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魔法使いに平穏は訪れない  作者: 三上堂 司
事態は何をせずとも動いて行く

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16.燈華の覚悟『その参』異邦人たちの寓話

燈華の視点になります。

楽しみにして頂けたら幸いです。


クリスの表記をクリスティアナに変更いたしました(2023/6/27)

引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。

まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。


タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/03/29)

 西園寺紡さいおんじつむぎ神代流我かみしろりゅうがが、密やかに言葉を交わし始めてから、既に十数分の時が過ぎていた。


 客間の重厚な扉が閉じられた時、そこは外界から隔絶された、異質な空間へと変貌を遂げた。


「……さて」


 冬城燈華は、小さく呟き、客間にいる面々を見渡す。


 そこには、西園寺紡を筆頭に、大津秋姫おおつあき、アレクサンドラ、クリスティアナの姿があった。

 紡と流我の会話は、まるで異世界の言語のように、燈華たちの耳には届かない。


 ……この二人は、一体何を話しているのだろうか。


 燈華は、紡と流我の会話に、微かな警戒心を抱く。


 流我さんは、ただの人間ではない。

 魔法使いの子供である以上、普通の人と同じであるはずがない。


 昔から知っている、人の良い、叔父のような人。

 だからこそ燈華は、流我の存在に、言いようのない不気味さを感じていた。


「別に黙ってなくても良いのよ?」


 不意に、紡が首をかしげながら、燈華たちに声をかける。

 その声音は、まるで人形が喋っているかのように、無機質で、どこか冷たかった。

 紡の言葉に、燈華たちは顔を見合わせる。


 燈華は、紡の言葉に、微かな戸惑いを覚えるが、当人が話して良いと言う以上、余計な気を使う必要はないのかもしれない。


 それに、この沈黙は、確かに気まずい。


 燈華は、客間の異様な雰囲気に、居心地の悪さを感じていたも事実だ。


「それにしても……こんな山奥に住むんだね、日本の魔法使いって」


 クリスティアナが、退屈そうに呟く。

 その言葉に、燈華はハッとする。


 そういえば、クリスは日本のことを何も知らないのかもしれない。

 誤解したまま放置することはできない。


 燈華は、クリスティアナの無邪気な問いに、答えを返す。


「うーん……そういう訳でもないんだけどね。

 ねえ、クリスはどういう場所に住んでいたの?」


 燈華は、クリスティアナの出身地について尋ねる。


「私の場合は……参考にならないよ。

 私が住んでいた場所は特殊だったし、その後にお世話になっていたマリアたちは普通の場所に住んでいたから……てっきり日本もそうなのかなって」


 クリスティアナは、悪びれる様子もなく、答える。

 その言葉に、燈華は困惑する。


 マリア……?それはいったい誰だろうか。


 燈華は、クリスティアナの言葉に、聞き覚えのない名前を感じた。


「クリスと話していて、日本では神秘に関わる人は皆、人里より離れた場所に住んでいるモノと思われている……」


 燈華は、クリスティアナの言葉を反芻はんすうする。


