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14.生徒会秘匿ファイルVol.1の顛末『その弐』大人の事情と断ち切り鋏

燈華の視点です。

楽しんで頂けたら幸いです。


タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/01/20)

 冬城燈華と大津(おおつ)秋姫(あき)新山(にいやま)由紀子(ゆきこ)の三人は、ジンダイという企業の建物に入ってすぐ、約束していた人物と会えた。


 会えたというよりかは、相手の方が先に待っていた。


「今日はここまで来て頂いて済まなかったね。

 私が(おもむ)ければ良かったのだが……我が社も一枚岩という訳ではなく、恥を晒す話しになってしまう」


「いえ、私と秋姫(あき)のワガママを聞いて頂きありがとうございます。

 由紀子(ゆきこ)さんにあまり負担をかけたくなかったものですから」


「そこは私も同意見だから気にしなくて大丈夫だよ。

 さあ、案内しますのでついてきてください」


 神代(かみしろ)流我(りゅうが)に案内される形で冬城燈華たちは社長室へと通された。


 社長自ら自分の部屋に案内するなんて、想像していた以上に特別な扱いを受けているのは誰でも分かる。


 それだけ、流我という人にとって燈華たちは特別な存在だという事、だと思う。


「好きな場所に座ってもらって大丈夫だから」


 流我の部屋はシンプルに自身の机と応接用のテーブルとソファーだけ。


 余計なモノとかは置いていない。

 受賞した賞状とかを飾ってあるものだと思っていたので、想像と違って少し驚いた。


「警察の方から来るのは私の知り合いだからあまり緊張しなくて大丈夫だよ」


「警察にも知り合いがいるんですね」


由紀子(ゆきこ)ちゃん、軽蔑(けいべつ)したかい?」


「いえ、そういう訳じゃ……」


「ハハハ。正直でよろしい。

 神代(かみしろ)家が少々特殊な事情を抱えていることを由紀子ちゃんは知っているかな?」


「しっかりとは知りませんが、燈華(とうか)のお爺様からそれとなく」


「あの人は今も昔も変わらないね。

 そんな事情もあって、この町にいる限りは神代の名前は意味を持つんだ。

 それ相応の責任も伴うけどね」


 流我は続けて『清濁併せ呑む、という訳ではないけどね』と言うと、口を閉じた。


 何かあったのかと思っていると、この部屋を目指してぐんぐんと進んでくる大きな足音が聞こえてきた。


 随分と偉そうな態度を取っている人物も一緒にいるようだ。


 この部屋は廊下からの声がよく聞こえるらしい。


「こちらが社長室になっています」


「案内ご苦労。

 さて、私をこの場所へ呼びつけた張本人はどこかな」


 偉そうな態度の中年のスーツを着た男性が、これまた偉そうに声を発した。


 流我の様子を伺うと、その表情は燈華が今まで一度たりとも見たことがない、能面のような無表情だった。

 怒りとかそういった感情は一切感じ取れなかった。


「君は……誰かな?

 余計な人を連れてくる事を許可した記憶はありませんよ、有馬(ありま)さん」


 流我が声をかけたのは、その偉そうな態度の男性の後から入ってきた警察官の服を着た初老の男性だった。


 目の前の男は無視して奥の人へ話しかけたという事は、この偉そうな中年はイレギュラーという事だろう。


 口を挟まず、静観することを燈華(わたし)は決めた。


「すみません。警視庁から来ている者でして……」


「そういうことであれば君に文句を言うのは筋違いか……いい、コチラで抗議を入れるとしよう」


「私を無視して話しをするなどいい度胸だ。

 ここで逮捕しても良いんだぞ」


 黙っていればいいのにと燈華は思わずにはいられなかった。


 不快さが増すだけだ。

 何か言ってやろうかと思ったが、流我が手を上げて制しした。

 

「君は、少し黙った方が良い。

 ここには他に誰もいないのだから」


「脅しか?」


「いや、忠告だよ。

 私が止めなければ、君はそこに立っていなかったという事実を知るべきだ」


 そう、流我が制止したのは燈華だけではない。


 後ろから今にも男性の首を断つべく閉じようとしている巨大なハサミのような物だった。

 

