8.童話の魔女の午後
今回は紡の視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
加筆と修正を行いました(2025/1/4)
西園寺紡は冬城燈華と大津秋姫、二人の同居人を送り出し、再びリビングへ戻ると、キッチンでいつものように紅茶の準備を始める。
用意した紅茶を一口飲み、一息つく。
「……ようやく、静かになったわね。ここ最近慌しかったから久しぶりにゆっくり過ごせそうかしら?」
少し本でも読もうかと思ったけど、燈華たちからお昼ご飯の時に使った食器の後片付けを頼まれていたことを思い出し、再びキッチンへと向かう。
シンクの中には三人分のお皿と、箸が二膳、フォークが一本、カップとソーサーの組が三ピース。
フライパンや包丁といった調理器具の類は燈華が洗っていったようだ。
「これくらいなら、直ぐに終わるわね」
本を開いて魔力を込めようとした時に燈華の言葉が脳裏に蘇る。
「む……」
特別気にする必要はない。
魔法使いが自分の為に魔法や魔術を使っても誰に咎められるわけでもない。
それでも燈華に言われたことが引っ掛かっていた。
「これ以上何か言われるのも面倒ね」
また『魔法をそんなことに使って』と燈華に小言を言われる面倒くささと今魔法を使わないことを天秤にかけた結果、自身の手で食器を洗うことにした。
洗い物の終わりとともに、頼まれごとは完了した。
連盟からの報告資料に目を通そうかと思ったところで、紅茶の準備をしていなかったことに気づく。
やはりらしくないことはするものじゃないと思いながらコンロの火をつける。
ティーセットをもってソファーの定位置に着き、カップに紅茶を注ぎ、一口飲む。
「ヒメの淹れてくれるロイヤルは文句なしに美味しいけど、ダージリンのストレートも捨てがたいわ」
秋姫の淹れてくれたロイヤルミルクティーを飲んだ後に、自分で同じものを淹れる気は起きなかった。
丁度懇意にしている茶葉屋から届いたダージリンの茶葉でストレートティーを淹れることにした。
「さてと、今回は面白い事でも起きたのかしら?」
カップの中を空にして、次の一杯を注ぐ。
本棚から一冊の本を取りだして、ソファーに座る。
燈華が興味深そうに覗いていた本を開き、今回の報告内容の部分までページが自動的にめくられていくのを眺める。
カップに注いだ二杯目が空になるのと同時に自動的にめくられていたページが止まる。
「これは……『忌まわしき帝王の裁断より一年が経過』って、ゴシップ記事の目玉記事ね。
この報告書をまとめたのは……クロイツの派閥とは驚きだわ。
魔法使いへ送られる報告書に乗せる内容ではないと思うけど」
報告書に乗っていたのは魔術師たちの間で人気のゴシップ記事。
わざわざ魔法使いへ宛てて送る報告書に載せる内容ではないはずだけど。
これがガウルンの派閥が書いたものであれば、また喧嘩でも売るつもりなのかとワクワクするところなんだけど……あの一件以来あの派閥は報告書に関わることを他の派閥から禁じられたことを思い出すと報告書にもう一度目を通し直す。
「『……等とガウルンの派閥で声をあげておりますが、魔法使いの皆さまは寛大な態度で容赦して頂きたい』って内容だったのね。
いちいち報告に載せることでもないと思うけど、まあ、ご機嫌とりかしら?」
結果的にはガウルンの派閥が少し暴走しているけど、コチラで対処するから何もしないで欲しいという事だった。
わざわざ報告書に載せてご機嫌を取るようなことでもないと断言しようとした時に、はたして自分は後で知った時にどういう態度を取っただろうかと紡は考える。
「愚問だったわね。そんな面白いことを知らされていないと知ったら……私なら二、三回はワガママを聞いてもらうって辺りね」
報告書に目を通し終えると、本を閉じ、本棚へ戻す。
今回もコレといって面白い報告はなかった。
最初のゴシップ記事の報告書だけはいいセンスだったと思うけど。
気が付けば時間は午後二時を回っていた。
窓から差し込む日差しに目を細め、暑くなり始めた外気にうんざりしつつ、ソファーに体を預け、瞳を閉じる。
童話の魔女の穏やかな午後は、睡眠で幕を閉じることになった。
紡の視点、どうでしたか。
久しぶりの視点でしたが……あまり喋らせていませんね……
楽しんで頂ければ幸いです。
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