IT会社社長 鳴瀬充編
人はいくつかの重要な選択肢を選び続け、今の人格や環境を作り出している。
鳴瀬充はお金だけの人生を進んだ。 それも大きな選択の一つだった。
「鳴瀬社長の会社に入れて良かったよな。20代で夏のボーナス500万以上もらってやついないよ」
「少数精鋭主義だしな。俺らが優秀ってことだよ」
前を歩く帰宅する自社の社員が自分を褒めていることを耳にし、鳴瀬はほくそ笑んだ。
「ふふ・・・お金をもらって喜ばない奴はいないし、優秀な人材を逃さないためだよ」
鳴瀬は業界ではカリスマ的存在のIT企業の社長で、度々メディアにも登場し社会問題にも切り込んでいた。
それも自分の会社と自分のセルフプロデュースの一環で入社試験には優秀な学生が集まってきた。
お陰で今ではたった十人で30億円を稼ぐ会社にまでなっていた。
いつ自社株を売って引退しても良かったが、まだ稼げる会社に自分は必要だと思っていた。
しかし、大きなトラブルの時にしか鳴瀬は動かなかった。仕事のほとんどは社員だけで回している。
自分は社長室にいるだけで会社は収益を上げてくれる。
その夜はブランド品の専属モデルとのディナーだった。
一食5万円以上する二つ星レストランで夕食をとる。
しかし鳴瀬にはこのモデルに対して懸念があった。
三回は寝たが、どうやらこのモデルは自分と交際していると思っているようだ。
自分はタレントではないもののこれがマスコミに出ると会社のイメージにも悪いと思った。
最後のデザートを食べ終えて談笑している時に鳴瀬はモデルに封筒を渡した。
中には三百万円入っている。
モデルの彼女は中身を見て「何これ?」と聞いた。
「もう会うことは出来ないんだ」
「どうして?」
「君にはこれからの人生もあるし、僕も仕事で忙しくなる。女性と付き合うことはしない主義なんだ」
「手切れ金ってわけ?」
「慰謝料と考えてくれ。騙していた訳ではないのだけど」
「私が邪魔ってこと?」
「そうじゃない」
「週刊誌に撮られたりするのが嫌なんでしょ?私は平気だよ?」
「君は売り出すきっかけになるかもしれないしな」
「そんなわけないでしょ!」
「大声を出すな。とにかく俺はもう会わない」
「別れるならちゃんと誠意の言葉で表してよ。こんなお金いらない!」
彼女は三百万をテーブルに叩き付けて出て行った。
「はあ・・・めんどっくせぇ」
鳴瀬は封筒をジャケットの内ポケットに仕舞うとあえて走って追った。
走って店を飛び出すが、通りには彼女はいない。
すると車のヘッドライトが鳴瀬を照らす。
鳴瀬は強い衝撃と友に車のフロントに乗り上げた。
五十万円もする鳴瀬の高級スーツの足下が川で濡れる。
「なんで川にいるんだっけ?」
それを見ている後光の差すチンパンジーのツムと柔道着の日本猿クク。
「ツム様、今度の奴は死んでもいいかもしれませんよ?」
「うーん、人を深く傷つけてここに来ていますね。しかしクク、この方はお金に強い執着があるばかりにこういう性格になったのでしょう。ククはお金持ちが嫌いですねえ」
「お金持ちは、高級メロンは食べてもバナナは食べないんですよ?」
「ホホホ。いいじゃないですか」
鳴瀬は無意識に川岸に向かうとツムとククに気付いた。
「猿・・・」
「こっちに来い」とクク。
「猿が喋った。夢か?」
鳴瀬が近付くとツムが伝える。
「ここは三途の川なんですよ」
「そんなことあるわけないだろ。猿が喋ってるし、幻覚や夢だよ」
「おまえは何回か選択を間違えてここに来ているんだ」
「これからあなたの人生での間違った選択を上げていきます。クク、読んでください」
「鳴瀬充 二十九歳。小学生の時に宿題代行サービスを始める。そのために多くの同級生の学力の低下を招いた。中学で同級生のいらなくなった昔のおもちゃを買い取り、オークションサイトに売り利益を上げる。買い取り価格は全て事前にオークションサイトで調べたもの。中には家族の大事な宝石やブランド品を持ち出す者も出て来るが、薄々知りながらネットで販売する。高校では株に投資。出資者を募り利益を含んだ形で渡すが、家から盗み出したお金で投資する学生までいたが、家族から見放される者まで出て来る」
「みんなお金欲しさに正当な行動をしないのが悪いんだよ」
「それを知りながらおまえはお金儲けに走った」
「クク、ここから先は彼は間違っていなかったな」
「はい。貯めたお金で大学に行きITを深く学び、学生の間に起業し、社員に多額の給与を与える」
「俺の何が悪いんだ?」
ツムが「お金があればなんでも手に入ると信じ、多くの女性を傷つけてきた」と言う。
「みんな、俺のお金目的だからどっちもどっちだよ」
