第81話 EP10-7 レジスタンス
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
オレはリード、十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。幼馴染みと村の皆の仇、帝国の将軍シュッツを討つため、師匠のエレノアさんと腕を磨く。武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。
「ええ、それはもう! 見事な討伐でした! リード殿は、凄腕の魔物ハンターです!」
副団長のシャティエが、興奮気味に声を高くした。二十歳くらいの、しっかり者で気の強そうな女だ。かつては王国の騎士で、今はレジスタンスの一員だ。
一緒に哭猿を退治してから、よく目が合う。尊敬の熱い眼差しで、ずっと見られてる気がする。我ながら自意識過剰である。
「わたくしも、同意します。正義感が強く、心優しい、素敵な方ですわ」
ハルシアが、ほわほわした微笑みで賛同した。育ちの良さそうな十六歳くらいの少女で、嘘か本当か、亡国の王女らしい。お淑やかで、儚げに華奢で、教会の黒いシスター服で、薄緑色の髪が長い。
オレたちは、薄暗いランタン一つに照らされた、湿っぽい地下室にいる。ランタンはボロい木のテーブルに載って、テーブルをボロい木のイスが六脚囲む。イスにはそれぞれ、オレ、エレノア、ハルシア、ジラルド、シャティエ、寡黙で気難しそうな髭のオッサンが座る。
「若き名将が鍛えた若き勇者、といったところか。頼もしい限りだ」
ジラルドも、嫌味のない笑顔で頷いた。
手放しで褒められると、照れる。もちろん、嬉しい。
「聞く限り、運が良かっただけね。哭猿が自警団員の方に行ってたら、逃がしたかも知れないわ。策は、最低でも二重に張りなさい」
エレノアが水を差した。三十歳手前の女で、赤い短髪で、ハスキーボイスで、灰色のコートを着た魔物ハンターだ。オレの師匠で、かつては帝国の将軍だった戦闘狂だ。
「エレノアさんは厳しすぎるぜ。オレは、褒められた方が伸びるタイプだと思うんだよな」
味方がいるので、抗議してみた。一対一のときにエレノアさんに抗議なんて、怖くてできない。
「ん?」
微笑で睨まれた。怖くて目を逸らした。オレが甘かった。
ジラルドが、笑顔でフォローを入れる。
「エレノア殿も、見事だった。『帝国の鬼女』の噂は聞いていたが、実像がこれほどとは。帝国軍を戦わずして撃退し、かつては王国の騎士だった身として、感服した」
ジラルドは、二十代半ばくらいの男で、亡国の騎士である。武器で戦う鍛錬を積んだ筋肉をして、眼光鋭く体格もいい。もう神父の真似事はやめて、長剣を帯剣し、金属鎧で武装する。
「あれは、軍と呼ぶのも烏滸がましい烏合だったわ。キジョなんたらも、山賊退治の実績に尾鰭がついただけよ。……名前で呼んでもらっていい?」
エレノアが謙遜した。
いや、謙遜したのか、口が悪いだけか、判断しかねる。二つ名を嫌がっている風でもある。
「ですが、リード殿ほどの方でもランクが低いとは、信じ難いです。魔物ハンターとは、人間離れしたバケモノの集まりなのですか?」
シャティエの熱い眼差しに、オレは照れて目を逸らす。顔が赤くなっていそうで、二重に恥ずかしい。
「いやいや、ランクってのは、ハンターギルドの評価なんだ。ギルドの仲介する依頼を受けて達成すれば評価があがって、ランクもあがっていく。実際の強さとは関係ないんだぜ」
「私たちは、森の魔物を好きに狩っているだけだからな。ギルドの依頼を受けても達成してもいない。高ランクになっても動きにくくなるだけ、損しかないのさ」
エレノアが補足を挿んだ。
「と言っても、強くないと高ランクにはなれないぜ。高ランクのヤツらはそれこそ、人間離れしたバケモノばかりだ。オレとエレノアさんのランクはC、実力はランクAかBと同等ってとこかな」
