思って張り合っていけば、小さなことから幸せは掴めていくんじゃない?」


「そう…かな…。」


 こんなひねくれた私でも幸せになれるのだろうか。


 別に充実した日々なんかいらない、彼氏なんかいらない、いい人になんかならなくていい、と自分に言い聞かせながら、私は人の幸せと張り合うことを今まで放棄していた。


 でも本当は、心の中で人の幸せを羨んでいた。

 そして、張り合わないことが、自分を幸福から遠ざけていることにもどこかで気づいていたんだ。


 だから、心の雲が晴れることがなかったのか。

 自分で掴んだ幸せでしか晴らす事はできないのに、それを分かった上で、ひねくれた私はその幸せを掴む努力を放棄していたのだから。



読んでいただきありがとうございます。

次回で完結です。

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