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スイッチ・オフ  作者: 南戸由華
3/5

スイッチ・オフ-3-

コーヒーが飲みたくなりますね。

ちなみに、主人公が読んでいる本は、私が大好きな、小野不由美さんの「十二国記」シリーズを想定してます。

特に話の進行には関係ありませんが。笑

 

 私は大好きな物語を目で追っていく。

 ファンタジーは本当に良い。読んでいる間は本当に異世界に旅立っている気がするのだ。


 私は煩わしい現実世界から、確かに逃避していた。


 ふと顔を上げ、カフェの壁を見ると、シンプルだが、なんとも言えない趣を醸し出す壁時計が目に入った。


 もう12時半か。いつもならとっくに店を出ている時間だが、今日はもういいんだ。

 誰に許可を取ったわけでもない、ただのサボタージュではあるが。


 お腹が空いたな…と考えていると、


「今日はまだ出なくていいの?」


 すぐそばから声がした。

 不意打ちの声かけに、思わずびっくりする。

 声の方を見ると、見知らぬ若い青年ーーいや、このカフェの爽やかなアルバイト君だった。私服だったので一瞬分からなかった。


「う、うん。今日は学校…休みだから。」


 動揺しながら、おどおどと嘘をつく。

 そうなんだ、と言いながら、彼がテーブルを挟んで私の前に座った。

 白いニットの中に赤チェックのシャツを来ている。なんだか清潔感のある服装だった。


「もしかして学生さん?ちなみに何年生?」


「…大学2年。」


「え、俺と一緒じゃん!意外!年上かと思った。」


 年上だと思う相手に一言目でタメ口使うのかよ、と心の中で少しツッコミを入れたが、わざわざそれを口に出して注意するほど、彼には不快感を感じなかった。


 不思議だ。初めて話すのに。


「あなたも、今日学校休みなの?」


 ふと気になったので聞いてみる。


「あー…」


 彼は一瞬目線を店長の方に向けて、小声で答えた。


「今日はサボり。」


 ニコッと悪びれなく笑う顔に思わず私もクスっと笑う。

 きっと学校サボると店長に何か言われるのだろう。


「実は…私も。」


「やっぱり?そうかと思った。」


 2人で小声でクスクスと笑う。


「もう着替えてるってことは上がりなの?」


「うん、いつも午後から授業って日に、午前中に入るんだ。ほんとは今日も午後から授業あるんだけど、さっき、もういいかなって思っちゃって。」


「どうして?」


 言った後に、自分も聞かれたらまずいことに気づいて少し動揺したが、それ以上に次の彼の言葉に動揺してしまった。


「…君がいたから。」


「!?」


 思わずコーヒーカップを倒してしまった。

 中身を飲み切っていた事が幸いだ。


「あ、違う違う。変な意味じゃなくって!」


 明らかに動揺している私の様子を見た彼は、慌てて訂正しながら軽く腰を上げた。彼の顔が少し赤くなっているのが分かる。


 彼は身を乗り出すと、倒れた私のコーヒーカップに手に取った。


「おかわり、いる?」


「え、いいの?」


「もちろん。」


 彼はまたニコッと笑ってカウンターの方に顔を向けて少し大きな声で言った。


「マスター!ブレンド一杯お願い。あと、サンドイッチも。この子の分もね。」


 食器を拭いていたダンディなマスターが顔をあげる。


「そりゃいいが…コージ、お前、まだ大学に行かなくていいのか?」


 マスターは少し疑い深そうに彼を見る。


「今日は休講だから、講義ないんだよ。要するに休み。ほら、お客さんいるんだから早くね。」


 コージはお得意の爽やかな笑顔で切り返した。

 マスターはしぶしぶキッチンに向かった。


「マスターと仲いいんだね。」


 私は2人のやり取りを微笑ましく見ていた。コージが少し照れながら答える。


