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【完結】『一騎当千』を極めた孤高の天才貴族、仕様によってただ美しく光る置物になる  作者: 山原かいな


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プロローグ

ここは剣と魔法、そして『ジョブ』『レベル』『スキル』が万物を支配する世界。

 深き海に囲まれた古き海都アーモリア。

 その近郊には未知の迷宮――ダンジョンが点在し、各都市にはその最奥を攻略せんとする英傑を育てるため『ダンジョン学園』が存在している。

 この世界における『スキル』とは、単なる人間の技術ではない。

 それは、世界を構築する神(システム)が、人の肉体を「そうあるべき姿」へと強制的に駆動させる、絶対の自動演算機構であった。

 術者がスキルを起動した瞬間、神(システム)が肉体をジャックし、人間業ではない神速の剣を、あるいは超常の魔術を無理やり出力させるのだ。

 当然、肉体にかかる負担は絶大。

 外傷はないが、感覚的には、体が千切れるかのような痛み、脳がかきまわされるような眩暈を感じるのである。

 人の身が内包する『理力(りりょく)』の器を削ることで、かろうじてその感覚に耐え忍ぶことができるものの、一日に使える回数は厳格に決まっていた。

 だが、過酷な迷宮で『レベル』を上げれば肉体は強靭になり、理力の器が増え、強力なスキルを何度も扱えるようになっていく。

 そして最大の特徴は、スキルが「脳内の階層(ツリー)」に眠る術理として顕現する点だ。

 レベルが上がるごとに、脳内に新たな『武理のポイント』が溜まり、それを割り振ることでスキルが強化されていく。

 さらに特定のスキルを極めれば、その奥に隠された『上位スキル』が脳内に顕現する仕組みなのだが――この世界のスキル研究は今なお未熟であり、どの基礎を鍛えればどんな上位の技が浮かぶのか、その取得条件は一般にはほとんど解明されていなかった。

 その顕現の瞬間は、常に血と火花の飛び散る迷宮の戦場でもたらされる。

 迷宮の魔物を討ち果たし、世界のシステムから直接、膨大な経験と理力の成長を肉体へと流し込まれたその刹那。

 脳内の暗闇に潜む武理の回路が眩い光とともに繋がり、新たな技の輪郭がパッと目の前の霧が晴れるように脳裏に浮かび上がるのだ。

「――フッ。闇に狂え、我が半身(とも)よ」

 第一階層『清水ノ樹海(しみずのじゅかい)』の深部。

 薄暗い木漏れ日の中、漆黒の髪を過剰なびかせ、一人の少年が魔物を駆逐していた。

 腰に帯びた二振りの刀――その片割れである家宝の名刀『雷切』を引き抜き、美しい残心(ポーズ)を決めるたび、襲いかかる牙を持つ巨狼『リカオン』の群れが、一瞬にして光の塵へと変えられていく。

 誰も見ていない。  

 誰も聞いていない。 

 にもかかわらず、少年はわざわざ「クク……」と前髪の隙間から不敵な視線を虚空へ投げ、あえて声に出して己の武を称えていた。

 放たれるのは、基礎的な剣士の術理である『刀マスタリー』を極限まで究め、さらに家伝の二刀流『弍ノ太刀』すらも最高位までマスターした者だけが至る一撃。

 この少年こそ、東方の有力貴族スメラギ家の御曹司であり、ダンジョン学園の歴史に名を刻むであろうと目されていた天才、シン・スメラギであった。

 「ふっ……凡俗の諸君、よく聞き給え。

 迷宮の最奥へと至るのは、この僕だ。

 君たちは特等席で、僕の武勲を眺めているといい」

 誰もいない迷宮の空に向かって呟く。

 普段なら学園の講堂で、仕立ての良い伝統の陣羽織を羽織り、周囲の賞賛を一身に浴びてそう言い放っているはずのシン。

 だが、今の彼は、誰もいない迷宮第一階層の深部で孤独に一つの伝説を追い求めていた。

 スメラギ家に代々伝わる秘匿された古文書――そこには、伝説のぶっ壊れ上位スキルへと至る『脳内ツリーの隠された修練ルート』が記されていたのだ。 

 致命傷を確率で耐え抜く『食いしばり』を鍛え、状態異常をはね退ける『精神統一』を施し、敵を屠るほどに刃を研ぎ澄ます『血染めの朱槍』のパズルを解き明かす。 

 シンはその家伝の設計図を信じ、他の便利スキルや防御スキルを一切無視して、最短ルートを一直線に駆け上がってきた。

 (フッ、真の強者に盾など不要。

 この雷切の煌めきこそが我が防壁さ)

 しかしながら、実のところ、幼少期に飼い犬に追いかけられたトラウマにより、緊急離脱用スキルの『逃げるが勝ち』(戦闘から逃げる事が出来るスキル、ちなみにソロならレベル1でも逃走率は100%)だけはちゃっかり取得しているのである。

 そして、最後のリカオンが光の塵となって消え去った、まさにその直後だった。

 どっと体内に世界からの理力が逆流し、シンの全身を眩い成長の光が包み込む。

 学園最速――レベル28への到達。

 「天が……僕を祝福しているね」

光の柱の中で、シンは仰向けに手を広げて恍惚の表情を浮かべた。

 それと同時に、シンの脳内で、これまでに張り巡らせてきた『血染めの朱槍』までのすべての前提回路がカチリと音を立てて連結した。

 脳裏の暗闇が鮮烈に弾け、その最深部から、黄金の輝きとともに伝説のぶっ壊れスキル――『一騎当千:Lv1』の術理が、ついにドラマチックに顕現したのである。

 伝承によれば、はるか昔、天を支配する竜すら屠ったとされる神域のスキルだ。

 「一騎当千……。ふっ、なんと響きが良く、美しく、そして孤高なる僕にふさわしい名前だろうか。 読んで字の如く、一騎で当千の敵を屠る、究極のソロ用無双剣に違いない。

 父上の五輪の剣(敵をランダムに斬りつけるスキル)をも超えるこれぞ我が魂の技だ」

 仕様の解明など必要ない。

 名門スメラギの直感が告げている。

 これは、自分一人が戦場に立てばすべての敵が塵と化す、最強のソロ用大技なのだと。

(フフフ、これまでは基礎の通常二刀流で敵をペチペチ斬るだけであったが、これからはこの大技を一発放つだけで戦場が消し飛ぶはずだ!)

「さて、凡俗どもに僕の真の力を見せてあげるのも一興だが……まずはソロで、その威力を試させてもらおう。

 神の技とは、他人に容易に見せるべきではないからね」

 一度学園へと戻り、わざわざ完璧に仕立て直した伝統の陣羽織に着替え、エリートとしての自信を胸に補給を済ませたシン・スメラギ。

 ふたたび、たった一人で『清水ノ樹海』の中層エリアへと足を踏み進めたのである。


某ダンジョンRPGをオマージュしたパロディです。

スキル名、効果はまんまです。

「君はこの物語を評価してもいいし、しなくてもいい」


ご愛読ありがとうございます!本作は全6話の構成となっております。

今後の更新は以下を予定しています。

2日目(第3話・第4話):明日9月23日19時

3日目(第5話・最終話):明後日9月24日の19時です。 

 エリート貴族シンの明日はどっちだ!?

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