17.燈華の覚悟『その肆』人形遣いの密約、秘匿の代償
燈華の視点になります。
楽しんで頂けたら幸いです。
クリスの表記をクリスティアナに変更いたしました(2023/6/27)
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/03/30)
クリスティアナの問いかけは、宙に漂う塵芥のように、曖昧な輪郭を残して一応の決着を見た。
冬城燈華たちが言葉を交わす間に、先ほどまで話しをしていたはずの神代流我は、いつの間にか客間から姿を消し、そこには燈華たちだけが残された。
神代の家であるにもかかわらず、この空間には家の住人が一人もいない。
それは、まるで時間の澱に沈んだかのような、異質な静寂だった。
客間に置かれた古びた調度品は、静かに時を刻むことなく、ただそこに在るだけのオブジェクトと化している。
窓から差し込む陽光は、埃の粒子を照らし出し、幻想的な光景を作り出していた。
燈華は、自身も気付かぬうちに、いつの間にか用意されていた紅茶に口をつけることにした。
「あ、本当に美味しい。若干冷めちゃっているのが残念だけど」
燈華の言葉に、大津秋姫が同意する。
「いつの間にか注がれて、提供されているからね。
誰も見ていないバトラーさんの姿を見たのも紡さんただ一人だけだし」
「ヒメも気付かなかったの?」
「私もいただいたお茶を飲み干して、『お代わりが欲しいな』って思った時には、空にしたはずのカップに次の一杯が注がれていたから」
「本当にナニモノなんだろうね」
秋姫の言葉に、燈華は同意する。
この屋敷には、人間の常識では計り知れない何かが潜んでいる。
そんな予感が、燈華の胸をざわつかせた。
そんな時、客間の入り口がノックされた。
神代流哉を連れて神代雪美が来たのかと思い、燈華は慌てて身だしなみを整えようと、手鏡を取り出すべくカバンを漁る。
「良祐です。入っても良いでしょうか?」
客間を訪ねて来たのは、流哉の弟、神代良祐だった。
魔法使いを二人も輩出した神代家にしては珍しく、彼は純粋な一般人である。
神秘とは一切の関わりを持たずに生きてきた、それは燈華たちのような人間からすると、稀有な存在だった。
「失礼します」
最後に良祐と会ったのは、もう随分と昔のこと。
燈華の記憶が正しければ、先代の神代の魔法使い、神代月夜の葬儀の時、それが最後だったはずだ。
「こんにちは。お邪魔しています」
「燈華ちゃんと秋姫ちゃんか……大きくなったね」
良祐の瞳が一瞬、大きく見開いたような気がした。
それは、予期せぬ出会いであったかのように、驚きという感情が相応しい反応だった。
「もう、いったい何年、会っていないと思っているんですか?」
燈華は自身の魅せ方をよく理解している。
年頃の女子高生のようで、どこかに女としての色気を感じさせるような。
露骨であからさまな表現ではなく、見せた相手に感じ取らせる、そういう魅せ方だ。
「ソレもそうだね」
良祐は、燈華の一つ年上だったはずだ。
兄の流哉は燈華を呼び捨てにするが、弟の良祐は常に「ちゃん」付けで呼ぶ。
決して呼び捨てにしないところは、父親の流我譲りなのだろう。
「進路はもう決まりましたか?」
燈華は、良祐に問いかける。
「一応、この町の大学へ。通いながら家業を手伝う予定だよ。
昔から、父さんに家業の手伝いをするように言われてきたからね。
身も蓋もない話しをするなら、親の敷いたレールへそのまま乗るって感じかな。
恥ずかしい話しなんだけど、僕は兄貴のように外国の大学へ進める程、優秀じゃないから」
「いえ、この町の大学って宇深之輪大学ですよね?
謙遜する必要の無いくらいに十分優秀です。
都内の一流大学と遜色無いほどの倍率と聞いていますよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいね」
「自身を持ってください。
それに、宇深之輪大学のレベルで謙遜って、下手すると嫌味ですよ」
良祐と軽く世間話をする。
燈華は、当たり障りのない話題を選びながら、友人たちにハンドサインと目配せで情報を共有する。
一般人の良祐に、魔術や魔法の話題を持ち出すなという意味を込めて。
「ところで何か用事があったのではないですか?」
秋姫が、良祐に問いかける。
「そうだった。秋姫ちゃん、西園寺紡って子は誰かな?」
「……私よ」
紡が、怪訝な表情で答える。
良祐は、紡の前に進み出ると、手に持っていた書類封筒を手渡す。
「父さ……神代家の流我から、西園寺紡様へ」
最初は気軽な態度で封筒を渡そうとしていた良祐は、一度言葉を区切り、外向けの態度に切り替えた。
これは、神代家としての仕事なのだろう。
オンとオフを切り替える、公と私を明確に区別する様は、流石の一言に尽きる。
先代の教えなのか、それとも流我が身に着けた処世術なのかは分からないけれど……
「確かに受け取ったわ」
紡は、一言だけ告げる。
良祐は、そのまま部屋を出ていく。
最後のドアを閉める直前に、「兄貴はもう少しすれば来ると思うから」と燈華たちに言い残して。
再び、客間には燈華たちだけが残された。
部屋の外の気配が、確かに遠ざかっていくのを確認して。
「紡、その封筒は何?」
燈華が、紡に問いかける。
「コレ?」
紡は、手渡された書類封筒を指さして確認する。
「そう」
燈華は、頷く。
紡は、封筒を指していた指をそのまま口元へと持って行く。
その仕草は、人形のように無機質で、どこか可愛らしかった。
しかし、その後の考える仕草をしてから口元に浮かべる笑みは、可愛らしさとは裏腹に、何かを企んでいるような、不気味な雰囲気を漂わせていた。
「気になるの?」
紡が、燈華に問いかける。
「気になるけど、話せないならソレで良いよ。
無理に聞き出したいとかそういった気は一切ないし。ただの興味本位だから」
「そう……まあ秘密にするほどの事じゃないから話してあげてもいいわ」
「なら聞くけど、ソレの中身は何?」
「先ほど受け取った本の対価よ。探し出して欲しいと頼んだ本を、見つけ出して届けてくれたことに対するお礼よ。
封筒の中には、私に対する仕事の依頼書が入っているだけ」
「紡が引き受けた依頼か……少し興味あるかも」
「中身を見たら、問答無用に手伝ってもらうけど、それでも見たいの?」
「ソレは遠慮します」
燈華は、紡が引き受けた仕事内容に興味はあるものの、それに関わる気はなかった。
変に関わって厄介ごとを被るのは勘弁願いたい。
自身への被害が無いのであれば興味本位で首を突っ込むが、危ない橋は渡らないに越したことはない。
燈華は、わざわざ火中の栗を拾う必要は無い。
今回の話し、どうでしたか。
流哉の弟、良祐が出てきました。
魔法や魔術といった神秘に関わりを持たずに生きてきた人です。
※三上堂司からのお願い※
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