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公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~  作者: 石動なつめ


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後日談 ディア・フォレスト 後編


 灯り花の森はシーライト王国の北にある大森林だ。

 精霊が多く住まうと言われており、森のあちこちを魔力の光を放つ花が照らしているのが特徴だ。あの花が、森の名前になっている灯り花である。

 この森の中に、ジャスパーの故郷であるダークエルフの里があるそうだ。


 ……すごく綺麗。


 アイドに先導してもらいながら森へ入って、最初に私が思ったのはそれだった。

 木漏れ日と灯り花の光りが森を照らすその様は、まるで物語で描かれるような美しさだった。

 奥に行くにつれて、木々が鬱蒼と生い茂り、日差しが減って行くと、逆に花の光の明るさが際立つ。幻想的、と言うのだろうか。森へ入った頃とはまた違った印象を受ける。


 そうして進んでいくと、しばらくして、ダークエルフの里があった。


「おや、冒険者か。こんなところまでどうした?」


 近づくと、門番のダークエルフに声をかけられた。


「仲間を訪ねて来たのだが、中へ入れて貰えないだろうか」

「許可証はあるかい?」

「ああ」


 門番からの問いに、アイドは懐から釣鐘型の花が描かれた大きめのコインを取り出して見せた。

 あの模様は灯り花かな。

 そう思って見守っていると、門番は「よし」と頷く。


「オーケーだ。なるほど、ジャスパーの知り合いか」

「ああ。戻って来ておるじゃろう?」

「来ているよ。まぁ、ちょっと手こずっているみたいだけどな」

「なるほどのう」


 門番とアイドはそんなやり取りをしている。

 どうやらジャスパーはここにいる事に間違いはないんだけど、命の危機的なものは会話の内容からは感じられない。

 少し安心をしていると、門番と目が合った。彼は私とアズを見比べた後、


「……ちなみに、いる? どっち?」


 なんてアイドに聞いている。何が『どっち』なんだ。

 アイドは振り返ると「右の子じゃ」と答えた。右は、私なんだけど。

 すると門番は「へぇー!」と楽しそうな顔になった。何が『へぇー』なんだ。


「ま、そんなに心配しなくて、そろそろだとは思うよ。それまでのんびりして行きな」

「そうか、感謝する。二人共、行こう」


 何だろうなぁ……。視線を感じながらも、アイドに続いて門をくぐる。

 その時に、


「あいつの事、よろしくなー」


 と門番に言われた。あいつとはジャスパーの事だろうけど、ううん。

 今一つ話の流れについて行けないんだけど、とりあえず「はい」と答えておいた。

 ジャスパーの事を頼まれるのは、悪い気持ちはしないし。

 さて、それはそれとして。里の中へ入ったは良いけれど、この後どうしようか。

 アイドの後をついて歩きながら考えていると、


「あれっベリル!? それにアイドとアズまで、どったの!?」


 なんて聞き覚えのある声が耳に届いた。

 顔を向けると、何だかやたら疲れた顔のジャスパーが、こちらに向かって手を振っている。一緒にジャスパーとよく似た顔立ちのお姉さんやお兄さんがいる。

 兄弟だろうか……じゃなくて!

