表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/78

第49話 境界工匠

祖父の手帳は、記録というより設計メモに近かった。


日記のように感情を書く人では、最初からなかったのだろう。

日付、場所、設備名、補修内容、必要素材、失敗例。

そんな項目が淡々と並んでいる。


けれど、読み進めるほどに分かる。

この手帳はただの職人の覚え書きじゃない。

世界と世界の継ぎ目を知っている人間の記録だ。


境界工匠(きょうかいこうしょう)とは、境を越えるための仕組みを設計し、維持し、隠す者である』


最初のページに、そうあった。


湊は椅子へ座り直す。

工房の机の上には、水利盤、転移炉、防壁、穀倉の図面を広げたままだ。

手帳の文は短いのに、内容だけが重い。


祖父――相沢源蔵は、もともとルーメリア側の工匠一族の血を引いていた。

建国期、王国は外敵に囲まれた小国のままでは立てなかった。

だから国を守るため、水、食糧、輸送、防衛、転移のすべてを“繋いで保つ”基盤工式が必要だった。

それを設計し、継ぎ足し、次代へ伝えるのが境界工匠。


「境界、ってそういう意味か」


国境だけじゃない。

世界の境。

人の生活を成り立たせる基盤同士の境目。

壊れたときに、真っ先に見えなくなる部分。


さらに読み進めると、召喚の理屈も出てきた。


王家に伝わる救難術式は、本来“勇者”や“聖者”を呼ぶものではない。

国難のとき、基盤工式へ適合できる工匠を探すためのもの。

祖父はその接続先を現代へ逃がし、現代人に警戒されない形で偽装するため、マッチングアプリ風の窓口を残した。


『向こうから見れば救難器。こちらから見れば遊び道具に見せるのが一番早い』


「雑だな……」


雑だが、祖父らしい。


つまり、リゼリアが湊を“選んだ”わけではない。

彼女はただ救難術式を起動しただけで、術式と祖父の細工が、条件に合う相手として湊を拾った。


血筋。

工式適性。

現代で積んだ制作と修理の経験。


全部そろっていたから、湊は呼ばれた。


ようやく、理屈が通った。


「じゃあ俺が見えてるあの線も」


手帳の後半には、湊が視ているあの線そのものへ触れた記述もあった。


『視える者は少ない。血だけでも足りん。手で壊れを覚え、直し方を身体に入れてないと、線は線のままだ』


湊は思わず、自分の手を見た。

小さな切り傷、古い火傷、木くずで荒れた節。

祖父の言っていた“見て見ぬふりができない手”という言葉が、ようやく少しだけ分かった気がした。


手帳の別ページには、転移炉の細工に似た図もあった。

負荷を一拍遅らせ、正常な劣化へ見せかけながら、特定の起動時にだけ破裂点をずらす設計。


「これだ」


湊はページへ身を乗り出す。

転移炉で見た細工と酷似している。

しかも注記にはこうある。


『境界系設備を破るなら、真正面から壊すな。誤作動と保守不良に見せろ』


誰がやったかまでは書いていない。

古い境界工匠の知識か、それに近い設計思想を持っている。


リゼリアたちが戦っていたのは、商人や貴族の私欲だけじゃない。

王国の基盤を理解して、そこを腐らせる側の知恵だ。


夕方になって、ようやくアプリへ短い通知が入った。


『無事でよかったです』


リゼリアからだった。

たったそれだけ。

それでも、胸の奥に溜まっていたものが少し動く。


湊はすぐに返す。


『こっちも動いてる。じいちゃんの手記、見つけた』


少し置いて、もう一通。


『俺が呼ばれた理由、たぶん掴んだ』


既読はすぐつかなかった。

でもそれでいい。

向こうも向こうで、今は息を潜めているはずだ。


湊は手帳を閉じ、図面をまとめ直した。


敗走してきたつもりだった。

でも本当は、反撃の設計図が待っていた。


職人にとって、”何を直すべきか分かる”は最初の勝ち筋だ。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