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22. 猫と青年の休日





計画は明朝。ということで、その日恵麻はエストと二人、準備をしつつ休息をとることにした。買い出しも兼ねて、アリヤナクアの街に出る。



明日のことを考えると緊張するが、賑わう商店街を見ているとやはり、心躍る。人が多く、小さな猫の恵麻は歩いていると蹴飛ばされそうなので、エストの肩に乗っている。



美青年が猫を肩に乗せて歩く姿はどうやら女性の心をくすぐるようで、エストは女性たちの視線を集めていた。本人が露ほども気にしていないので、もしかしてこれがエストの日常だったのかもしれない。



「わ、あの服かわいい」

「どれ?」



店の表に飾られたそれは、ワンピースにエプロンのような形の模様がついていて、エプロン部分が赤や白、青といったカラフルな刺繍で飾られている。袖はパフスリーブで控えめに膨らんでいて、普段使い出来そうだがおしゃれなデザインだ。元の世界だと、どこかの山岳地帯の民族衣装にちょっと似ている。



「似たような服を着ている人が多いよね。伝統衣装なの?」

「いや、そうではないと思う。今の流行りなのかもね」

「そっかあ」


恵麻が目を輝かせていると、エストからの視線を感じた。


「なに、どうしたの?」

「いや、ラナが人に戻った時、着る服がないなって思って…」

「あ」



確かに、恵麻は目が覚めたら猫で、所持品は何もなかった。

どのように人間に戻るのかは分からないが、仮に全裸で戻った場合、着るものが何もない。



「確かに。まあでも、まだ戻らないと思うし、戻ったら買えばいいかなぁ」

「だめだよ。買いに行くにも着ていく服がないでしょ」

「エストの服を一時的に借りて…」

「ラナって、人の時どれくらいの身長だったの?」

「エストより背は低いけど…」

「じゃあぶかぶかだよ。用意しておこう」



明日は精霊塔に忍び込むという時に、エストに余計な買い物をさせるのは忍びない。今はいいと言ったのだが、エストは迷うこと無く女性向けと思われるお店に入り、周囲の女性の視線を浴びながら恵麻が可愛いと言ったワンピースを買い求めた。サイズが合うかは運次第だ。



その後もエストは女性用の靴や寝巻きなどを買い揃えていく。できるだけサイズ調整がききそうなものを選んでいたが、それでもわからないからとエストを止めると、なぜか髪留めやハンカチのような小物まで検討し始めたので、恵麻は本気でエストを止めなければならなかった。



「もう、どうしたのエスト…。なんか、楽しそうだね?」

「え?いや、そうかも。猫のラナも可愛いけれど、人間のラナに会えるのかと思ったら、楽しみでちょっと気が急いちゃった」


そう言って照れくさそうに笑うエストがあまりにも可愛くて、恵麻は「うっ」と胸を押さえた。



「あのね、ラナ。ラナが人に戻ったら、また改めて、こうやって町を歩きたい。買い物もしたいし、この国の色んなところを、改めて紹介したい。一緒に出かけてくれる?」

「もちろんだよ、楽しみだね」

「…うん」


エストはまたしても、はにかんだように笑う。

今日はどうしたのだ。こちらの琴線をくすぐるようなことばかりして…!



恵麻はまたしても胸が苦しくなり、そしてエストのはにかんだ笑顔という流れ弾を受けたすれ違う女性たちも、胸を押さえた。










その日の夜、明日の計画のおさらいをすると、二人は早々にベッドに入った。

恵麻はいつもの定位置として、エストのお腹の横辺りで丸くなる。

完全に猫だと思われていたときは抱きしめられていたが、さすがに今はそこまではされない。



「昨日も思ったけど、すごいふかふか。最高の寝心地よね!」

「うん、そうだね」


横になってすぐ、恵麻は眠気に襲われた。

うーん、公爵家ってすごい。お金持ち、すごい。



「…あの、ラナ」

「………」


恵麻はあっと言う間に寝てしまい、エストが話しかけてきたときには夢の中にいた。




「…おやすみ、ラナ」


エストはそっと恵麻の頭を撫でると、目を閉じた。





幕間のような話なので少し短めです、すみません。



本日は前作「人見知り」の後日談も投稿していますので、もし良ければそちらにも目を通していただけますと嬉しいです!

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