13.生徒会秘匿ファイルVol.1の顛末『その壱』宇深之輪町一番の企業
燈華の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/01/20)
昨日の約束通り、冬城燈華は朝の七時に新山由紀子を迎えに行くべく西園寺紡の家を出発した。
大津秋姫と一緒に紡から車と運転手を借りて、宮古地区の借家に向かう。
車内で今日の予定を秋姫と一から確認しながら。
記憶から溢れていないか、抜け落ちていないか。
記憶を盗まれていないか。
「ゆきちゃんを拾ったら神代家の本社で良いんだよね?」
「由紀子さんを拾って、ジンダイの本社へ向かうで合っているよ」
「それにしても、こんなに朝早くから会社って始まるものなの?」
「ジンダイって企業での話しならもう少し遅いはずだよ。
あそこの始業開始時刻は九時のはずだし、ここら辺の企業では遅めの時間だったはずだよ」
企業としてのジンダイが優秀であることは秋姫の説明で分かった。
しかし、そこまでしてくれる神代流我という人物については、実はよく分かっていない。
幼い頃から大切に思い続けている人の父親。
古くからある魔法使いの家系で、祖父母の大切な友人の息子。
燈華という一個人の感覚からすると、神代流我という人物は親せきのおじさんというのがしっくりくる。
「それにしても、頼んだ側の言い分じゃないんだけどさ……なんで流我おじ様はこんな事に付き合ってくれるのかな?」
「いくつか考えられることはあるけど、聞きたい?」
そういう秋姫の表情はいつも通り真剣だけど、少し口の端が引きつっている。
紡のようなイジワルはしないけど、こういう時の秋姫は少し苦手だ。
たぶん、簡潔に事実を言われることをまだ受け入れられないんだと思う。
「聞かせて」
「まずは、燈華ちゃんと私が冬城と大津の家の人間だからだよ。
普通であれば小娘の戯言って言い捨てるところだけど、古くからの付き合いのある家の人からのお願いだもの、少しは考慮しないといけないから」
「なるほどね……お爺様たちのおかげってことだね。
次は?」
「二つ目は、私たちの小さい頃から知っているからだよ。
自分の子供のように思ってくれているからこそ、多少のワガママは笑って聞いてくれるはずだよ」
「まだまだ子供ってことか。
私たちはまだ対等な立場にはなれないってことだね」
流我からすると、まだまだ燈華たちは子供で、守られる立場にあるということだ。
そのことを燈華は実感させられた。
コレは良くない。
燈華はすでに裏で生きて行くことを決めている。
それは、神代の家とも裏の面での付き合いをしていくことを意味している。
子供のままではいられない。
それではあの人に置いて行かれちゃう気がするから。
「三つ目って言いたいところだけど……燈華ちゃん、着いたよ」
秋姫の声で現実に引き戻される。
目の前には由紀子が住んでいる借家が見える。
宮古地区にいつの間にか着いていて、玄関には由紀子が立って待っていた。
「話しはここまでにしておきましょうか。
まずは由紀子さんの事を優先しないとね、燈華ちゃん」
「そうだね、切り替え切り替え。
ゆきちゃんが一日でも早く安心して暮らせるようにしてあげないとね」
車を降りて、由紀子を迎えに行く。
こちらに来ようとしている由紀子を手で制し、駆け寄る。
「ダメじゃん。家の中で待っていてって言ったのに」
「車の音が聞こえたから」
「それでも待っていて欲しかったの。もし私たちじゃなかったらどうするの」
「そこはちゃんと確認してから出てきているよ。
今日は一日中付き合ってくれるって言っていたけど、そこまで付き合わなくていいからね?」
「好きで付き合っているから心配しなくても大丈夫だよ」
「そうですよ。私も燈華ちゃんも自分の意思で来ていますから」
由紀子を連れて車に行く。
まずはジンダイへ向かい、面倒な話し合いに付き合う。
由紀子になるべく負担がかからないように見守る以上の事はできないけど。
「じゃあ、行こうか」
「待って、燈華。運転手さんに挨拶したいから」
「―――それは許可できない」
「許可できないってどういう―――」
由紀子の言葉が止まる。
たぶん、強く言ったせいだと思う……決して燈華の顔が怖いとかじゃない、はず。
「彼のことには触れないで欲しい。
彼を貸し出してくれている人との約束だから、ここは譲れない」
「そういう事なら。これ以上触れないわ」
「そうして頂けると私も燈華ちゃんも助かります」
「二人にはお礼をしなきゃいけないのに、困らせようとか考えていないから安心して」
由紀子を乗せて、秋姫と向かいあうように座り、運転手に行き先を告げる。
いつも通り声を発せずに『コクリ』と頷き、車を発進させた。
「ゆきちゃん。今日はジンダイへ行った後はどうすればいい?
そこまでは昨日聞いてないから」
「引っ越しの業者を探すのと、家がどこまで完成したのかを確認しに行くってところかな」
「じゃあ、後で家の場所教えてくれる?
話し合いの間に良さそうな業者をヒメと探しておくよ」
車がブレーキをかけることにより発生する慣性により少し前かがみになる。
どうやら最初の目的地に着いたようだ。
株式会社ジンダイ。
町一番の大企業であり、月の魔法使いが隠れ蓑として作った会社。
お爺様たち、魔法使いと関りを持つことを許される数少ないコチラ側じゃない人間がいる場所。
燈華の視点、どうでしたか。
この章の最後の話し、その一話目として書いています。
楽しんで頂けたらと思います。
お読み頂き、ありがとうございます。
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