シュレーディンガーの猫
殺してでも彼女を独占したかった男の話。
有名な量子力学の話に、シュレーディンガーの猫って言うのは、あります。
簡単に言えば、外部から観測できない箱に、猫と特定の条件の時に毒ガスを発生させる装置を入れた場合、猫が生きているかどうかは、箱を開けてみなければ解らない。
詰り、見てみることで、初めて猫の生死が確定するという話です。
複雑な計算式もあったりしますが、ここでは、それは、置いておきましょう。
この話し、実は、量子力学が出来る前から存在する逸話と共通点があります。
イザナギとイザナミの話しがそれです。
死者の世界から死んだイザナミを助けて、戻ろうとしたイザナギが振りかえったばっかりに死者としてのイザナミを認識し、その死を確定してしまった。
これと似た話は、世界各地に存在します。
結局の所、その死を確認するまで、死者では、無いが、確定した死は、覆らないという事です。
しかし、これには、大きな問題があります。
どうやって死を確認するか?
心臓が止まったら死、思考が出来なければ死、その他もろもろの考えがありますが、死自体が正しい基準が無いものなのです。
そうなると、死の明確な確認出来ない以上、完全な死の確定は、出来ない。
これは、そんな死者蘇生のお話し。
彼は、彼女を殺した。
理由は、自分勝手な愛情。
独占したい。
その思いのまま、彼は、彼女を殺した。
そして彼は、彼女を独占した幸せをかみ締めていた。
「彼女って本当に素敵な人だな」
彼の友人は、彼が彼女と付き合っていて、狂った愛で殺した事を知らないで、話しかけた。
彼は、優越感のまま答える。
「でも、二度と会う事は、出来ないけどね」
首を傾げる彼の友人。
「何を言ってるんだ? ついさっきあったばかりだぞ」
驚愕する彼。
「何かの間違いじゃないのか?」
彼の友人が自信たっぷりな態度で答える。
「それは、無い。あの笑顔は、間違いなく彼女だ」
困惑した彼の元には、その後も彼女と会話したという話が舞い込んできた。
そして彼は、自分が殺し、独占した筈の彼女と出会ってしまう。
『久しぶりね。元気にしてた? 全然顔を見せないから寂しかったんだからね』
その声の正体は、彼は、知っていた。
彼女が研究、開発していた、新型人工知能。
彼女は、自分の性格、記憶、思い出、全てをそれにインプットした。
そこに居たのは、まさに彼が知る彼女であった。
彼は、半狂乱のまま、部屋に閉じこもる。
そこには、腐敗した彼女の死体がある。
目の前にある彼女の死。
しかし、彼女の死を覆す、存在。
彼は、それを許せなかった。
彼は、研究所に入りこみ、彼女の作り上げた人工知能を壊してしまう。
そして、彼は、改めて、彼女の死を確認した。
数年後、彼は、再び彼女と出会ってしまう。
『長い間、連絡できなくてごめんなさい。今、私は、アメリカの研究所に居るの。色々と機密保持が大変で、今まで連絡できなかったの。でも、勘違いしないで、貴方に対する気持ちは、少しも色あせてないから』
笑顔の彼女に、彼は、言葉を無くす。
そして彼は、知る事になる。
彼女が作り出した人工知能は、世界最高水準の性能を持ち、世界各国にコピーが送られた事を。
しかし、彼の狂気は、止まらなかった。
「この世界が無くなれば、今度こそ彼女を独占できる!」
彼は、狂った愛情の元、世界を混乱に陥れたあげく、世界大戦を起こし、人類を滅亡させた。
彼は、一人、深い核シェルターの奥で冷凍冬眠をし、核の影響が無くなる日を待つことになった。
『ねえ、起きて』
世紀も越えた眠りから目を覚ました彼の前に居たのは、肉体を持った彼女であった。
「どうして?」
彼女は、笑顔で答える。
『私は、異星人への伝言役を行っていたの。私の遭遇した異星人が、親切な人で、本物と変わらない肉体を作ってくれたの。これで貴方とふれあえる』
抱きしめてくる彼女。
彼は、この時、絶望の元に確信した。
彼女を独占する事は、永遠に出来ない事を。
科学話曲解です。
狂った愛情の結果の惨劇。
そこで終ったら、鈴神楽では、ありません。
これは、空想であって、空想では、ない話。
人の死を確定するのは、何なのか?
宗教的な話になりそうですね。