「こ、これはなんだ」


 ようやく自分の置かれた立場が分かったのか、狼狽(ろうばい)し始める。


 有馬と呼ばれた男性はそんなものは存在しないかのように室内に入り、ソファーに腰掛けている流我の元へ来て頭を下げた。


「すみません。私のいう事を聞くだけの頭があれば良かったのですが」


「アナタが謝罪することじゃないよ。こんな無能をよこしたアタマに問題があるだけだ」


「私の方からも報告を上げておきますので、どうか今回は見逃してもらえませんか」


「それはこれから電話をかけての結果次第だ」


 流我は懐からスマートフォンを取りだすと電話をかけ始めた。

 数コールで相手が出たのか、少しだけ確認を取るように話しをしている。


「分かった。今回は返してやる。

 しかし、今回の事に関してはしっかりと説明をしてもらうぞ。

 日取りが決まったら連絡をよこせ、予定を開けておく」


 そういうと電話を切り、懐へしまう。

 誰に連絡をしていたのかと気になったが、ソレはすぐに分かった。


「警視総監からの頼みだ、お前の命を今は見逃そう。

 残念ながら、罰を与えるのは任せて欲しいということだ。

 私は今すぐ一人消えようとも何も変わらないと思うがね……そういうことだから丁重にお返ししてあげろ」


『オマカセヲ』


 流我がそう言うとドアの陰から腕が伸びて、中年の首をつかんで引きずって行った。


 ドアが閉まるその直前、チラリとだけ中年の顔を見たが、その表情は絶望に染まっていた。


「皆さん、御見苦しいものを見せました。

 海之輪(うみのわ)警察署署長の有馬、心からお詫びを申し上げます」


 有馬と名乗った男性が頭を深く下げた。

 どうしていいのか迷っていると、流我が声をかけた。


「あんなお荷物を預かるとは、その苦労察しますが、ここへ連れてきた責任は問わねばなりません。

 有馬さん、どうなさいますか?」


「後日、警視総監と同行し、その折にしかと弁明させて頂きたいと思います。

 本日は、現在町を騒がしている件につきまして話しを(うかが)わないわけには行きませんゆえ」


「あまり彼女たちを拘束する訳にはいきませんからね、後日しっかりと話しを聞かせてもらおう」


 とりあえず一段落ついたようだ。


 机から少し離れたところにいつの間にか置かれていた椅子へ座り、有馬という男はこちらを見据えてきた。


「では、教室の壁が崩れて、中から白骨化した遺体が出てきた時の事を聞かせて頂けましょうか。

 あまり思い出したくないことをお願いしていますので、少しでも体調が悪くなりましたら中断していただいて構いません。

 本来であれば女性の署員を連れてくる手はずでしたが、その者があの男に話しを()らしてしまったのが今回のきっかけになってしまいましたので、今は私で我慢してください」


「いえ、配慮して頂いたこと、ありがとうございます。

 当日その様子を最初から見ていたのは私たちだけですから、話す義務は果たさねばなりません」


 由紀子が代表して答えるようで、燈華と秋姫は時折確認を取られるくらいであった。


 燈華は有馬というこの男の様子を観察しているが、つかみどころがないというのが率直な感想だった。


「ふむ。だいたいの実情は分かりました」


「あのー私たちは何か疑われていたりするのでしょうか」


「その点は心配しなくて大丈夫です。

 白骨化した遺体は全て科捜研での鑑定を終えましたが、最も新しいもので死後五年は経過しているという結果が出ましたから。

 それよりも、最初に気づいたという冬城(とうじょう)の御嬢さんに伺いたい。

 何故、気づいたのかを」


 観察しているところで目が合い、話しの矛先は燈華へ向いた。


 いくらでも誤魔化す方法はある。

 だけど、正体を確かめるという意味も含めて、問いかけた方が良いと燈華の感が囁いている。


 流我さんにゆきちゃんを連れ出すように頼もうか。

 いや、それは不自然すぎる。


 あまり使うのは褒められたことではないと自覚しつつも、持ち歩いている魔導器の一つを起動させる。


 机の上に置いたオルゴール型の魔導器。能力は、特定の対象の意識を僅かな時間だけ朦朧もうろうとさせる。

 ある程度の実力のある魔術師には効かず、耐性のあるものにも効かない。

 一般人相手にしか使えないオモチャのようなもの。


 由紀子の意識を奪えていることを確認し、燈華は口を開く。


「―――まず、確認を取りたいのですが、貴方はコチラ側の人間ですか?」


 確認を取るのにこれ以上の問いかけを燈華は知らない。

 嘘か本当かを判断するのに、言葉を重ねる必要は、ない。


紫電(しでん)さんや雪乃(ゆきの)さんと同じことを言うのですね。

 私は踏み込んでしまった者です。

 神代(かみしろ)の先代当主からは忠告を受けていたにも関わらず……そして救われた。

 私は忠告を無視して、無様にも救っていただいた愚か者なのです」


「私が聞いているのはコチラ側の領域の人間かという事よ」


「どこまでを範囲と言われているのかは分かりませんが、魔術、というものは少なくとも知っていますよ」


 魔術を知っている。

 魔法使いに助けられた数少ない人間。


 信頼はできない。

 見ず知らずの他人を簡単に信頼することはできないし、そこまで能天気ではない。


 信用もできない。

 同様に簡単に信用もしない。寝首を掻いて掻かれてというのが魔術という薄暗い世界の常識だ。


 ただ、話しをするには十分な資格がある。


「まあ、最低限の資格はあると判断して、最低限の情報は開示しましょう」


「信頼や信用が得られるとはこちらも思っておりません。

 ただ、今回の件は話しが大きくなりすぎました。

 火消しをするにも、それ相応の事情を知らないと対応しきれないだけなのです」


「分かりました。

 それではその前日に合った化け物退治を含めて話しましょう」


 話したことは、

 前日の化け物退治の事、その過程であの場所に遺骨があることを知ったこと。


 どうやって退治したとかは当然ぼかしながら。


 当日には壁に亀裂が走る音を聞き、近寄ると壁全体にヒビが走っていたこと。

 クラスメイトを避難させ終わったところで壁が崩れて、その中から遺骨が出てきたこと。


「あとは、そちらもご存じの通りだと思いますけど?」


「そうですね。

 しかし、前日にそのようなことがあったとは……やはり常識の外にいる人なのですね、魔術師というものは」


「私たちは魔法使いに連なる者、ただの魔術者風情と同列に扱わないで頂きたい」


「配慮が足りなかったことを謝罪します」


 有馬からの謝罪を受け入れ、話しがまとまるのを待つ。

 口を出しすぎるのは良くないから。


「これで調書は終わりです。ご協力に感謝します」


 有馬が敬礼をして、部屋から出ていく。


 とりあえず、今日一番の予定は完了した。

 朝から不快な思いをさせられたが、これでようやく町を騒がす噂話に終止符を打つことが出来た。


 燈華(とうか)自身の不名誉は忘れられそうにないけれど。


燈華の視点、どうでしたか。

本日二話目の投稿です。

なかなか主人公の流哉を出せず、流哉の活動も書きたいのですが……

今しばらく燈華たちの日常にお付き合いください。


お読み頂き、ありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします。

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