第一章 一話 「黒い仮面ライダー」
ある日、世界に怪人が現れた。
現代における兵器、核すら通用しない存在。
人々はただ逃げることしかできず、日常の放棄を迫られた。
そして、各企業が動き出した。
怪人の構造を解析し、その力を利用した『ベルト』を開発。
人類は初めて、怪人と“対等に戦う力”を手に入れた。
人々はマスクとスーツに身を包んだ姿を『仮面ライダー』と呼んだ。
その存在は瞬く間に広まり、怪人との戦いはテレビで中継され、視聴率を競うエンタメへと変わっていった。
派手な演出。華やかな戦闘。
人々はヒーローに熱狂し、戦いはショーとして消費されていった。
仮面ライダーの登場により、再び平穏な生活を送るようになった。
──そんな中。
一人だけ、TVショーに映らない仮面ライダーがいる。
黒く、無骨で、何の演出もない。
拳と蹴りだけで戦う、泥臭い戦士。
無名の黒い仮面ライダー。
中村製鉄工業の社長が趣味の延長で作り上げたベルトを手にした、若く運動神経が良いという理由だけで選ばれた男、町門希望。
スポンサーは中村製鉄工業の自社のみ。
テレビにもほとんど映らない。
だが彼は、カメラではなく“目の前の人間”を見ている。
怪人を倒すより先に、民間人を救う。
誰にも評価されなくても、ただ当たり前のようにそれをやる。
その戦い方を、ある者は笑い、ある者は否定する。
「その戦い方じゃ、いつか死ぬ」
それでも、彼は戦う。
誰にも見られなくてもいい。
誰にも評価されなくてもいい。
目の前で、誰かが傷ついているなら。
これは、
“ヒーローが商品になった世界”で、
ただ一人、ヒーローであろうとする男の物語。
──仮面ライダーレムナント。
─2026年4月1日。
カンッカンッカンッ…
東京に構える町工場、『中村製鉄工業』から鉄を打つ音が聞こえる。
油汚れにつなぎ姿の青年、町門希望の姿はそこにあった。
25歳独身趣味無し。
いつもと変わらない日常が続く。
そこへ初老の男、中村製鉄工業の社長の声が響き渡る。
「休憩だぞ〜!あと町門、ちょっと休憩前に話せるか?」
またヘマでもしたのか?と、同僚に茶化されるのを他所に社長の中村の元へと足を運んだ。
「で、なんすか話って」
中村がタバコに手を伸ばしたのをきっかけに、希望が気だるそうに自らの煙草に火を付けながら中村に問う。
中村は頭をポリポリと掻きながら、使い古されたスマホの画面を指す。
「お前あんまり活躍してないみたいじゃねーか」
中村の指すのは昨晩起こった怪人事件のネット記事。
記事には輝かしく活躍する仮面ライダーが見出しとして映し出されている。
『怪人を制したのはヴァイオレットアルテミス!!』
──紫の流星、ヴァイオレットアルテミス。
名の通り、紫の装甲に身を包んだ女性仮面ライダー。
背部には翼を模したブースターが付けられており、高速移動によるヒット&アウェイを得意とするらしい。
そして仮面ライダーとしてタブーとされている«中の人»は公表されている。
名前は『東雲飛鳥』。
17歳の女子高生に読者モデル兼仮面ライダー。
高身長と思わせる様な落ち着きのあるクールな顔立ちに、肩までのボブヘアに紫のインナーカラー。
しかし、身長は150cmと低く、そこがギャップ萌えなんだよと同僚は熱く語っていた。
そんな世間では女子高生仮面ライダーとして大変賑わっている。
しかし希望にとってはそんなことはどうでもよかった。
仮面ライダーとして活動している以上、メディアへの映りより人命救助を優先すべきだと考えている。
「活躍も何も俺はちゃんとやりましたよ」
これは反論じゃない。
事実を述べたまでだ。
「しかしなぁ…ライダーやってる以上ウチの名前も売って貰わんと割にあわん」
中村は難しい顔をして続ける。
「危険手当も結構出してやってんだぞ。これじゃ赤字だ」
そんなこと言われても困る。
勝手に指名して、同僚や親にも正体を隠して仮面ライダーやらせておいて何が赤字だ。
希望はイライラしながらまだ半分を残し火のついた煙草を雑に灰皿へ押し付けて鎮火する。
その時、街のサイレンが鳴り響く。
─怪人出現警報。
工場内では避難準備に取り掛かっている。
「…まぁお前に言ってもしゃーないわな。行ってこい」
中村は立ち上がり希望の肩をポンと叩き自らも避難に向うため事務所の扉から出て行った。
「……。」
仕事の疲労が残った身体を持ち上げて席を立つ。
まだニコチンの吸収に身体が追いついていない。
「くっそ吸わなきゃ良かった」
後悔も束の間、希望はベルトを手に工場を飛び出した。
──東京都上野。
辺りはすっかり日が暮れ、飲み屋街のネオンが眩いでいる。
しかしいつもと違う光景。
人がいない。
怪人による«災害»により人々は避難を余儀なくされていた。
「グォオオオオオオォォ…」
怪人と思われる雄叫びが周囲の空気を震わせる。
希望は人目につかない路地裏にて、腰に装着したベルトに手を掛けた。
「…変身!」
無機質なベルトの中央のコアが輝きを放つと、忽ち希望の身体は黒いラバースーツと黒い装甲に身が包まれる。
変身が完了するとベルトのコアと複眼が白く点灯する。
遠くで怪人と戦う別のライダーの音が聞こえてくる。
上空では報道ヘリコプターの音が耳障りだ。
変身により超人的な視力を得た町門希望。
今にも倒壊しそうなビルに取り残された民間人を発見するやいなや救出の為に脚を走らせる。
その姿はテレビに映らない。
名前も分からない。
人はこう呼ぶ。
──黒い仮面ライダー。




