13.嫌な予感は外れない『その拾参』神蔵と竜の剣
流哉の視点で進みます。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトル付け、大幅に加筆と修正を行いました(2025/03/19)
宝物庫の一角、神代流哉の道具が収められている蔵の一角。
博物館のように展示されている流哉の道具類の中、五本の剣が収められている場所。
その剣とガラスを隔てた前にドワーフの少女ミスティと共にいる。
「さて、問題はこの中からドレを持ち出すかなんだが」
流哉は、陳列された五本の剣を前に、腕組みをして唸った。
それは、まるで宝石商がショーケースに並んだ宝石を吟味するかのような、真剣な眼差しであった。
しかし、その瞳の奥には、どこか楽しげな光が宿っている。
「私としてはドレもヤバいから変わらないと思う。まさかと思うけど、主はこの剣を他の誰かに抜かせるつもりなのか?」
ミスティは、流哉の言葉に眉をひそめ、警戒心を露わにした。
その表情は、まるで猛獣を前にした小動物のように、緊張と不安に満ちていた。
「その気は無いし、そもそも無理だろう。
この剣たちを抜くことが出来るのは、過去にも未来にも、この神代流哉をおいて居るわけがないと断言する。
今回は特別なんだ。本来であればいくら積まれても見せることすらあり得ない」
流哉は、ミスティの問いかけに、自信に満ちた笑みを浮かべて答えた。
その声は、まるで絶対的な真実を語る預言者のように、力強く、そして確信に満ちていた。
「それを聞いて安心したよ。
それなら……真ん中にあるのを持って行くのはどうだ?
この蔵の中においてもトビキリの上物だと私は言い切れるよ」
ミスティは、流哉の言葉に安堵の息を吐き、真ん中に陳列された剣を指差した。
その瞳は、まるで宝石鑑定士が最高級の宝石を見つけたかのように、輝いていた。
「ミスティがそこまで言うなら、剣はコレにしよう」
流哉は、ミスティの言葉に頷き、五本の剣の中からミスティが勧めた真ん中の一振りを選んだ。
その手は、まるで熟練の職人が道具を選ぶかのように、迷いがなかった。
目の前のガラスが歪み、出現する剣の持ち手を掴み引き抜く。
持ち手以外の全ては鞘の中に収められた無骨な剣。
いや、鞘と呼ぶのすら躊躇するモノに、完全に突き刺さった剣と言った風貌。
切り裂くよりも棍棒のように使い、叩き潰すのに適している形状。
大剣と呼ぶには小さく、片手で扱う剣にしては大きい。
大昔の騎士たちが使っていた鋳造剣の形が最も近いと言える。
一見するだけでは岩を削り出して作った大きな石剣。
「何度見てもスゴイと思う。コレを作り出したと職人は天才だ。
主の協力無しでは創り出すことは出来なかったという点を除いたとしても。
才能があり、運や奇跡をモノにする見極めのできる人だ」
ミスティは、流哉が手にした剣を見つめ、感嘆の声を漏らした。
「友人を褒められるのは嬉しいな」
流哉は、ミスティの言葉に微笑みを浮かべた。
その表情は、まるで自分のことのように誇らしげであった。
ドワーフ族の職人が、ここまで手放しで他種族の鍛冶職人を褒めるのは非常に珍しい。
鍛冶や細工といった職人芸において、ドワーフ族よりも優秀な職人が生まれるのは千年に一度あるか無いか。
職人としての誇りが高いドワーフは、他者を蔑めることもしなければ褒めることもない。
そんなドワーフのミスティが他種族の鍛冶職人をここまで褒めるのを流哉は初めて見た。
「主、抜いて見せてはくれないか?」
ミスティは、流哉に懇願するように言った。
その瞳は、まるで子供が珍しいおもちゃをおねだりするかのように、期待と好奇心に輝いていた。
「少しだけなら良いぞ」
普段であれば、『何バカなことを言っている』と一蹴するところだ。
それでも、友人の事をここまで称賛してくれるミスティの願いを蔑ろにすることはしてはならないと感じた
鞘の部分にベルトのように巻いてある封を解く。
鍵が外された鞘は、中身の剣本体を抜けないように固定していた爪が外れる。
次に鞘の中心をヒビが走る。少しの煙を吐き出し、剣を固定する最後の鍵である鞘その物は真二つに割れる。
割れた鞘の片割れを掴み、扇のように開く鞘から歪な剣を抜き出す。
「それが主の愛剣か」
ミスティは、流哉が抜き放った剣を見つめ、息を呑んだ。
まるで神話に登場する英雄の剣を目にしたかのように、畏敬と驚嘆に満ちていた。
「そうだ。最初に作ってもらったオレの為だけの剣。
オレが仕留めた竜の素材を余すことなく注ぎ込んで作り上げた、この世界に現存する最後の竜の剣、その一振りだ」
