スイッチ・オフ-3-
コーヒーが飲みたくなりますね。
ちなみに、主人公が読んでいる本は、私が大好きな、小野不由美さんの「十二国記」シリーズを想定してます。
特に話の進行には関係ありませんが。笑
私は大好きな物語を目で追っていく。
ファンタジーは本当に良い。読んでいる間は本当に異世界に旅立っている気がするのだ。
私は煩わしい現実世界から、確かに逃避していた。
ふと顔を上げ、カフェの壁を見ると、シンプルだが、なんとも言えない趣を醸し出す壁時計が目に入った。
もう12時半か。いつもならとっくに店を出ている時間だが、今日はもういいんだ。
誰に許可を取ったわけでもない、ただのサボタージュではあるが。
お腹が空いたな…と考えていると、
「今日はまだ出なくていいの?」
すぐそばから声がした。
不意打ちの声かけに、思わずびっくりする。
声の方を見ると、見知らぬ若い青年ーーいや、このカフェの爽やかなアルバイト君だった。私服だったので一瞬分からなかった。
「う、うん。今日は学校…休みだから。」
動揺しながら、おどおどと嘘をつく。
そうなんだ、と言いながら、彼がテーブルを挟んで私の前に座った。
白いニットの中に赤チェックのシャツを来ている。なんだか清潔感のある服装だった。
「もしかして学生さん?ちなみに何年生?」
「…大学2年。」
「え、俺と一緒じゃん!意外!年上かと思った。」
年上だと思う相手に一言目でタメ口使うのかよ、と心の中で少しツッコミを入れたが、わざわざそれを口に出して注意するほど、彼には不快感を感じなかった。
不思議だ。初めて話すのに。
「あなたも、今日学校休みなの?」
ふと気になったので聞いてみる。
「あー…」
彼は一瞬目線を店長の方に向けて、小声で答えた。
「今日はサボり。」
ニコッと悪びれなく笑う顔に思わず私もクスっと笑う。
きっと学校サボると店長に何か言われるのだろう。
「実は…私も。」
「やっぱり?そうかと思った。」
2人で小声でクスクスと笑う。
「もう着替えてるってことは上がりなの?」
「うん、いつも午後から授業って日に、午前中に入るんだ。ほんとは今日も午後から授業あるんだけど、さっき、もういいかなって思っちゃって。」
「どうして?」
言った後に、自分も聞かれたらまずいことに気づいて少し動揺したが、それ以上に次の彼の言葉に動揺してしまった。
「…君がいたから。」
「!?」
思わずコーヒーカップを倒してしまった。
中身を飲み切っていた事が幸いだ。
「あ、違う違う。変な意味じゃなくって!」
明らかに動揺している私の様子を見た彼は、慌てて訂正しながら軽く腰を上げた。彼の顔が少し赤くなっているのが分かる。
彼は身を乗り出すと、倒れた私のコーヒーカップに手に取った。
「おかわり、いる?」
「え、いいの?」
「もちろん。」
彼はまたニコッと笑ってカウンターの方に顔を向けて少し大きな声で言った。
「マスター!ブレンド一杯お願い。あと、サンドイッチも。この子の分もね。」
食器を拭いていたダンディなマスターが顔をあげる。
「そりゃいいが…コージ、お前、まだ大学に行かなくていいのか?」
マスターは少し疑い深そうに彼を見る。
「今日は休講だから、講義ないんだよ。要するに休み。ほら、お客さんいるんだから早くね。」
コージはお得意の爽やかな笑顔で切り返した。
マスターはしぶしぶキッチンに向かった。
「マスターと仲いいんだね。」
私は2人のやり取りを微笑ましく見ていた。コージが少し照れながら答える。
「もうずっとここでバイトしてるからね。俺も時々コーヒー淹れるんだ。さすがにマスターにはかなわないけど。実は、さっき君が飲んだのも俺が淹れたんだ。」
「え、そうなの?」
さっきのコーヒーの味を思い出す。
…あぁ、すごく、
「すごく美味しかったよ」
「お、そう言ってもらえると嬉しいね。」
コージがまた笑う。
彼が笑うとつられて自分も笑ってしまうのが分かった。
笑う度に不純物がどこかへ消えてゆく。
「で、さっきの話なんだけど、」
コージがまた私の目を真っ直ぐ見た。
再び私に動揺が訪れる。
「え、えと、私がいたからって…どういう意味?」
おずおずと聞いてみる。
「君、よくここに来るよね?友達と来る時もあるし、1人で来る時もあるし。…ここ、客少ないからさ、印象に残ってたんだ。」
最後はマスターに聞こえないように小声で彼は言った。
私はこくこくとうなずく。やっぱり覚えられてたか。
「で、なんか…俺と…なんというか、似てる気がして…いつか話したいと思ってたんだよ。」
コージが一生懸命言葉を選びながら話すのが分かる。
似ている?どういう意味だろう。
私は黙って彼の言葉の続きを待った。
「君、いつも友達の話をつまらないと思って聞いてるだろ?もしそうじゃなかったら申し訳ないんだけど…もし、そうだとしたら、俺と一緒だなって思って。」
「え…」
私は驚いて返事に困った。
彼の言う通りだ。私はいつもつまらない思いで友人の話を聞いている。でも、顔には出ないように気を遣っているはずだった。
「どうして分かるの?私、つまらなそうな顔してるかな?傍から見て分かっちゃう?」
鼓動が速くなるのを感じながら彼に問う。その感覚は少し、高揚感に似ていた。
「いや、顔には出てないと思うけど…なんか、なんとなく分かった。俺も似たようなことしてるし。」
高揚感が高まる。これは、同類を見つけた喜びからだろうか。
「つまらないのに、人の話なんて興味ないのに、その心に嘘をついて笑っちゃう。」
コージは今までとは少し違うーー
寂しい笑顔でそう言った。
「すごく分かるよ。それ。私も同じ。人に興味が持てないってやっぱりダメかな?私って…冷たい人間かな?」
今まで、誰かに問いたかったことを初めて話したコージに問いかける。
彼は少し考え、静かに言った。
「正直に言うと、冷たいんだろうね。周りからはそう思われると思う。でも、しょうがないじゃん?心の中ではそう思ってしまうんだから。考え方を変えるってすごく難しいよ。だから、俺達は嘘をつくしかないんだ。」
彼はもう笑っていなかった。
顔に少し陰りがある。
どうしようもない自分を嫌悪する顔。
私と同じ顔。
そんな私達の目の前に、ホカホカと湯気が立つコーヒーと、大皿に色鮮やかに盛り付けられたサンドイッチがやってきた。
ぱっと顔を上げると、マスターがにっこり笑っている。
「ごゆっくりどうぞ。よければこいつの話し相手になってやってください。こいつは馴れ馴れしいが、悪いヤツではないから。」
「あ、は、はい。」
私は慌てて笑って頷く。
コージも笑顔で、
「これ、マスターの奢りな。」
と言った。
え、いいのか?と思ってマスターの方を見ると彼は少しだけ困ったように笑って、
「ちゃんと働けよ。」
とコージに言うと、またカウンターに戻って行った。
読んでいただきありがとうございます。
次回からいよいよこの話のテーマに入っていきます。
この話のテーマは、ひねくれた主人公の心情の変化だと思います。
私個人の考えが沢山出てきますが、あくまで一つの意見だとお考えください。
よろしければ、感想、ご意見を頂けたら幸いです。




