第82話 EP10-8 草原の襲撃
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
この国は数年前まで、王国の統治下で安寧と平和を享受していた。
帝国軍の侵攻で、それは脆くも崩れ去った。
帝国は魔王を復活させ、魔王配下の魔物の力を借り、圧倒的な強さで王国を征服した。国には魔物が溢れ、秩序は失われてしまった。
魔物が見境なく人間を襲い、人間は砦みたいな町を造って身を守る、無法の世界がここにはある。
◇
二頭引きの荷馬車が十台、馬車団を成して南へと走る。空は青く澄み、広々とした草原を心地好い風が吹き抜ける。馬の足音、荷馬車の車輪の音、巻きあがる土煙が、穏やかに北へと流れていく。
オレはリード、十六歳の男で、茶色の髪の魔物ハンターだ。幼馴染みと村の皆の仇、帝国の将軍シュッツを討つため、師匠のエレノアさんと共に追う。武器は長剣、鉄板で補強した灰色の革鎧を装備し、赤いマントを纏う。
「ホワイトウルフの群れの縄張りに入りました。規模は百匹ほどです」
同じ荷馬車に乗る男が、地図を広げて注意喚起した。
オレもエレノアさんも、レジスタンスと一緒に北の大砦を目指す。百人が、十人ずつ十台の荷馬車に分乗する。乾いた土の色の布を被って、日差しと風を避ける。
荷馬車には、幌すらない。行商の一団を装うため、大きな布袋や酒樽も同乗する。狭いし、揺れるし、砂の混じった風が当たる。
「エレノアさん。百匹の群れの縄張りに入ったってさ」
オレは、隣に膝を抱えて寝ているエレノアさんに声をかけた。
寝ている。信じられないことに、この悪条件で平然と寝ている。魔物と戦い慣れたオレでも、百人も守れるのか不安で緊張しているのに。
「……そうか」
エレノアが、起きた。ハスキーボイスで顔をあげ、揺れる荷台に立ちあがった。被った布の額の辺りを摘まみあげ、広がる草原を見まわした。
「見晴らしが良すぎる。これは、すぐに囲まれるわ。リード、戦闘準備しておきなさい」
「とっくにできてるぜ、エレノアさん」
オレも、揺れる荷台に立ちあがる。荷馬車の速度で流れる草原を見まわす。
オレもエレノアさんも、先頭の荷馬車に乗っている。後方の九台にも、異変を感じた人たちがキョロキョロし始める。
レジスタンスの馬車団は、ホワイトウルフの群れの縄張りを、群れの規模の比較的小さいものを選んで進んでいるらしい。もちろん、縄張りと縄張りの細い隙間とか、魔物が滅多に近づかない半安全地帯まで加味した、最も危険の少ないルートらしい。
前も後ろも右も左も草原だ。右前方に森がある以外は、見通しの良すぎるほどに遮るものがない。
「ホワイトウルフです! すでに囲まれてます!」
後方の荷馬車から、女の声が叫んだ。目のいい見張り役の人だろう。
言われてみれば、遠くに土煙があがっているような気がする。言われなければ、気のせいか、風のせいか、と思う。
遠くにボンヤリと浮かぶ土煙を見ていると、徐々に近づいてくる。はっきりと見える頃には、全方位に土煙があると気付く。次第に、その土煙が、馬車団を囲んで駆けるホワイトウルフの群れだと理解する。
ホワイトウルフは、人間の大人ほどのサイズで、見た目は白い狼の、獣型の魔物である。一匹では大砦周辺レベルにも満たないザコだが、数十匹から千匹を超える群れを作り、帝国北部で最大の勢力を誇る。
「リード殿! 百対百、魔物はほぼ同数だ! 自分たちに勝ち目はあるか!?」
レジスタンスのリーダーで亡国の騎士、ジラルドの乗る荷馬車が左に並んだ。
