正義の味方の特権
正義の味方は、無償のヒーロー。
さてはて本当にそうなのでしょうか?
彼等は、人に知られず、戦う正義の味方だった。
「俺達は、何の為に戦っているだろう」
目の前を平和そうな顔をして歩いていくカップルを見る少年は、緊急の呼び出しの連続で恋人を失った。
それに対して彼等を率いる男が言う。
「正義の為だが違ったのか?」
ずばりの答えに少年は、戸惑う。
「だけど、命を懸けて戦ってるのに、誰も褒めてくれないのは、納得いかない」
隣の少女も頷く。
「そうよ、昨日だって、もう少しの所で、核爆弾が爆発して、この周囲は、凄い被害になるところだったのよ。それなのに、皆そんな事を知らないで平和そうに暮らして、頑張ったあたし達だけが貧乏くじ引いている気がする」
それに対して男が言う。
「そう思えるなら辞めた方が良い」
意外な言葉に少年も少女も驚く。
少年が言う。
「だけど、俺達が戦わなかったら、大変な事になるだろう?」
それに対して男が答える。
「しかし、お前達は、戦う意味が解らなくなっているんだろう。それでは、何時か失敗する。だから辞めた方が良い」
男は、そういって、少年と少女から、その力の源である腕輪を受け取る。
「リーダーは、平気なのですか?」
男が苦笑する。
「俺には、もう無理なんだ。正義の味方の特権が無い生活なんてな」
そして少年と少女の前から去っていく男。
数日後、少年は、少女と会う。
「何だ、いきなり呼び出して。今日は、ナンパの予定だったんだぞ」
少年の言葉に少女が言う。
「そんなの予定じゃ無いわよ。それより聞きたいんだけど、貴方眠れる?」
少年は、黙ってしまうのを見ながら少女が言う。
「あたしは、駄目。核爆弾は、あと二発あった筈だよね。あれが何時爆発するかと思ったらとても寝てられない」
少年は、視線を明後日の方向に向けながら答える。
「ニュースになってないから大丈夫じゃないか?」
少女は、ジト目で言う。
「今まであたし達の戦いがニュースに上がった事ある?」
少年は、何も言えなくなる。
その時、偶々リーダーの男が傍を通った。
慌てて少女が自分達の居た喫茶店に連れ込み言う。
「リーダー、あの核爆弾は、どうなりましたか?」
それに対して男が答える。
「気にするな、私が何とかする。お前達も今は、気になるかも知れないが、暫くすれば忘れられる。早く新しくのめりこめる物を見つけるんだな」
そして男は、去っていく。
それから数年の年月が経った。
少年と少女は、結婚して、家庭をもった。
そしてその悲劇が起こった。
嘗ての少年は、出張で家を離れた時、家の周囲が原因不明な事故で壊滅していた。
家があった場所を呆然と見るしか出来なかった嘗ての少年。
その前に傷ついたあの男が現れる。
「すまなかった。護れなかったよ」
そのまま倒れる男に嘗ての少年が近寄って言う。
「何があったんだ!」
それに対して男が一般人には、知らされない闇の戦い、一度は、嘗ての少年も関わった核爆弾を巡る戦いを語った。
息絶え絶えに語る男に嘗ての少年が問う。
「最後に一つだけ聞かせてくれよ、正義の味方の特権って何だ?」
それに対して男が答える。
「自分の力で平和を護れる。それこそが正義の味方の特権だ。闇を知ってしまった私には、それを他人任せにする事が出来なかった。だから正義の味方を辞められなかった」
その言葉に嘗ての少年は、愕然とした。
「それじゃあ、俺は、この現実を回避する術を持って居たのに、それを捨てたって事かよ?」
男は、苦笑する。
「私の様に失敗するかもしれない。だが、安心しろ、正義の味方は、私だけじゃ無い。他の正義の味方は、君のこれからの平和をきっと護ってくれる」
それに対して嘗ての少年が首を振る。
「あの腕輪を返してくれ」
それに対して男が言う。
「いいのか? 今度受け取ったら後戻りは、出来ないぞ」
嘗ての少年が頷く。
「構わない! 俺も二度と正義の味方の特権が無い生活なんて出来ないからな」
男から腕輪を受け取る嘗ての少年。
静かに息を引き取る男を看取り、嘗ての少年は、正義の味方に戻る。
一度は、共に戦った二人の死、それは、嘗ての少年を正義の味方の男にし、戦い続けさせる事になるのであった。
簡単に言えば、知らずが仏って言葉が示すように知らないほうが幸せです。
正義の味方は、戦う力があるからなるのでなく、戦わないといけない相手を見つけてしまったから成るものです。
知ってしまった不幸。
しかしそれは、自分の力で切り開くチャンスを得られた特権なのかもしれません。