そして、ククの究極の選択が始まった。
「おまえは交通事故に遭って現世では瀕死なんだ」
「そうだった」
「これから問う二択の質問に答えれば死なずに済ませやるよ」
「どんな二択だよ」
「まず一つ目。付き合うならどっち?嫉妬しまくる女、ベットしまくる女」
「ベットというのは賭け事か?嫉妬する女はストレスで仕事の効率も落ちる。ギャンブルする女も嫌いだが、まだベットしまくった方がいい。お金はあるんだし」
「次。大量のウンコの中の一億円。素手でかき分けてでも取る?」
「取りたくないけどな。ただで一億なら・・・取ってみるか」
「さすがお金が大好きだな。俺からは最後だ。なるならどっち?借金まみれになるか、ウンコまみれになる」
「ウンコ好きだな。借金持つならウンコまみれでいいよ」
「ツム様、最後にありますか?」
「そうですね。人生を送るならどっち?嘘みたいな人生を送る、クソみたいな人生を送る」
「またクソか。嘘みたいな人生って夢はあるのか?嘘みたいな人生でいいよ」
「わかりました。では現世で治療してください」
事故から一週間後、鳴瀬は病室で目を覚ました。
目を開けるとそこには秘書の丸山実呼がいた。
「社長!」
丸山が手を取って喜んでいる。
「俺は今どういう状態だ?」
「大腿部骨折と一部内蔵損傷で命には別状ないですって。幸いレストランの前が歩道で車も時速三十キロ程度だったから良かったみたいで」
「それで俺は今後どうなる。車椅子生活か」
「四ヶ月ぐらいで社会復帰出来るみたいです」
「そうか・・・良かった」
「ただ、脳を車のフロントガラスで強打したみたいで後遺症が出るかもとお医者さんは言っていました」
「脳を・・・。会社はどうなんだ」
「社長が事故に遭ったというニュースが流れてから株価が半値になってしまいました」
「だいたい六千円か?」
「そうですね。でも意識が戻ったというニュースを流したら自社株は元に戻り始めるのではないでしょうか」
「明日、写真を撮ってくれないか。満面の笑顔でピースするから。それから、自社株が一万円近くまで戻ったら五万株を売って会社の口座に入れてくれないか。何かトラブルがあった時の保険だ」
「分かりました。株の価値も私が上げてみせます!」
それから元気な鳴瀬の写真をプレスリリースすると次第に株価は上がりだし、一万円近い根まで戻った。
丸山は早速株を売り、現金に変えキャリーバックに詰めて新宿に向かった。
そこは、闇カジノの店。
丸山は実はよく通っていた。
会社の資金のためにと丸山はバカラに賭けた。
最初は1億の儲けが出たが、次第に負けが込む。深夜十二時に始め、気が付くと朝の六時を迎えていた。
「あと残り二千万・・・」
丸山は店を出た。
鳴瀬はケイタイで会社の残高を見た。まだ株のお金が振り込まれていない。
丸山に電話をするが出ない。会社に電話をすると社員が丸山は辞表だけ残し会社に来なくなったと言った。
「持ち逃げされた!」
8年も秘書を務めた丸山に裏切られたのだ。
考えると傷が痛む。まだ会社には預金がある。大丈夫だ。退院のことだけ考えよう。
事故から三ヶ月で鳴瀬は退院した。
早速翌日に自社ビルに向かった。しかし誰の何の嫌がらせか自社ビルの前に数百キロはあろう大量のウンコ。
「そういえば夢で見たな」
このウンコの中に一億円がある。
数億の詐欺にあったのだ。今は一億も大事なお金である。鳴瀬はウンコの中に手を伸ばしバッグに入った一億円を取り出した。
「一億円ゲットだぜー!」
朝から体中ウンコまみれだ。
それを一人の週刊誌の記者が写真に収めていた。
数日後発売されたその週刊誌には「有名IT社長、交通事故後に借金まみれではなくウンコまみれに!事故による脳の損傷が原因か」という記事が掲載された。
それを見た多くの社員が鳴瀬に不信感を持ち出した。
それ以前に鳴瀬が入院している間に数人の社員がクライアントの製品に大きなバグを作り違約金を求められていた。
鳴瀬はそれを知らず、既に数人の社員は会社を辞めていたのだ。
鳴瀬は入院中の知らなかった全ての事実を知り、呆然とする。
さらにウンコまみれ社長として発注もなくなっていった。
数日後、鳴瀬は自社ビルと会社を売却する道を選んだ。
それから約一年、鳴瀬は消息を絶つ。
そしてメディアに現れたのは、以前と違う嘘みたいな鳴瀬だった。
「ITウンコマン、参上!」
金属で作られたようなウンコのかぶり物をして、AIで快便を促す企業を単身で起こしていた。
しかも徐々に子供達の人気を得て親世代に浸透し、業績を上げつつあった。
嘘みたいな人生だが、クソ主体の人生となるのだった。
終わり