 確かに、神代流哉かみしろりゅうやの実家は月衛山げつえいさんという山の中、紡と住んでいる場所は西宮山にしみややまの霊園近く。

 お世辞にも人里とは言えない……燈華の実家も西宮山の中にある。


 燈華は、自らの境遇を振り返り、愕然がくぜんとする。


 思い返せば、燈華の知っている神秘に関わるモノは揃って辺鄙へんぴな場所に住んでいた。

 コレは言いつくろってもダメだ……


 燈華は、自らの認識の甘さを痛感する。


「私たちが辺鄙な場所に住んでいるだけであって、他の人は……きっと……普通の……」


 燈華は、必死に言い訳をしようとするが、言葉は次第に小さくなっていく。


「トウカ、ドンドン声が小さくなっているよ?」


 クリスティアナが、呆れたように告げる。


「私の知っている範囲だとクリスの言う通りなんだけど、他もそうだと言い切れるほど私が知っている訳じゃないんだよね……アレックスはどうだったの?」


 燈華は、アレクサンドラに助けを求めるように問いかける。


「私の境遇も特殊だからね……参考にはならないと思うわ」


 アレクサンドラは、苦笑いを浮かべながら答える。


「アレックスも私と同じくらいの時に連盟に来たんだよね」


 クリスティアナが、アレクサンドラに問いかける。


「そうね。連盟に来て初めて会ったのはクリスだったわね」


 アレクサンドラは、懐かしむように答える。


 二人の仲の良さは同居している皆が知っている事だけど、てっきり幼馴染か何かだと燈華は思っていたのだ。


 燈華は、アレクサンドラとクリスティアナの関係に、意外な事実を知る。


「二人は連盟に来た時から一緒なんだ」


 燈華は、驚きを隠せずに呟く。


「そうだよ。私はアレックス好きだし、一緒に居られて嬉しい。

 今はトウカとツムギ、ヒメも一緒ですごく楽しいよ」


 クリスティアナは、屈託のない笑顔で答える。


「私もクリスのこと好きですよ。もちろん、トウカやツムギ、ヒメの事も」


 アレクサンドラも、照れ臭そうに答える。


 唐突にクリスティアナとアレックスの気持ちを聴けて嬉しい反面、気恥ずかしい。


 燈華は、二人の言葉に、居心地の悪さを感じ始める。


 なんだか恥ずかしいと思い始めたら、ドンドン恥ずかしさが増してきた。


 燈華は、誤魔化す為に、いつの間にか用意されていた紅茶を飲む。

 カップ一杯の紅茶を飲み切り、少し落ち着きを取り戻すことが出来た。

 燈華が落ち着いたのと同時に、紡と流我の話し合いは終わったようだ。


つむぎ、聞きたいことがあるんだけど良い?」


 燈華は、紡に声をかける。


「別に構わないけど?」


 紡は、無表情で答える。


「クリスに聞かれたことで、私だけだと上手く答えられないことがあって」


 燈華は、紡に事情を説明する。

 紡は、燈華の話しを聞き終えると、顎に指を当てて、考え事をする時か考えをまとめる時のクセを取った。


「その話しだけど……日本の事は私にもよく分からないわ。

 私の起源は母親の生まれ故郷であるイギリスだし、私もイギリスで生まれてイギリスで育ったから。

 まぁ、イギリスの場合で良ければ少しは話せるけど」


 紡は、淡々と答える。


「それってクリスの言う事と同じじゃないの?」


 燈華は、思わず反論する。


「全然違うわよ……」


 紡は、軽く頭を左右に振っている。


 どうやら呆れ半分と少しだけ馬鹿にされているようだ。温厚な私も怒るときは怒るぞ。


 燈華は、紡の態度に、わずかに苛立ちを覚える。


「何故か怒っているみたいだけど、別にバカにした訳じゃないわよ?

