18.燈華の覚悟『その伍』秘匿の代償、月の呪縛
燈華の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
クリスの表記をクリスティアナに変更いたしました(2023/6/27)
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/03/31)
神代良祐が客間より退室してから、静寂が再び訪れた。
その静けさは、先程までの会話の喧騒を打ち消し、まるで時間が止まったかのような錯覚を冬城燈華たちにもたらした。
西園寺紡は、良祐から手渡された書類に目を走らせ、その内容を吟味していた。
「これは良い」「これはボツ」
紡の口から漏れる言葉は、淡々としていて、感情の起伏を感じさせない。
ボツにされた依頼書がどうなるのか、燈華は興味を抱いたが、それを口に出すことはなかった。
紡の手伝いは、燈華にとってまだ荷が重い。
そう判断した燈華は、またもいつのまにか注がれていた紅茶のおかわりを、静かに口へ運んだ。
「それにしても遅いわね、流哉さん」
沈黙を破ったのは、紡だった。
その言葉に、他の面々も同意するように頷く。
「そこまで時間がかかるのかぁ」
燈華が呟く。
「トウカの頼んだ“お願い”で手間取っているのかもね」
紡が、手を止めて、燈華を見ながら言った。
「そんなことないと思うけど……」
燈華は、慌てて否定する。
しかし、紡の言葉が、燈華の胸に小さな棘を刺した。
「トウカはまだ理解が出来てないから言うけど、魔法使いにとっても抱えている魔導器は公開したくない情報よ。
秘匿したままにしておけるなら、そうしておきたいっていうのが、魔術師や魔法使いにとっての一般論。
まぁ、既に見せているモノや所持がバレているモノなら構わないけどね」
流哉への頼みが、実はかなりの難題であったことを、燈華は紡から教えられた。
頼まれた本人は特に困った様子を見せてはいなかったが、内心は「厄介な頼まれごとを引き受けてしまった」と思っていたかもしれない。
燈華は、自分が面倒なことを頼んでしまったのではないかと、内心で焦りを感じていた。
「私のように魔法使いとしての仕事に対応しているだけかもしれないから、そこまで気にする必要は無いわ。
嫌ならそもそも引き受けないだろうから、落ち込まなくても大丈夫よ」
紡の言葉は、燈華を励ますというよりも、事実を淡々と述べているようだった。
しかし、その言葉に、燈華はわずかに救われた気がした。
「励ましてくれてありがとね、紡」
「ガラじゃないことをやらせないで欲しいわ」
紡の言葉に、燈華は苦笑いを浮かべる。
紡が誰かを励ますなど、珍しいことだった。
燈華は、紡のことを友達だと思っている。
紡もそうであってくれると、燈華は願った。
紡の珍しい行動に、燈華が内心で感動していると、再び客間の扉がノックされた。
「どうぞ」
燈華が声をかけると、扉が開いた。
そこに立っていたのは、流哉を呼びに行った雪美だった。
「失礼するわね」
雪美は、客間の中を見回すと、燈華たちに告げた。
「流哉はもう少ししたら来ると思うわ。
部屋の中で何か探している音がしていたから、一応声をかけるだけにして先に来たの」
「そうですか……リュウちゃん、怒っていました?」
燈華は、雪美に尋ねる。
「特にそういう雰囲気じゃなかったと思うわ。
ただ、『先に片付ける仕事がある』って言っていたから、それを片付けているのかもね」
十中八九、部屋の中からする物探しの音は、燈華が原因だった。
怒っているかもしれないという燈華の心配は杞憂に終わったが、仕事もあって忙しいのに余計な手間をかけたのは悪かったと、燈華は反省した。
「まぁ、そのうち来るわよ。
それよりも私は燈華ちゃんに聞きたいことがあるんだけど?」
雪美の言葉に、燈華は警戒心を抱いた。
雪美の顔に浮かんだ笑みは、燈華にとって良いことが起こるとは思えなかった。
「何ですか?」
燈華は、動揺や警戒を表に出さずに雪美へ尋ねる。
「今でも流哉のこと、好き?」
雪美の唐突な問いかけに、燈華は言葉を失った。
てっきり聞かれるのは、魔術師としての生活はどうなのかという心配か、好きな人は出来たのかという遠回しの質問だと思っていた。
それなのに、直球で流哉のことが好きなのかと問われるとは、燈華は予想していなかった。
「えっ……その……あの……」
燈華は、言葉を紡ごうとするが、上手く言葉が出てこない。
