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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第87話 第三王女の演説

継承会議の最終日は、王城大広間だけでなく、中庭へ民と兵も集める異例の形で行われた。


そして、この日が同時に、青鷹が蜂起を仕掛けると読んだ日でもあった。

会議が進むあいだも、湊の頭の片隅では街の配置図が動いている。

門、塔、穀倉――どこで最初の火が上がっても回るよう、二日かけて組み替えた盤面。

表向きは荘厳な政の場。

その下では、王都全体が息を詰めて引き金を待っていた。


ガルド側が威圧のために人数を増やした結果、逆に多くの目が入ることになったのだ。


「自分で難易度を上げたな」

カナンが呟く。


「見られるほど困るの、向こうの方だからな」


蜂起は、混乱に紛れてこそ効く。

誰も見ていない路地で火を放ち、誰が始めたか分からないまま秩序を奪う。

だが今日の王都には、目が多すぎた。

民が、兵が、地方貴族が、実務官が、同じ広間と中庭に集まっている。

この衆人環視の中で武力に訴えれば、ガルド側が仕掛けたと一目で分かる。

リゼリアは、演説の前にまず“場”そのものを盾にしていた。


会議の終盤、リゼリアは予定になかった発言を求めた。

ざわめきが広がる。

だが王の侍従は、帳の向こうからの微かな合図を受けてそれを認めた。


リゼリアは玉座の前へ立つ。

背後の窓から差す光が、彼女の輪郭をまっすぐ縁取った。


「ルーメリア王国は、崖っぷちにあります」


最初の一文から、逃げなかった。


「強国に囲まれ、内には不正が巣食い、地方は見捨てられ、王都もまた疲れています」


大広間が静まり返る。

誰もが知っている現実を、王族が正面から言葉にしたからだ。


「ですが」

リゼリアの声はそこで一段強くなる。

「終わってはおりません」


辺境伯領の収量報告。

王都通信塔の復旧。

防壁再設計。

兵站改善。

復活した市場。


一つ一つを、彼女は短く、しかし確実に積み上げていく。

感情に流れない。

でも実績だけを並べたからこそ、言葉に重みがあった。


「これらは、わたくし一人の成果ではありません」

リゼリアは一度、言葉を切った。

「泥の中で水路を直した職人が、夜通し塔を守った兵が、値を崩さず店を開け続けた商人がいます。国は、玉座の上ではなく、その手の中に残っていました」


中庭のざわめきが、さざ波のように広がる。

名を呼ばれたわけでもないのに、兵たちの背が伸びた。

自分の夜番が、自分の店番が、王女の言う「国」に入っている。

その実感は、どんな褒賞より深く効く。


湊は妙な感慨に襲われた。

彼女が読み上げる数字は、全部、自分が泥の中で組み直した現場だ。

水路の勾配。

塔の中継。

壊れにくい荷車。

それが今、王女の口を通して、国を立て直せる証拠に変わっている。

道具が人を動かし、人が国を動かす。

その連なりの先端に、自分のした仕事が確かに乗っていた。


「この国は、まだ立て直せます」

最後にそう言い切る。

「飢えた民を見捨てず、兵を使い潰さず、強国へ売り渡さずに。それでもなお立つ道はあります」


その言葉が落ちた瞬間、最初に膝を打ったのは辺境から来た兵だった。

続いて地方貴族の席で拍手が起こる。

そして、王城中庭へ詰めていた兵や実務官たちが次々とそれに続いた。


ガルドの顔から、初めて余裕が消えた。


彼の語る国は、いつも玉座から民を見下ろす形をしていた。

リゼリアの言葉は、逆だった。

下から積み上げた事実が、玉座の高さまで届いてしまった。

同じ広間にいて、その差はもう隠しようがない。


民と兵の支持は、理屈だけでは動かない。

でも、目の前の成果と、それを誰が背負っているかが見えた時、一気に傾くことがある。


湊はその瞬間を見た。

第三王女の演説で、王都の空気がはっきり変わったのを。


「やっぱり、あの人は強いな」

自然にそう漏れた。


カナンは横で複雑そうな顔をしながらも、否定しなかった。


リゼリアが民と兵の前で立ったことで、次の戦いはもうただの派閥争いではなくなった。

国の行く先を決める戦いへ変わったのだ。


そしてガルドは、衆人の前で言葉に負けた。

追い詰められた人間が次に何を選ぶか――答えは、もう決まっている。

演説の余韻がまだ大広間に残るうち、湊は静かに席を立った。

向かう先は、王都の心臓。

火が上がる前に、もう一つ潰しておくべき切り札があった。


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