流哉は、ミスティの問いかけに、誇らしげに答えた。
自分の武勇伝を語る英雄のように、自信と威厳が満ちていた。
「主の魔力を吸い、力に変える竜の剣か……最強の剣と主が自慢するのも分かる良い剣だ」
ミスティは、流哉の言葉に頷き、剣を見つめた。
その瞳は、真剣そのもので、宝石鑑定士が最高級の宝石を鑑定するかのようであった。
「そろそろしまうからな」
「良い物を見せてもらった」
満足そうなミスティをチラッと見た後、剣を鞘に戻す。
歪な刃を嚙合わせるように鞘へはめる。
噛み合うと開いた鞘の片割れが元の位置へ戻り、完全に剣を隠す。
外れた爪が閉じ、緩んだ皮ベルトはきつく鞘へ巻き付き鍵を閉じる。
展示場より引き抜いた時と同じ形へ戻った剣を手に、未だ恍惚の表情を浮かべるミスティへ声をかける。
「次の場所へ向かうぞ」
「ん? 次ってどういうことだ?」
「オレの魔導器を見せると約束して、持っていくモノが剣一本な訳ないだろう」
「じゃあ、この前主が汚れを拭いた『アラクネの織布』は?」
「汚れたモノを見せるのはなぁ」
「汚れたままにしておく訳がないだろう。
ちゃんと、綺麗に、洗って、修繕したよ」
ミスティの声には怒気が含まれていた。
「なら、二つ目は『アラクネの織布』にするか。
オレにとってはそこまで珍しい物じゃないが、貴重なモノである事に変わりないってことだな?」
「そうだぞ。アラクネの糸ですら貴重品なのに、『アラクネの織布』なんてすごく貴重なモノなんだぞ」
力説するミスティに若干引くものの、それだけ貴重なモノだと伝わる。
あまりに変な使い方をすると、その内ドワーフ達に反乱を起こされるんじゃないかと不安を抱えたままになってしまったのは想定外だったが……
「さて、二品目は『アラクネの織布』に決まりだな。
それで、ミスティ。次の品なんだが……」
「まだ探すのか!?」
「最低でもあと三つは探すつもりだが?」
「貴重品をそんなに持ち出すのか!」
「五つ位なら良いだろう」
「主……私達ドワーフがどういう種族で、ここの門番みたいなことをしている理由って覚えているか?」
ドワーフ達がどんな種族なのか、それは知っている。ここに門番としている理由までは知らない。
「ドワーフ族は精霊女王によって生み出された妖精の一種族で、財宝等を集めてため込む習性がある。
ここに居ついた理由は……祖母さんが召喚してそのままじゃなかったか?」
「ハズレじゃないけど、正解でもない。
主の祖母、先代の私たちの主人であるツクヨに居場所を与えて貰えたのもそうだけど……一番はツクヨが作り出すモノ、ツクヨの道具を守ることが最初の契約だったんだ。今でもその契約は生きている。私達は好き勝手やっているけど、主の財宝を守るのが私達の存在理由だ」
理由を聞いて分かった。
財宝が好きだというのは本能からくる理由。
契約に縛られたのが根本にあるのかもしれないが、ここに古くからいる住人たちは祖母の事が好きだから。
今も去らずに残ってくれているは、亡き祖母との契約を律義に守り続けているからだ。
「祖母さんの集めたモノは持ち出さない。持ち出すのはオレの蔵の中からだけにするから、もう少し付き合ってくれないか?」
「勝手に持ち出されるよりかはマシか。分かった、もう少し主に付き合うよ」
「ありがとう、ミスティ」
ミスティと共に残りの品定めを始める。
何度も『アレはダメ』『コレはダメ』というやり取りをして、『竜剣・崩鱗丸』『アラクネの織物』と合わせて五つの魔導器を選んだ。
これなら見せても文句を言われることはないだろう。
ミスティに礼を言い、『父のバルザスと三人で話すという約束、忘れるなよ』と釘を刺されてしまったものの目的は達成した。
宝物庫から部屋に戻り、宝物庫へと通じる扉へ鍵をかける。
万が一誰かに入られたとしても、宝物庫へ通じる扉さえ閉ざしておけば心配はない。
その万が一さえ有り得はしないが、昔からの癖で鍵を閉める。
用心するに越したことはない。
今、この神代の家には、自分以外の魔法使いがもう一人もいるのだから。
今回の話しどうでしたか。
流哉が宝物庫から持ち出すことに決めた五つの魔導器。
なんとか選び出すことが出来て流哉は一安心といったところです。
ミスティと交わした約束がどうなるのか、記憶の片隅にでも置いてもらえればと。
次回の話しからは視点が燈華に変わります。
流哉が宝物庫に入っている間の話しになる予定です。
楽しみにして頂ければと思います。
※三上堂司からのお願い※
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