オレは、ちょっと得意げに締め括った。
◇
ここはすでに、森近くの小砦とは別の小砦だ。帝国軍の襲撃を警戒して、レジスタンスの隠れ家に同行した。
「御二人との出会いは、奇跡とも呼べる幸運だ。自分たちは近々、北の大砦に侵入し、領主のシュッツ将軍を討つ作戦を実行する。その際、大砦周辺を徘徊するホワイトウルフの群れが最大の障害となる、と予想していた」
「私たちも、シュッツを討つために北の大砦に入りたかったの。レジスタンスの力を借りられるなら、こちらも同等の力を貸すわ。魔物に関しては、あなたたち素人より詳しいわよ」
エレノアが、ジラルドとの交渉を開始した。
オレは、エレノアさんの口の悪さに、内心冷や冷やものだ。
「作戦実行間近なら、北の大砦の内部情報も掴んでるわよね? 情報管制が厳しすぎて、碌な伝手もない個人では情報がないのよ」
「残念ながら、人も情報も出入りができないことと、周囲の魔物の分布しか分かっていない。それだけでも、かなりの時間と犠牲を要した」
ジラルドが、申し訳なさげに首を振る。
エレノアは、落胆はせず、切れ長の目の端を光らせる。口元に右手を当て、考えを巡らせる。
「出ないだけじゃなくて、入らないの? 道理で、レジスタンスがいても北部軍本隊に動きがないわけね」
「自分たちも、今回の作戦で北の大砦に侵入できたとして、その先は現地で準備するしかない。その前に、大砦周辺に屯するホワイトウルフの群れを突破できる保証もない。運が悪ければ魔物の餌、運好くシュッツ将軍を討ち取れても逃げ場のない、死が前提の強硬策となるやも知れぬ」
悲壮な覚悟だ。だが、騎士たちの顔に迷いはない。
「そうまでして、何を望むの? 王女様を神輿に担いで王国の再興? それとも、主を守れなかった騎士の名誉挽回?」
エレノアが、意味ありげに微笑した。
傍目に、挑発とも見える。しかし、ジラルドは、誇らしげに答える。
「レジスタンスは、自分がリーダーだ。こんな時代だ、ハルシア様には、出自に縛られず、御自身の望むように生きていただきたい。元より、ハルシア様とは教会で袂を分かつつもりでいた」
対するハルシアは、キラキラと輝く瞳で、力強く意思表明する。
「いいえ。わたくしが、王国の皆の先頭に立ちます。王女として、国民を見捨てるような真似はできません」
見た目が世間知らずの御嬢様シスターで、頼れる感じではないので、頼りなかった。
「王族は便利よね。担げば、人が集まるわ。失敗しても、首を差し出せば済むわ」
「うわっ、悪い、ジラルドさん。これでもエレノアさんには悪意がないんだ」
エレノアさんの口が悪すぎるので、オレはテーブルに両手をついて、頭をさげた。
「王族を私欲に利用する不逞の輩がいるのも事実だ。御本人を前に臆せず忠告できるエレノア殿の実直さは、信用に値する。重ね重ね、敬服する」
ジラルドは、顔を僅か歪めることもなく、毅然と微笑む。エレノアの暴言の中に、窮屈に押し込められた正論を汲み取っている。本当に、騎士の鏡みたいな、騎士道精神溢れる騎士である。
エレノアが微笑する。満足顔である。薄暗いランタン一つに照らされて、悪事を企む悪女のようでもある。
「ふむ、そちらの条件は悪くないわね。北の大砦に侵入してシュッツ将軍を討つ、まで協力させてもらうわ。こちらの条件は、リードをシュッツの前に辿り着かせること、でいいかしら?」
「望むべくもない。御二人の協力、千の援軍よりも心強い。力を合わせ、必ずや、北の大砦の将軍を討ち取ろう」
ジラルドとエレノアで、力強い握手を交わした。
オレには場違いな話のようで、ただ横から見ていた。ハルシアも、オレと同じみたいだった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第81話 EP10-7 レジスタンス/END
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