表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

バカと言われた手が、世界を描いた。

勉強は全部ダメ。授業中は絵ばかり。誰にも期待されないまま、底辺校へ進んだ吉田桃子。しかしそこで出会った美術教師が、誰も見ていなかった才能を見つけた。県コンクール、全国入賞、美大推薦、そして国際コンクール入賞。馬鹿にされ続けた少女が、絵だけを武器に世界へ羽ばたく青春成長物語。


第1話:透明な子供

吉田桃子は、透明だった。

小学校の教室で、先生が黒板に向かって喋っている。算数。国語。理科。どれも桃子の頭には入ってこない。窓の外で雲が動いている。あの形、描けるかな。

ノートを開く。計算式の隣に、いつの間にか雲が生まれていた。

「吉田。また絵を描いてる」

先生の声が刺さる。クラスが笑う。桃子は消しゴムで雲を消した。

家に帰っても、誰もいない。父も母も働いている。夕飯はラップのかかった皿が冷蔵庫にある。それだけだった。

「今日どうだった」と聞かれたことが、桃子には一度もなかった。

中学になっても、何も変わらなかった。

通知表は5科目、軒並み2と1が並ぶ。担任に呼ばれるたびに同じことを言われた。「このままでは将来が心配です」。心配しているのは先生の顔だけで、その目は桃子を見ていなかった。

ただ一つだけ。

スケッチブックの中だけは、桃子の世界だった。

誰にも見せたことがない。見せる気もなかった。ただ描いた。犬、電柱、給食のトレー、眠そうな同級生の横顔。描いているときだけ、息ができた。

高校受験、全滅。

一校だけ受かったのが、市内で一番偏差値の低い私立、聖和学院高校だった。

入学式の朝、母が一言だけ言った。

「恥ずかしいわね」

桃子は何も言わなかった。

校門をくぐりながら、ただ思った。

——何で生まれてきたんだろう。

聖和学院には、美術科があった。

普通科に入れなかった生徒の受け皿。桃子もそのひとりだった。

最初の授業。担当教師が教室に入ってきた。三十代くらいの女性。疲れたような目をしていた。

「私は田中です。よろしく」

それだけ言って、出席を取り始めた。

窓の外で、桜が散っていた。

桃子はノートの端に、それを描いた。

絵だけを武器に世界へ羽ばたく青春成長物語。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