52. 大精霊の贈り物
「話はまとまったか?」
「ぎゃあああっっ」
エストと二人、見つめ合ってクスクスと笑い合っていると、頭上から声が降ってきた。恵麻は色気も何もない叫び声を上げ、飛び起きた。
色々あって、シェドがいたことをすっかり忘れていた。
「しぇ、シェド、ご、ごめ」
「エマ、結局お前はここに残るんだな?」
「は、ハイソウデス」
「そうか。ならば褒美は別で考えないとな」
「褒美…?」
「今回の褒美だ。望みは叶えてやると言っただろう。帰還が望みでなくなるなら、別のものを用意せねば」
「え、別にそんな、いらないよ」
「そうか?人の割に、エマは無欲だな」
そう言われると、勿体ない気もしてくる。だが、大精霊に叶えてもらう願いなんてあっただろうか。
「…あ、そうだ」
「なんだ?」
「私、この世界に残ることにしたの」
「ああ、知っている」
「だから、これからも時々会いに来てくれる?」
「我が?エマにか」
「うん。あ、人は何十年も経つと死んじゃうからね?もっと頻繁に、だよ」
「我に会いたいのか?」
「うん。なんか、これでもう二度と会えないっていうのは寂しいから。時々会いって、一緒にお茶でも飲もうよ。何て言うか、飲み友達?みたいな」
「…」
「だめ?」
「…ふ、ははは!」
「笑うところ?」
「我と、友人か!やはりエマ、お前は面白い」
シェドは愉しそうに笑うとふわふわと浮遊した。
「良いだろう。では、我からお前に、祝福を」
「祝福?」
そう言うとシェドは恵麻の額に軽く口付けた。口付けられたところからシェドの霊力を感じる。
隣でエストが瞳孔の開いた目で見ているが、これはさすがに浮気ではないので許してほしい。
「これは印だ。これがあれば我は常にお前と共にある。お前が呼べば我は行くし、お前がどこにいるのかが我に分かる」
「え、すごい。便利だね」
「大精霊の祝福を便利で済ませる人間は初めて見たぞ」
シェドは呆れたように言うが、そもそも祝福とやらが恵麻には分からない。あとでエストに聞かなければ。
「それとついでだが、我の器だったことと、今祝福を与えたことで、我の霊力がエマに定着したようだ。今ならエマにも多少の精霊術が使えるだろう」
「え、本当!?それは治癒術とかも?」
「恐らくな。使い方はそこのエストとやらに聞け」
治癒術は正直非常に有り難い。
今のところ身体に異常はないが、今後異世界という環境が恵麻にどんな影響を与えるのかわからない。治癒術は主に怪我に効くが、使い方によっては病気にも応用できると聞いた。今後恵麻に免疫のない異世界の病気に罹った際にも役立つはずだ。
「祝福をありがとう、シェド。私これから頑張るね」
「あぁ、それと、思い出したんだが」
「え?」
シェドがトントン、と恵麻の頭を指先で叩く。すると何故かシェドがどんどん大きくなり、恵麻は彼の足元で巨大なシェドを見上げる形となった。
「…?!」
「え、…ラナ?!」
隣で驚いているエストもものすごく大きい。…いや、この感覚、覚えがある。
「ふみゃっ?!」
恵麻はまたもや猫の姿に戻っていた。
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