「その反応を見る限り、答えは聞けたと思って良いのかしら?」
雪美の笑みが、燈華には意地悪く感じられた。
燈華は、幼少の頃から変わることなく、流哉を思い続けている。
その思いは、憧憬から好意へと変わった。
「はい……初めて遊んでもらった小さい頃からずっと。この思いが変わることはありません」
燈華の言葉に、雪美は安堵の表情を浮かべた。
幼少の頃から付き合いのある雪美だが、その表情を燈華は初めて見た。
「燈華ちゃんの思いが実ることを私は望んでいるわ。
流哉を、あの子をずっと思い続けてくれてありがとう」
雪美の唐突なお礼に、燈華は混乱した。
雪美が何を言っているのか、燈華には理解できなかった。
「急にどうしたんですか?」
燈華は、雪美に尋ねる。
「そうね。急にこんなことを言われても、燈華ちゃんは困っちゃうわね」
雪美は、燈華の戸惑いを察して、苦笑いを浮かべた。
「ええ、正直驚いています」
燈華は、素直に答えた。
「他言無用の事を話します。
他の子たちも聞いて後悔しない自信があるなら聞いても構いません」
雪美の言葉に、燈華と隣にいる秋姫は姿勢を正した。
ソファーから離れていたクリスティアナとアレクサンドラ、紡はソファーへと来た。
みんな興味があるようだ。
魔法使いに関する他言無用の話。
どんなリスクがあるのか分からないが、燈華は後悔をしない選択をしたつもりだった。
「ありがとう、流哉はモテるのかしらね?こんなに話を聞いて後悔しないと言い切れる子たちが居るんだから」
雪美は、燈華たちを見て、微笑んだ。
「ソレで、リュウちゃんに関する話しって何ですか?」
燈華は、みんなを代表して雪美に尋ねる。
雪美の表情は固く、冗談を言う気配はなかった。
「流哉の秘密……いえ、コレは呪いというべきものの話し。
流哉の魔法に関する代償のことです」
「待ってください。魔法使いの魔法に関する話、ソレも代償を本人以外が話して大丈夫なんですか?」
燈華たちの中で燈華の知る唯一の魔法使い、紡が雪美の言葉を遮った。
燈華だけなら何も考えずに話を聞いていた。
しかし、紡が話を遮るということは、何か問題があるのかもしれない。
燈華は、雪美の話の続きを確認してから、もう一度聞いても大丈夫なのかという判断をするべきなのかもしれないと思った。
「その点においては大丈夫です、童話の魔法使い。
特定の条件下において、あの子の魔法に関して話す事を、私は認められています」
雪美は、紡の問いかけに答えた。
「本人の了承があるってことね。先にその条件の確認をさせて頂いても?」
紡は、雪美に尋ねる。
雪美は、少し考える素振りを見せた後、頷いた。
「いいでしょう。条件は全部で三つ。
一つ目は、流哉が近くにいる事。コレは対象外に話しを聞かれても、直ぐに処理を可能とするため。
二つ目は、話しても良い項目には制限をかける事。コレは私個人にかかっている制約だから問題ないわ。
最後は……『月の魔法』を狙うモノじゃないこと」
「それだけ?」
紡は、雪美に尋ねる。
「流哉から課せられている条件は以上ですよ、魔法使い。
今までの話しを聞いた上で、話しの先を聞くかどうかを問います。
皆さんの意思は変わりませんか?」
雪美の話を聞いても、燈華の意思は変わらなかった。
同居人たちを見るが、彼女たちの意思も変わらないようだ。
誰一人としてソファー周辺から離れる気配はない。
「皆さんの意思に感謝を」
雪美は、燈華たちの決定に満足したのか、先程とは異なり笑みを浮かべた。
「流哉に関する秘密で、私が話しても良いと許可を貰っているのは神との契約で生じたギフトに関すること。
契約した神から送られる加護、私達はギフトと呼ぶ呪いの事です」
「最強の魔法使いに与えられた加護……興味が出て来たわ」
魔法を発現させた際に契約する神から贈られるという加護。
多くは強力な加護を授かるだけと聞くが、流哉の場合は違ったのだろうか。
紡が以前、「ギフトは贈り物じゃなくて呪い」と言っていたことを、燈華は思い出した。
今回の話し、どうでしたか。
燈華の恋心と、流哉の魔法の代償についての話しでした。
魔法と代償については本編にて書く予定ですので、それまでお待ちいただけたらと思います。
筆者のマイページの方にあります『徒然日記』の方で、戯言程度の書き込みをしてあったりします。興味がありましたら覗いてください。
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