亡国の王女ハルシアも、レジスタンスの先頭に立つため、危険を承知で同行する。不安顔でオロオロして、ジラルドと同乗している。騎士ジラルドが命懸けでハルシア王女を守るから、最も安全な場所である。
「冗談だろ?! 平地で包囲されて、無事に済むと思うかい!? しかも、高速で走ってる今なら、馬を襲われて転倒した順に各個撃破だぜ!」
オレは、分かりきった結果を答えた。焦って、声がガチガチに硬かった。勝ち目を求めて、ハルシアほどではないにしても、狼狽えた。
絶体絶命の状況に、エレノアが、ククッと笑う。楽しげに、口元を吊りあげる。被る土色の布を脱ぎ捨て、赤い短髪を風に靡かせ、灰色のコートで森を指さす。
「森に逃げ込むしか、ないわ! 森に入る前に、ケチケチしないで荷台は捨てて馬は逃がすのよ! 入ったら、未練がましく振り返らずに、とにかく奥に走りなさい!」
しかし、森と馬車団の間にも、すでにホワイトウルフの包囲がある。強行突破するしかない。
「突破口は、私とリードで開くわ! 横と後ろは、槍で牽制して!」
エレノアが、荷馬車を引く馬の一頭の、背に立った。右手で手綱を握り、左手で長剣を抜いた。
「分かったぜ、エレノアさん! 任せてくれ!」
オレも土色の布を脱ぎ捨て、荷馬車を引く馬の一頭の背に立った。左手で手綱を握り、右手で長剣を抜いた。
「御二人を、信じるぞ! 総員、馬車で錐形、槍を構えろ! 包囲を突破して、森に退避する!」
ジラルドが、高らかに指揮を唱えた。
『おぉーっ!』
百人近い団員が、声を合わせた。
◇
全力で駆ける馬車が、錐形に陣形を整える。ほとんど心の準備をする間もなく、並走するホワイトウルフの列に突っ込む。
「ガウッ!」
数匹が、馬を狙って飛びかかった。
「たっ!」
オレは短く気合いを入れて、長剣の振りおろしで斬り落とす。間髪入れず斜めに斬りあげる。刃を返して横薙ぎする。
三匹が消えて、宝石が三個落ちた。荷馬車の全速で、後方へと跳ねていった。
エレノアも、馬上を感じさせない剣捌きでホワイトウルフを斬り落とす。魔物との戦闘はリードの方が得意だが、集団戦や馬上戦や車上戦ならエレノアの方が圧倒的に強い。
後ろのレジスタンスまで気にする余裕はない。馬の足でも咬まれたら、転倒事故になって終わる。今はジラルドたちを信じて、前に集中する。
「ガウガウッ!」
飛びかかるホワイトウルフを、長剣の鋭い振りで斬り落とす。牙が自分に向かないから、恐怖に体が強張りはしない。自分以外を守るから、精神的にキツい。
魔物と馬の音が混じる。ガラガラと車輪が暴れる。巻きあげられた砂粒が肌を打つ。
ちょっと気を抜けば死ぬ。心臓を締めつける緊張感に、冷や汗が流れる。手綱を握りしめすぎて、手が痛い。
「ガウウッ!」
「はぁっ!」
飛びかかるホワイトウルフを、長剣で叩き斬った。草原に落ちて、跳ねて、後方へと転がりながら消えた。
「よし! 突破したわ! ここで油断するのは間抜け、このまま一気に森に走るわよ!」
エレノアが、長剣の剣先で森を指し示した。
小さな森だった。たぶん、あの森も、この群れの縄張りだ。あの森に逃げ込んだとして事態が好転するのか、オレには分からなかった。
エレノアさんのことだから、きっと勝算があるのだろう。今は、戦闘狂の師匠を信じるしかなかった。
帝国に征服されて魔物が蔓延る国で女だてらに魔物ハンターやってます
第82話 EP10-8 草原の襲撃/END
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