Ex.壁から生えた髑髏 『その拾壱』 壁から生えた髑髏
今回で『壁から生えた髑髏』の話しは終わりです。
最後の視点も引き続き燈華です。
楽しんで頂けたら幸いです。
※Exエピソードになります。
時系列をある程度無視しておりますので、本編と関わりなく楽しめるようになっております。
加筆と修正を行いました(2025/01/20)
入学式から少し時間が経ち、今の季節は夏に差し掛かっていた。
教室の壁から生えていた不気味なモノも、あの日以来見ていない。
西園寺紡から借りた使い魔が、全て喰らって行ったことは間違いない。
「紡、何で全部の魂を持って行っちゃったの?」
化け物退治をしたその日、帰宅してすぐに冬城燈華は紡に尋ねた。
紡はいつも通りにお茶のセットを広げ、いつも通りに紅茶を飲んでいるところだった。
燈華の問いかけに、紡は『何故?』という感じの顔でこちらを見返してくる。
「何で大元の魂だけじゃなくて、被害者たちの魂までも英雄に食べさせたのかを聞いているの」
「ああ、そのこと」
ようやく何を聞かれているのかが分かったのか、紡はカップをソーサーに置いた。
答えを待っている燈華の反応などお構いなしに、新しい一杯をカップに注ぎ、もう一度紅茶を飲むべくカップを持ち上げている。
「そのことって……私はどうしてって聞いているんだけど?」
「ッン。いくつかの理由はあるけど、全て聞きたい?」
紅茶を一口飲みこんでから、紡はいくつかある理由の全てを聞きたいのかと言ってきた。
燈華の中で答えは決まっていたので、即座に返事をする。
「もちろん」
「なら、一つ目の理由だけど、私が無償で手を貸す訳ないでしょう?
化け物の魂と被害者って言っている人たちの魂込みでも、普段であれば私が手を貸す基準には達していないわ」
「確かに……今回の件は私のワガママに紡が付き合ってくれただけだから、そう言われると私は何も言えない」
本来であれば魔法使いが無償で手を貸してくれるなどありえない。
燈華一人の力では到底用意することが出来ない対価を、刈り取ったモノ達の魂で良いと言ってくれている。
コレは魔法使いを相手にした取引では破格すぎる条件だ。
「一つ賢くなったわね。
二つ目の理由だけど、貴女が被害者と言っている人たちの魂だけど、既に汚染されていて、所謂ところの悪霊化、をしていたわ。
その場で放置したら、貴女はその悪霊達と一人で対峙することになるのよ?
燈華。貴女に、一人で苦手だって言っている幽霊を相手に、魔術を万全な状態で使えるのかしらね」
「それを言われるとグウの音も出ません。未熟な私に代わり処分して頂きありがとうございました」
燈華の苦手なモノがその場で解き放たれていたと聞き、直ぐにお礼の言葉を述べた。
その場で幽霊が急に湧いてきたらと思うと、おそらく冷静に対処などできる筈もなく、大量にかき集めた魔力を暴走させて教室を消し飛ばしていたとしてもおかしくない。
冷静な状態で振り返って、パニックを引き起こした自身の行動を分析しても、そういう行動をとるだろうと客観視できる。
これは明確な弱点だ
「まぁ、貴女の幽霊嫌いはその内克服させるつもりでいるから、覚悟をしておくことね。
これ以上の理由をまだ私の口から言って欲しいのなら、まだ続けるけど……燈華はどうしたい?」
「もう……十分です」
紡の目つきが変わっていた。
アレは燈華を困らせて楽しんでいる時の目つきだ。
結局は、燈華のことも考えてくれていたという事で、良いのかな。
「まぁ、使い魔の餌が欲しかったっていうのも理由の一つだけど……」
「それが本音でしょう!」
紡が最後にボソっとこぼした一言は、限りなく彼女の本心だ。
やはり魔法使い相手は、一筋縄ではいかないという事が痛いほど分かった出来事だったと、蒸し暑くなりつつある教室で思い返す。
「冬城さん、今のところちゃんと聞いていた?」
「ちゃんと聞いていますよ、新山センセー」
考え事に耽っていたのが、担任の新山由紀子教諭に注意をされてしまった。
他の生徒の前では“ゆきちゃん”とは呼ばない。
教師として、生徒として、それぞれの役割を演じる。
それが、この高校に入学することを決めた時に幼馴染の由紀子と交わした約束だから。
「じゃあ、次のページの三行目を……田中君」
「あ、はい……どこだっけ?」
クラスメイトの一人に由紀子の矛先が向いたことに若干安堵し、また物思いに耽る。
ノートと教科書のページをめくる手と、板書や補足説明を書き取るためにシャーペンを走らせる手は止めない。
まあ、若干ズルをしているのは誰にも分からないことだから、この際問題なし。
何かし忘れていることもあるような気がするけど、思い出せないってことはそこまで重要な事じゃないだろう。