「もうずっとここでバイトしてるからね。俺も時々コーヒー淹れるんだ。さすがにマスターにはかなわないけど。実は、さっき君が飲んだのも俺が淹れたんだ。」


「え、そうなの?」


 さっきのコーヒーの味を思い出す。

 …あぁ、すごく、


「すごく美味しかったよ」


「お、そう言ってもらえると嬉しいね。」


 コージがまた笑う。

 彼が笑うとつられて自分も笑ってしまうのが分かった。


 笑う度に不純物がどこかへ消えてゆく。


「で、さっきの話なんだけど、」


 コージがまた私の目を真っ直ぐ見た。

 再び私に動揺が訪れる。


「え、えと、私がいたからって…どういう意味?」


 おずおずと聞いてみる。


「君、よくここに来るよね?友達と来る時もあるし、1人で来る時もあるし。…ここ、客少ないからさ、印象に残ってたんだ。」


 最後はマスターに聞こえないように小声で彼は言った。

 私はこくこくとうなずく。やっぱり覚えられてたか。


「で、なんか…俺と…なんというか、似てる気がして…いつか話したいと思ってたんだよ。」


 コージが一生懸命言葉を選びながら話すのが分かる。

 似ている?どういう意味だろう。

 私は黙って彼の言葉の続きを待った。


「君、いつも友達の話をつまらないと思って聞いてるだろ?もしそうじゃなかったら申し訳ないんだけど…もし、そうだとしたら、俺と一緒だなって思って。」


「え…」


 私は驚いて返事に困った。

 彼の言う通りだ。私はいつもつまらない思いで友人の話を聞いている。でも、顔には出ないように気を遣っているはずだった。


「どうして分かるの?私、つまらなそうな顔してるかな?傍から見て分かっちゃう?」


 鼓動が速くなるのを感じながら彼に問う。その感覚は少し、高揚感に似ていた。


「いや、顔には出てないと思うけど…なんか、なんとなく分かった。俺も似たようなことしてるし。」


 高揚感が高まる。これは、同類を見つけた喜びからだろうか。


「つまらないのに、人の話なんて興味ないのに、その心に嘘をついて笑っちゃう。」


 コージは今までとは少し違うーー

 寂しい笑顔でそう言った。


「すごく分かるよ。それ。私も同じ。人に興味が持てないってやっぱりダメかな?私って…冷たい人間かな?」


 今まで、誰かに問いたかったことを初めて話したコージに問いかける。


 彼は少し考え、静かに言った。


「正直に言うと、冷たいんだろうね。周りからはそう思われると思う。でも、しょうがないじゃん?心の中ではそう思ってしまうんだから。考え方を変えるってすごく難しいよ。だから、俺達は嘘をつくしかないんだ。」


 彼はもう笑っていなかった。

 顔に少し陰りがある。


 どうしようもない自分を嫌悪する顔。

 私と同じ顔。


 そんな私達の目の前に、ホカホカと湯気が立つコーヒーと、大皿に色鮮やかに盛り付けられたサンドイッチがやってきた。


 ぱっと顔を上げると、マスターがにっこり笑っている。


「ごゆっくりどうぞ。よければこいつの話し相手になってやってください。こいつは馴れ馴れしいが、悪いヤツではないから。」


「あ、は、はい。」


 私は慌てて笑って頷く。


 コージも笑顔で、


「これ、マスターの奢りな。」


 と言った。


 え、いいのか?と思ってマスターの方を見ると彼は少しだけ困ったように笑って、


「ちゃんと働けよ。」


 とコージに言うと、またカウンターに戻って行った。




読んでいただきありがとうございます。

次回からいよいよこの話のテーマに入っていきます。

この話のテーマは、ひねくれた主人公の心情の変化だと思います。

私個人の考えが沢山出てきますが、あくまで一つの意見だとお考えください。

よろしければ、感想、ご意見を頂けたら幸いです。

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