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2.真夜中の贈り物『その弐』魔女からのサービス

今回も燈華の視点です。


加筆・修正を行いました(2024/12/27)

 祖父母(二人)が燈華に何を伝えたいのか、イマイチ分からずにいる。

 秋姫(あき)も手を加えた人がいると言ったきり、黙ったまま。


 (つむぎ)は相変わらずソファーの定位置に座ったまま、静かに紅茶を飲んでいる。

 どうしたものかと考えていると、秋姫が口を開く。


「羅針盤という性質を変えずに、別のモノを探すための専用の指針(コンパス)を付け加えるように変える。

 こんな芸当は錬金術師(アルケミスト)の中でもかなり上位の職人でない限り不可能ね。

 悔しいけど、この針を加工した人は私なんかよりも魔導器に精通しているわ」


 秋姫が自身を卑下(ひげ)してまで褒め称えているというのは、彼女を知る者からすれば少し異常に映る。

 大津秋姫おおつあきという幼馴染は、自身の腕に絶対の誇りを持っているからだ。


「そんなにスゴイことなの?」

「スゴイなんて言葉じゃ失礼なくらい。

 少なくとも私くらいの腕じゃ確実に失敗して台無しにしちゃう」


 秋姫の言葉に、ただの壊れた羅針盤のパーツと思っていた物が実はとんでもない物だと嫌でも気付かされる。

 使い方がよく分からないことを除けば、祖父母は確かに手助けをしてくれる気があることは分かる。


 ただ、もう少し分かりやすい形での手助けだと良かったなと思う。


「コレ、どうしようか?」

冬城(とうじょう)のお二人がくれたものだから何とかして使えるようにしたいけど、どう扱って良いか分からない物を無理に取り付けるのは私としてはあまりオススメしたくないかな」

「うーん。御爺様と御婆様には悪いけど、コレは考えない方が良いのかな」


 魔法使いからの贈り物を有効に使えないのは残念だけど、針の正体ばかりを考えて本来の目的を達成できないのでは意味がない。

 最も大切なことは神代(かみしろ)流哉(りゅうや)という魔法使いを捕まえることなのだから。


「ねえ。その針にばかり思考が向いてしまっているみたいだけど、図面の方にはしっかりと目を通したの?」


 座って紅茶を飲んでいたはずの紡はいつの間にか燈華の隣に来ていて、針と一緒に送られてきた羅針盤の設計図が描かれた図面を指さしている。


「しっかりと目を通したって、ただの図面でしょう?

 さっきまで羅針盤に拡張機能があるなんて知らなかった私が、図面から読み取ったり、分かることなんてあるわけないじゃない」

燈華(トウカ)には無理でもヒメには分かることがあるんじゃない?」

「何度も目を通したけど……私が分かることは、この図面は針の本来ついていた羅針盤のモノじゃないってことくらいよ。

 針と図面の経過した年代には違いがあるもの」


 秋姫の言葉に燈華はもう一度図面を見直してみた。確かに描かれている針の形は祖父母の贈り物とは違う。

 図面に描かれている内容と、実際に手元にあるモノが違うということは、針と図面の羅針盤は同じものじゃないということ。

 針と図面の経過年代が違うというのはまったくの素人である燈華には分からなった。


「それって……図面が全く役に立たないって意味じゃない?」

「そうとも言うね」


 秋姫の言葉に、祖父母は送ってくるものを間違ってしまったのではないかという気持ちが浮上する。

 そして、意味深なことを言った紡の思惑が分からなくなった。


「まあ、その辺りで及第点をあげましょうか」


 紡がため息交じりに及第点と言うと、一冊の本を取りだす。


「私のように魔眼持ちでもないし、鑑定眼や鑑定の魔導器を使ったわけでもないのだから、ハッキリと分からなくてもしかたないわ。

 今から、貴女たちにこの図面の本当の姿を見せてあげる」


 紡が本を開くと、中から文字が抜け出し、図面を中心に魔法陣を展開する。

 魔法陣の中で古ぼけた紙は新しく、材質も羊皮紙へ変わる。

 薄れて消えかけていた文字、図は細部に渡り鮮明に蘇っていく。

 図面が本来の姿を取り戻すのと同時に紡は開いていた本をパタンと閉じる。


「今回はサービス。流哉(リュウヤ)さんを見つけて捕まえるというのは、私たちの共通認識であり共通の目的だから」


 紡の手にあったはずの本はいつの間にか消えている。

 見るたびに思うけど、いつもどこから本を取りだしているのだろう?


「せっかく分かりやすい姿に直してあげたのだから、私を見ていないで早く図面を見なさい」


 まじまじと見すぎたのか、怒られてしまった。

 これ以上怒らせる前に、せっかく図面が見やすくなったのだから、そっちに集中するべきでしょう。


「コレっていったい……どれくらい前のモノなの?

 羊皮紙なんて使って羅針盤の設計図を描くなんて……余程大切なのか、貴重なモノのどちらかだとおもうけど」

「大体十世紀から十四世紀ってところじゃないかしら」

「紡の目でもハッキリとは分からないの?」


 いつもきっぱりと言い切る紡にしては曖昧(あいまい)な言い方だ。

 珍しいこともあるものね。


「燈華は珍しいこともあるとか思っているんでしょう?

 時間を巻き戻すなんて魔術は得意ではないのだから、五世紀以上も前に(さかのぼ)られると把握はしきれないわ。

 時間に関する魔術は特に難しいし、専門じゃないから詳しい時代までの判別は私にはできない」


 ハッキリと()()()()なんて言い切るとは思わなかった。

 いつも自信満々に言う紡の姿からは想像もできなかったけど、苦手なものもあると知って、少し安心したのはナイショ。


「紡さんにも苦手な事ってあるんですね」

「私を何だと思っているのよ。苦手なことくらいあるわ」

(つむぎ)はいつも分からないことはないって感じだし、魔法使いに苦手な事なんてないって思っていた」

「―――魔法使いは一つのことに特化した存在よ。

 全てのことが得意なんて化け物は……見たことないわ」


 本物の化け物を従わせているくせに、化け物を見たことないとは、なんとも皮肉が効いていることかと思う。

 決して倒れぬ屈強な鎧の騎士、伝説に名を残す英雄、あまりにも不条理だと言い切れる生き物等は紡の中では化け物ではないらしい。


 少し間があるのが気になるけど、そこには触れない方が良いと燈華の直感は(ささや)いている。


「まあ、紡がそこまで言い切るほどだから、魔法使いにでも苦手なことはあるのね。

 それなら私が幽霊とか苦手なのも許されるよね」

「燈華、それは克服できるレベルの話しだから、早く慣れなさい」


 どうや|燈華の幽霊嫌いは許されないらしい。


燈華(とうか)ちゃん、ゆっくり直していけば大丈夫だよ」


 幼い頃から一緒にいる秋姫も克服させることに賛成のようだ。

 燈華には味方がいないのか。


「私の幽霊嫌いの話しは置いておいて、紡が綺麗にしてくれた図面について考えをまとめようよ」


 無理矢理に話題を変える。

 誤魔化せたって思ったけど、『燈華、この話しは後でしっかりとするわよ』と紡には通用しなかったみたい。


 今は話題をそらすことに成功したとする。

 紡と秋姫の視線は針と図に注がれている。

 燈華も針と図面を見比べることに集中する。

燈華の視点、どうでしたか。

誰の視点か分かりにくい等ありませんでしたか?

楽しんで頂けたら幸いです。


お読み頂き、ありがとうございます。

「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると大変励みになります。

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今後ともよろしくお願いします。

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