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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第64話 兵は腹が減っては戦えない

装備が整い始めると、次に浮き彫りになったのは、もっと単純で深刻な問題だった。


飯が足りない。


正確には、量がないわけではない。

ある時はあるのに、必要な時に必要な場所へ届かない。

腐る。

湿る。

積み方が悪くて潰れる。

そして兵が空腹のまま歩く。


帳簿の上では、足りているのだ。

収穫量も、買い付けも、王都からの補給も。

でも兵の腹は帳簿を読まない。

届いた時に食えるかどうか、それだけが現実だった。


「戦う前に負けてる理由、これだな」

湊は穀倉の中で呟いた。


積まれた干し肉は湿気を吸い、麦袋は床の結露で底から傷んでいる。

乾燥の煙道も悪く、熱が上へ逃げるだけだ。


穀倉番の老人に聞けば、原因はすぐ分かった。

人手不足で積み替えの順番が崩れ、古い袋が奥へ埋もれる。

取り出しやすい手前の新しい袋から減っていき、奥は静かに腐る。

怠けているわけじゃない。

回らない仕組みのまま、真面目に働いた結果だった。


「兵站って、地味な顔して一番えげつない」

カナンが鼻をつまむ。

「臭いし」


「臭い問題も直します」


カナンは冗談のつもりだったらしいが、湿気と臭いは保存の敵だ。

鼻が曲がる倉は、だいたい中身も傷んでいる。


湊はその日のうちに、穀倉の隣へ簡易乾燥庫を増設した。

石壁の内側へ木枠を組み、熱が均一に回るよう煙道を曲げる。

干し肉、豆、麦粉、薬草。

全部を一緒に放り込むのではなく、品ごとに温度帯を分ける。


さらに、保存食の規格も決めた。

一人一日分をまとめた布包み。

乾燥麦餅、塩豆、干し肉片、煎じ薬の粉末。

豪華さはないが、配りやすくて腐りにくい。


包みには紐の色で中身の別を付けた。

赤は一日分、青は行軍用の半日分、白は病兵向けの粥用。

字が読めない兵でも、夜でも、手触りと色で間違えない。

配る側の手間が減れば、配り漏れも減る。


「夢がない飯だな」

試食しながらカナンが言う。


「夢がある保存食なんて聞いたことない」


「でも前よりはまし」


「それで十分」


試作の最初の包みは、町の鍛冶屋の見習いたちにも配った。

育ち盛りは正直だ。

まずいと言いながら全部食い、足りないと文句を言う。

その文句の分だけ、塩豆の量を直した。


実際に確かめるため、辺境兵三十名で半日の強行軍を行った。

これまでは途中で炊き出しを挟み、脚を止める必要があった距離だ。

だが今回は、保存食包みと水筒だけで進む。


帰ってきた兵の表情は、疲れていてもどこか軽かった。


「腹が落ちない」

隊長が驚いたように言う。

「いや、うまいわけじゃないぞ。だが途中で手足が抜ける感じがない」


「塩と糖と水分の順番を揃えたからです」


「順番まであるのか」


「あります」


歩く前に水、半ばで塩、休みに糖。

祖父と山の現場を回っていたころに叩き込まれた順番だ。

道具より先に、まず人が保つこと。

工房の教えは、軍でもそのまま通じるらしい。


湊はさらに、荷車側もいじった。

保存食包みをぴったり積める木箱。

雨除け布の留め具。

揺れで中身が崩れない仕切り。


兵士が食う前に崩れるのが一番無駄だからだ。


試しに、悪路を選んで荷車を一周させた。

帰ってきた箱を開けると、麦餅の角がほとんど欠けていない。

御者が一番驚いていた。


「いつもは粉の方が多いんだ」


積み方と仕切りだけで、食える量が一割増える。

戦わずに増やせる一割だった。


夕方、アルヴェインが穀倉を見に来た。

新しい乾燥庫から立つ薄い熱気を見上げ、低く唸る。


「槍や結界もありがたいが、これが一番効くかもしれん」


「勝つ軍より、止まらない軍の方が強いですから」


辺境伯はその一言に深く頷いた。


「若いころ、撤退戦で三日飲まず食わずだった」


アルヴェインはぽつりと言った。


「あの時の兵の顔は、今でも夢に見る。装備の差なら諦めもつく。だが飯の差は、上の怠慢だ」


だから効く、という言い方より、ずっと重かった。


夜、工房へ戻る途中、子どもたちが空の保存食包みを頭に載せて遊んでいた。

兵のために作ったものが、すでに町の風景へ混ざり始めている。


湊は少し笑う。

国力ってやつは、こういう細かいところにしみ出す。


腹が満ちて、足が止まらなくなれば、人は次の明日を考えられる。

兵は腹が減っては戦えない。

それはつまり、国も腹が減っていては立て直せないということだった。


明日は配給当番の組分けを決める。

乾燥庫の温度記録も、誰でも付けられる表に直す。

派手さは今日も明日もない。

でも、この地味さの上にしか、反撃の足場は組めない。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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