化け物退治の事も若干燈華の中で薄れ始めて来た頃に、処理し忘れていたことが露見する。
こうなるべくしてなったとしか思えないタイミングで、燈華の忘れていたことが牙をむく。
クラスメイトが教科書を読み上げる声とは別に、『ピシッ』という音を燈華の耳が拾う。
「何、今の音は」
「冬城さん、どうしたの急に立ち上がって」
由紀子の咎める声を制し、音の発生源を探る。
発生源を探り当てた時、その場所は生えるように化け物がいたところだ。
壁をよく見ると、一直線に入った切れ目のような線と、そこから壁中に広がるように走るヒビを見つける。
燈華が観察している間もそのヒビは広がっていく。
「みんな、黒板の方へ。静かにカバンを持って移動して」
察しの良いクラスメイトはカバンを持って、静かに移動を始めた。
その間に寝ているクラスメイトを叩き起こしながら、燈華も少しずつ亀裂が広がりつつある壁とは反対側の黒板の方へ向かう。
「どうしたの、燈華ちゃん」
「燈華、何があったの?」
大津秋姫と由紀子が近寄ってきて聞いてくる。
由紀子の呼び方がいつもと違うが、そこは指摘せずにしておく。
大体のクラスメイトが黒板の方に集まっており、最も壁に近い位置にいるのは燈華と秋姫、由紀子の三人だった。
「教室の後ろの壁全体に亀裂が走っている。
たぶん、壁が崩れるのも時間の問題だと思う」
燈華の説明を聞き、由紀子がクラス全体に指示を出す。
「みんな、今から視聴覚室へ移動して下さい。
他のクラスは授業中ですので、静かに移動して下さい」
クラスメイト達は指示に従い、ゾロゾロと出ていく。
教室の中に燈華と秋姫、由紀子だけになった頃、壁のヒビ割れは限界を迎えた。
確実に聞こえる音で、『ピシッ』『ピキッ』と響く。
壁の表面がいくつかの破片になって崩れだす。
既に音は大きくなりつつあり、他のクラスでは教室の外に出だす人も出だした。
「ゆきちゃん、今からでもいいから校長先生には連絡を入れた方が良いと思う」
「もう、入れている最中よ……ですから校長先生、クラスの壁が崩れ出しているんです。
生徒たちは既に視聴覚室へ避難させていますので」
由紀子は既に校長へスマートフォンを使って連絡を入れていた。
連絡を入れるべきところには入れている。
なら、今の私にできることは、この状況を静観することだけだ。
壁はドンドン崩れていき、中に隠されていたものが徐々に姿を現す。
慎重に観察する。
壁の欠片が一つ、また一つと崩れるごとにコンクリートとは別の色のソレは……
「アレって人の骨?
もしかして……居なくなったっていう人全員分出て来るんじゃ―――」
壁の崩落が加速し、一気に内包されていたものが晒される。
壁の中から出てきたのは……絡み合う複数体の遺骨だった。
「ひっ―――」
そう、燈華はこういうのも大の苦手だ。
幽霊も苦手だけど、こういう唐突に現れる典型的なモノも苦手だ。
嫌いなモノが突然目の前に現れれば、燈華だって女の子だもの。
当然―――
「こ、腰が抜けた……」
燈華は床にペタンと座りこんでしまった。
目の前には壁を破って現れた何体かの遺骨が絡み合ったモノ。
燈華に向かって手を差し出すかのように伸びてきている腕骨。
しばらくは動かなかった遺骨の一部、髑髏の部分が『カラン』と音を立てて、腰が抜けて動けない燈華の前に転がってきた。
「ハ、ハハハ……もう、何なのよー!」
転がってきた髑髏が笑っているようにも見えて、燈華はぶつけようのない怒りをただただ叫ぶしかなかった。
不幸というか、何というか。
こういうモノはふとした瞬間に訪れるのだと痛感した。
ところ変わって私立宇深之輪高等学校から一山挟んで隣町である海ヶ崎にある男子禁制の花園、私立水野宮学園。
敷地内の木漏れ日が差し込む中庭の一角で、ひっそりと隠れるように木にもたれかかったまま、授業をサボって寝ている少女、西園寺紡が目を覚ます。
「何か燈華に伝え忘れていたことで、とても大切なことがあったような気がする……思い出せないってことはどうでもいい事ね」
再び童話の魔女は居眠りを始める。
魔女の居眠りは、同学年にいる同居人たちが気付くまで続く。
燈華の視点、及び『壁から生えた髑髏』の話しはどうでしたか。
最後に少しだけ紡が登場し、視点を挟みましたが、紡は平常運転ですね。
実は、このタイトルにある髑髏の読み方なのですが、ドクロではなくシャレコウベと読みます。
作者の遊びですので、そこまで大きな意味は持ちませんのであしからず。
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