 まさか入って早々に再会できるなんて思わなかった。


「どったの、じゃなくてな。お前から連絡が途絶えたから心配で見に来たんじゃ」

「えっマジで!? うわ、ごめんごめん! 連絡出来る状況じゃなかったから、うっかりしてた」

「え、どうしたの? 今もだいぶ顔色悪いけど、病気でもしてた?」


 ジャスパーの話を聞いて、慌てて駆け寄ると、身体の調子を確認する。

 ……うん、怪我とかはなさそうだな。

 そう思っているとジャスパーが少し顔を赤らめて、


「ベリルさん、ちょっと、あの、積極的ぃ……」


 なんて言った。


「体調を調べるのに積極的も何も」

「いや、うん。分かってる、分かってるけど、あのね……」

「おおう、なるほど! そういう事か! なるほど、君がそうなのね!」


 解せぬ、と思っていると、今度はジャスパーと一緒にいたダークエルフの人たちから声をかけられた。

 彼女たちはにこにこと自分達はジャスパーの姉や兄だと教えてくれた。やはり家族だったらしい。

 私が「初めまして」と挨拶をすると、彼女達は「んふふ」と笑って、ジャスパーの肩に手を置いた。


「……で、ジャスパー。なーんも説明してないんだよな?」

「……シテマセンネ」

「どうせ気恥ずかしくて言えなかったんでしょー。まったく、仕方ない子ねぇ」

「ぐぬぬぬ……」


 兄姉たちからそう言われ、ジャスパーは唸る。

 しばらくそうした後、観念した様子でジャスパーは何かを見せてくれた。

 それは深い緑色の宝石――のような石だった。石の中にはチカチカと灯り花と似た光が入っているのも見える。


「これさ、ディア・フォレストって言って……魔力で出来た石なんだ。この里の奥の泉で作るんだけど……」


 そう言いながら、ジャスパーはもう片方の手で、ポケットから何かを取り出す。

 それは細い銀色のチェーンだった。ジャスパーはそのチェーンに、先ほどディア・フォレストと呼んだ石を取り付けはじめた。


「身を守るとか、そういうお守りみたいな効果もあってさ」

「へぇ、初めて見た」

「だろうね。ここでしか作れないものだから。まぁ、でさ。魔力……ってか、魔法で作る関係で、得意な奴はサクッと作っちゃえるんだけど、俺魔法苦手でさぁ」


 だから時間が掛ったんだと話している間に、ディア・フォレストはペンダントになった。

 よし、とジャスパーは頷くと、私に向かってそれを差し出してくれる。


「うちではさ、これを……その、アレだ。プロポーズをですね、する時にですね、その……渡すんです」


 そして顔を真っ赤にしながらそう言った。

 プロポーズ。プロポーズって言った。

 それは、つまり……あれだろうか。結婚とか、そういう……。

 理解したとたん、急に顔に熱が集まり始める。


「えっ、あー、えっと……その、ジャスパー」

「……ハイ」

「つまりは、そういうコトですか?」

「……ハイ、そういう、コト、ですね?」


 私達がしどろもどろになりながら話していると、アイドとアズが呆れた眼差しをジャスパーに向ける。


「だからチキンと言われるんじゃ、お前は」

「そうですよ、ジャスパーさん。茨の君に言われた事、まだご理解されていないので?」

「こんな衆目のあるところで言う羽目になった俺の気持ちも考えて!」

「ばっかジャスパー。そんなだから、その年まで恋人ゼロなんだよ」

「そうよ、頑張って! もうちょっと、ほら、ジャスパーちゃん!」

「ヤメテ! 全方位で追い打ちしてくるのヤメテ!」


 後半はもう悲鳴のようにジャスパーは叫んだ。

 そうか、ジャスパーは今まで恋人ゼロなのか……。それはつまり、私が初めての恋人とか、そういう。いや、私も恋人なんて初めてだけど。

 それを聞いて少しホッとした。

 正直ね、色恋沙汰方面はまったく縁がなかったから、比べられたらどうしようかなというのは、少しあったんだよ。だから、そういう意味でも良かったと思う。


「…………ベリル、何で笑ってるの?」

「え? ああ、いや。ちょっと嬉しくて」

「えー、嬉しい要素あった?」

「うん。恋人がゼロの辺りね」

「…………!」


 正直に私が言うと、ジャスパーは虚をつかれたように目を瞬いたあと「そっか」とはにかんだ。

 それから彼はすう、と一度大きく深呼吸をし。真っ直ぐに私を見て来る。


「ベリル」

「はい」

「俺、まぁ、こんなだし。情けないし、チキンだけど。仕事頑張るし、お金稼いで……ま、まぁ公爵家レベルは厳しいけど、不自由はさせないし! 俺の寿命が尽きるまで、ベリルと一緒にいたい」


 だから、とジャスパーは一度言葉を区切り。


「俺と、結婚してください」


 と言った。

 ジャスパーの言葉に胸の内に温かいものが広がる。

 私はディア・フォレストを受け取って、一度見た後、


「私も、私の寿命が尽きるまでジャスパーと一緒にいたい。ジャスパーが楽しく過ごせるように頑張るよ。ええと、なので――――よろしく、お願いします」


 そう答えると、彼は大きく目を見開いて、


「ぃやったぁぁぁぁぁぁ!」


 と大きく両手を振り上げると、私に抱き着いて来た。

 待って待って、衆目! 衆目がある!

 さすがにそれは恥ずかしい! たぶん恋人関係じゃなかったら何とも思わないんだけど!

 私があたふたしていると、


「ようやくか、良かったのう、二人共」

「お嬢様! お嬢様が結婚しても、アズはついて行きますからね!」

「うおー! ジャスパーの結婚だー! じいちゃんを呼べー!」

「じいちゃ―ん! じいちゃ―ん! あんたの孫がー! 結婚―!」


 なんて騒ぎが広がって行き、そのまま宴が開かれる事になってしまい。

 食べたり飲んだり、これまでの話を聞かれたりしながら、そのまま里で一泊させて貰ったのだった。


久しぶりに後日談を書いてみました。エピローグからさらに一年経ったくらいですね。

楽しんでいただけたら幸いです!

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