23. 執着
最近、自分がよくわからない。
死にかけ、生きることさえ半ば諦めていた自分が、今こうして大士の計画を打ち破るという無謀なことに挑んでいるのは、ラナがきっかけだということは自覚している。
ラナがただの猫ではなく人間で、しかも器だとか、そういった事情を聞いた後でも、決意は変わらなかった。
正体が何であれ、ラナは私の唯一の相棒だからだ。
彼女のために、そして自分のこれまでの人生にケリをつけるためにも、大士に挑む決意をした。
ラナとの旅は充実していた。
彼女と旅をするのは楽しい。彼女の世界との違いを話したり、貧乏旅ながらも観光めいたことをしてみたり、はたまた、知らなかった現実を目の当たりにしたり。
精霊塔という狭い世界に閉じこもっていた自分は、なんて愚かだったのだろうか。
それでも、ラナは愚かな私を甘やかす。
これまでの私の人生を肯定し、これからの人生を当然のように考えてくれる。
気の置けない友人というのは、こういうものなのだろうか。それとも、ラナが特殊なのだろうか。
彼女が他の男の膝に乗り、撫でられ抱き寄せられているのを見た時、私はこれまで感じたことのない焦りのような、怒りのようなものを感じた。
普通に考えれば、何てことのない風景だ。
ラナは猫なのだから、誰かが彼女を撫でたり、抱いたりしても、別におかしなことはない。
それでも、駄目だった。
ものすごく、嫌だった。
相手が男だというのもたまらなく嫌だが、恐らく女性でも嫌だと思う。
あれから私は、ダスティンや彼の執事のリックにも、ラナを触らせないようにしている。
ラナに触れるのは、自分だけでありたい。
なんという狭量さだろう。
自覚した途端、私は自分が怖くなった。
初めは恩人のラナの力になりたいとか、器である彼女を支えたいとか、大士とのことに決着をつけたいとか、そんな殊勝なことを考えていたはずなのに。
今や私は、ラナとこれからも共にいたいと、それだけのために動いていると言っても過言ではない。
彼女は異世界から来た存在で、代替わりが終わってしまえば、元の世界に帰ってしまうかもしれないのに。
いや、帰すべきなのだ。
彼女は強制的にこちらに連れてこられた被害者であって、元の世界に家族や、友人や、…恋人だって、いたかもしれないのだ。
私はこれまで、彼女の元の世界のことを、あまり深く聞いてこなかった。
生活様式だとか仕事のことは聞いたことがあるが、彼女個人のプライベートな生活には、あまり触れていない。
怖かったのだ。家族や、友人や、ましてや恋人を思い浮かべて、寂しそうにされたら、どうしようと。
早く帰りたいと、そう告げられたら、どうしよう、と。
彼女は私にとって、いわば麻薬だ。
共に過ごせば過ごすほど、彼女と離れがたくなる。手放したくなくなり、自分だけを見て欲しくなり、少しでも自分の視界から消えると、たまらなく不安になる。
これがどういった種類の感情なのか、まだわかっていない。
でも、自分が完全にラナに依存し執着しているということくらいは、分かっている。
しかも私は、多少なりとも、彼女を女性として意識しているのだ。
彼女が気を遣うなと言うので、これまで通り膝に乗せたり、抱き上げたりはしている。
でも、以前のように一緒のベッドで寝ていることに、違和感を感じてしまう。
抱きしめて眠るなんて、もうできない。
だって彼女は、人間の女性なのだ。
彼女の前で平気で裸になっていた自分を、殴りたい。
とはいえ、今現在、ラナはあくまで、猫だ。
会話ができるようになったとは言え、見た目は完全に猫。
そんな猫の姿の彼女に、こんなにも依存し、女性であることを意識しているというのは、正解なのか不正解なのか。
もはや自分が理解できない。
今も隣で、ラナはすうすうと寝息を立てている。
猫なので、全然おかしなことはない。ないのだが、でも、彼女は女性で、仮に今、急に人間に戻ったら、完全に裸で私の横にいることになり…
駄目だ。これ以上考えたら、いけない気がしてきた。
とにかく、明日は大事な局面なのだ。
早朝から動くためにも、仮眠は取っておきたい。
私は小さくため息をつくと、静かに目を閉じた。
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