 クリスの言っていた『マリアたちは普通の場所に住んでいた』ってことが、そもそも間違いなの。

 連盟の重鎮の一人である『マリア・クロノハート』が、普通の場所に住んでいる訳ないじゃない」


 紡は、淡々と説明する。


「言われてみれば……クリスも昔いた場所は『参考にならない』って言っていたし、次に見た場所が基準になっても不思議じゃないね」


 燈華は、紡の言葉に納得する。


「そういうこと。クリスが普通って言っていたマリアの住んでいる場所は連盟の本拠地、それもトビキリ厳重な守りを施された一等地よ」


 紡は、付け加えるように説明する。


「そんな場所が基準なんだ……それじゃあ日本の魔術師達の中にも辺鄙な場所に住んでない人も居るってことだよね?」


 燈華は、紡に問いかける。


「さあ? 私は知らないわ。

 私よりも打って付けの人が居るじゃない」


 紡は、部屋から出て行こうとしている流我を見ながら燈華に言う。


流我りゅうがおじ様、少し良いですか?」


 燈華は、流我に声をかける。


「どうしたんだい」


 流我は、足を止めて燈華の方を向く。


「あの……変な事を聞くんですけど、辺鄙なところに住んでいない日本の魔術師っているんですか?」


 燈華は、遠慮えんりょがちに尋ねる。


「質問の意図が良く分からないんだけど?」


 流我は、怪訝そうな表情を浮かべる。

 燈華は、クリスティアナとの会話から始まった、一連の出来事を流我に説明する。

 流我は、燈華の話しを聞き終えると、納得したのか頷く。


 懐からメモ帳を取りだすと、中を確認している。


「うーん……僕の知っている範囲であっても、人里に住んでいるっていうのは知らないな。

 母さんの知り合いにも居なかったと思うよ。

 そもそも、日本の特性を考えても人里に住みつくのは厳しいんじゃないかな?」


 流我は、燈華に答える。


「日本の特性ですか?」


 燈華は、流我の言葉に問い返す。


「特性っていうか、民俗性かな?

 昔は排他的な地域性をしていたし、神秘に関わる人間は……まぁ、怪しいことが多いから」


 流我は、説明する。


「それで人里離れた場所に住みついたってことですか?」


 燈華は、流我に確認する。


「それが大半の理由だったと思うよ。

 わざわざ注目を集める必要は無いし、神秘は秘匿するモノって言うのは昔からの習わしだからね」


 流我は、答える。

 燈華は、紡と流我の回答を聞き、一つの事に気づく。


「神秘に関わる人で、人里に住んでいるのって……居なくない?」


 燈華は、呟くように言う。


「燈華……ようやく気づいたの?

 クリスの問いかけが、そもそも的外れなのよ。同業にすら秘匿するモノを大衆へ向けて公開する訳ないじゃない」


 紡は、呆れたように言う。


「そうだね、紡……そもそも秘匿するモノだって御爺様と御婆様に教わっていたわ」


 燈華は、自らの認識の甘さを恥じる。


「私の手の内なんて言うのは、隠して当然のモノ。

 良かったわね、燈華。これで一つ新しいことを知れたじゃない」


 紡の言葉には少し棘があるモノの、燈華が一つ学んだのは間違いない。

 魔法使いに限らず、魔術師や錬金術師、神秘に関わるモノは手の内を秘匿する。

 蓄えた知識や魔導器、独自に開発した術式等は秘匿する要項だ。


 裏切りや謀略、昨日の仲間が明日は敵なんてことはザラ。

 教えを施すのは、契約で縛った弟子か後継者ぐらい。

 情報が漏れ出る心配と利便さを天秤にかけるなら、確実な秘匿方法を取る。


 結果として、人里から離れた場所に居を構えるのは至極当然のことと言えるのだ。


「クリス……ゴメン。たぶん、日本に限らず神秘に関わるモノは人里には住まないよ……」


 燈華は、クリスティアナに謝罪する。


「マリアが特殊ってこと?」


 クリスティアナは、首をかしげる。

 燈華がどう答えるか迷っていると、


「そういう訳ではないわ。クリス、貴女の言う『マリアと住んでいた場所』っていうのは連盟の本拠地の中よ。

 連盟の本拠地を人里とは言わないわ。クリスは特殊なケースで連盟に来たからそう思うのよ」


 紡が間に入って答える。


「そういう事か。よく世間知らずとかって言われるけど、もっと周りの世界を知らないといけないのね」


 クリスティアナは、素直に認める。


「そういうことよ。私が貴女を受け入れたのも、マリアから『外の世界を教えて欲しい』って依頼があったのもあるわけだし……これから知って行けば良いわ」


 紡は、付け加えるように言う。

 紡がしっかりと答えてくれたことに燈華は安堵する。

 燈華ではしっかりとしたことは言えなかったと思う。


 まだ燈華の魔術師としての時間は浅い。

 魔法使い以上の言葉をつむぐ事は出来ない。

今回の話し、どうでしたか。

クリスティアナの疑問から始まった今回の話し。

紡と流我を巻き込み、この物語上の設定を掘り下げました。

この辺のアレコレは『徒然日記』にでも書こうかと思っています。

興味がありましたら、覗いてみてください。


※三上堂司からのお願い※


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

読者の皆様へ筆者からのお願いがございます。

本作を読んで、「面白かった」「続きが気になる」等、少しでも思って頂けましたら、

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これから物語を書き続けていく上でのモチベーションに繋がります。

今後ともよろしくお願いします。

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