愛、最高の免罪符
狂った愛情は、怖い。
かなりブラックな話です。
愛情それは、一方方向な思いなのかもしれない。
「私は貴方の事を愛してます」
彼、高校一の秀才で、スポーツマンの森野秀一にとっては、よくある告白の筈だった。
「残念だけど、今は女性と付き合う気が無いんだ」
それは嘘だった。
密かに自分が所属しているサッカー部のマネージャーに片思いをしているのだから。
「構いません。私は貴方を愛して居る事だけ知っていて貰えれば」
そのまま、その女子、金田杏里は去っていく。
秀一は首を傾げるが、大して気にもしなかった。
次の日から、それは始まった。
毎日の様に杏里は秀一の為に手作り弁当を作ってきた。
「作って来たんです。良かったら食べて下さい」
それに秀一は驚きながらも受け取ってしまう。
あまりものしつこさに秀一が一度そのお弁当を叩き捨てたが、杏里は平然と言った。
「そうですか、今日は食べてもらえないんですね」
その態度に、秀一が言う。
「どうして平気なんだ?」
杏里が笑顔で言う。
「簡単ですよ、貴方のお弁当作る行為自体が凄く嬉しかったからです」
秀一は、言葉を無くした。
杏里は、秀一の為に様々の事をするが、秀一にそれに対して対価を求めようとしなかった。
「どうしてこんな事をするんだ? 俺になんかして欲しいのか?」
杏里は首を横に振る。
「そんな事有りません。私は貴方の為にやっているそれ自体がとても嬉しいんです」
秀一には正直わからなかった。
困惑した、秀一はマネージャに相談し、それを切っ掛けに二人は付き合うようになった。
そして数日後、マネージャーの女性は死んだ。
何者かに殺されたのだ。
秀一が激しく泣いている時、杏里が何時もと同じ様にお弁当を差し出し言う。
「邪魔な女は殺しました」
その一言に驚く秀一。
「まさか、お前があいつを殺したのか!」
怒鳴る秀一に杏里が頷く。
「はい。貴方が今は女性と付き合う気が無いと言っていましたから、あの女を勝手に付き纏って、貴方に負担になっていると判断しましたから」
「ふざけるな! 恋敵だから殺したんだろうが!」
秀一が杏里を壁に押し付けるが、杏里は解らない様子で首を傾げる。
「何で恋敵なんですか? 私は貴方を一方的に愛してるだけです。自分の意思で貴方の為に行動するそれだけです」
その表情から一切の嘘を感じられなかった。
「もう二度とその顔を見せるな! お前の顔を見る度に俺は不快になる!」
秀一が怒鳴ると。
「はい」
杏里は素直に答えた。
数日後、秀一が教室で亡くなった恋人の事を考えながら落ち込んでいた時、廊下から悲鳴が聞こえてきた。
そして教室のドアが開きそれがお弁当を持って立っていた。
「今日のお弁当は自信作です」
秀一が苛立ちながらそちらの方を向かずに怒鳴る。
「二度と顔を見せるなと言った筈だ!」
その言葉にそれが答える。
「はい。ですから顔の皮を残らず剥いできました」
秀一がその言葉に驚き、そちらの方を向くとそこには顔の筋肉を剥き出しにした杏里が居た。
「どうしてそんな事をしたんだ?」
杏里は皮が無い顔で微笑み言う。
「貴方を愛していますから」
ストーカーとは、違います。
あれとは、違って愛されたいんじゃなく、愛したいんです。
その方がよっぽど怖いんですがね。
かなりブラックなしあがりだと思っています。




