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 ささっと形のよい七分咲きの薔薇を抜き出し、客の要望に合わせて他の花をプラス。

 提示された金額通りの花を選びつつも、それ以上のものに見せるのは、フローリストの腕の見せどころ。

 迷う様子もなく彼女の手はテキパキと動き、僕たちが見守る前で花束は出来上がってゆく。

 薄いラッピングペーパーを重ねて巻いた上から細いカラーテープを結び、リボンの足をシュッと鋏でしごけばクルクルと螺旋を描くカールが作られる。

「お待たせいたしました、このような感じでよろしかったでしょうか?」

 自身が作り上げた花束を差し出しながら、にっこりと笑う朋花に、いつものように僕は見とれた。

 僕の朋花はスゴいだろ、どうだと自慢したい気分を抑えて、押し掛けアルバイターである僕は、さっと女性客の側に控えて出入り口までエスコート。

「またどうぞお越しくださいませ」

 女性受けの良い笑顔でご挨拶。リピーターは無理でも、どうぞ宣伝してお客を呼んでくださいねー、と念を送りつつ、一礼。

 朋花、今の花束キレイだったね! と声をかけるために振り返ろうとして――じっと手を見つめている彼女に気づく。

 朋花の悲しそうにしている原因は、きっと働き者過ぎて、痛々しく傷付いた両手のこと。

 さっきのオネーサンは、家事なんてしたことありませんってな、真っさらな手をしていた。

 爪は長く、光る石や鮮やかなネイルカラーに彩られて、あれで料理されるのは御免だな、って思うような。

 反対に、毎日花の世話をしている朋花の手は、切傷やあかぎれに悩まされ、もちろん爪は白いところがないくらい短く切られている。

 馬鹿だなあ、朋花。気にすることないのに。

 誰の、どんなに手入れされた手にもかなわない美しさを、朋花は持っているというのに。


「朋花」


 十歳年上の、可愛い人の手を取る。

 どこで情報を入手するんだか謎なんだが、親友オススメの、女性が好みそうだという、ハンドクリームをポケットから出して、その手に塗り込んで。

「こんなに綺麗に花を咲かせることができる、花を愛してる、朋花の手、好きだよ」

 ふわりと漂う花の香りは、クリームの香料じゃなく、朋花のものだと思うんだ。

 花に関してのことには自信があるのに、自分のことには全く自信がない、年上の幼なじみは僕の言葉に一瞬頬を赤くしてから、フニャリと相好を崩した。


「やあね、栄ってば。イッチョ前に」


 照れ隠しにツンと僕の額をつつく。

 ああ、なんて可愛いんだろう。


 今は仕方ないけど、あと少ししたら。


 愛の言葉を囁いて、胸に届けて、その時は、僕の腕の中、どんな花より美しく、咲かせてみせるから――


 弟扱いも、しばらくは我慢してあげるよ。




**(C)Mitsukisiki.2011 メルマガ再録********


朋花さん二十一歳、栄くん十一歳のとあるヒトコマ。


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