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『異世界パッチノート:社畜エンジニアのバグ取り無双 ~管理権限(ルート)を奪取して、絶望の仕様を書き換える~』  作者: たま


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第二話 森の境界と『万物再構築』の真価

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

第二話 森の境界と『万物再構築』の真価


川のせせらぎを聞きながら、僕はひたすら歩を勧めた。

十五歳の体は、驚くほど軽い。かつてデスクワークで凝り固まっていた肩や、慢性的に重かった腰の痛みはどこにもない。肺に吸い込む空気は、ミントのように鼻を突き抜ける清涼感に満ちていた。

だが、軽いのは体だけではない。持ち物も心細いほどに「軽い」のだ。

現在の僕の装備は以下の通り。

* 武器: 先を尖らせただけの樫の枝(自作・耐久性に不安あり)

* 貴重品: 謎の青い小石(スライムのドロップ品?)、スマホ(充電100%から減る気配なし)

* 衣類: 日本で着ていたスーツ(サイズがブカブカで動きにくい)

「……この格好、どうにかしないとな」

スラックスの裾を何度も踏みそうになり、僕は足を止めた。

このまま森に入って、茂みに足を引っかけたら命取りだ。

僕は再びスマホを取り出し、画面をタップする。

「『鑑定』」

対象は、自分の着ているリクルートスーツのズボン。

【アイテム:安物のスラックス】

材質:ポリエステル、綿

状態:サイズ不適合(大きい)

詳細:防御力は皆無。速乾性には優れる。

「よし、これに『万物再構築』を使ってみるか」

僕は地面に座り込み、ズボンの裾を手に取った。

イメージするのは、自分の今の足の長さにぴったりの丈。そして、激しい動きでも破れないような、裾を絞ったジョガーパンツのような形状だ。

深呼吸をして、魔力を意識する。

掌から熱が伝わり、ポリエステルの繊維が生き物のようにうごめき始めた。

(……くっ、意外と魔力を食うな)

石を削るのとは訳が違う。繊維の一本一本を組み替えるような感覚だ。

スマホのMPゲージが「6」から「4」、「2」へと一気に減っていく。

視界が少しクラつき、額に汗がにじんだ。

「……ふぅ、完成か?」

魔力の奔流が収まると、そこには見事にリサイズされたズボンがあった。

足首の部分にはゴムのような伸縮性が持たされ、ダブついていた生地は余ることなく僕の細い足にフィットしている。

【アイテム:再構築された作業ズボン】

材質:強化ポリエステル混合体

状態:良好(サイズ最適化済み)

詳細:翔太の魔力により繊維密度が向上。多少の切り傷には耐えうる。

「すごい……本当に形だけじゃなく、性質まで変わってる」

MPは残り「1」。

これ以上の連続使用は危険だが、大きな収穫だ。

この『万物再構築』は、単なる工作スキルじゃない。現代知識と組み合わせれば、この世界の素材を「現代的な道具」にアップデートできるチート能力だ。

森の入り口、そして二度目の戦闘。

一時間ほど歩くと、川は深い森の中へと吸い込まれていた。

樹木の一本一本が巨大で、日本の杉や檜とは比較にならない。幹には発光する苔が付着しており、昼間だというのに森の奥は幻想的な薄暗さに包まれている。

(……ここからが本番だ)

僕は手作りの槍を握り直し、慎重に森へと足を踏み入れた。

数歩進むごとに立ち止まり、『魔力感知』に意識を向ける。

すると、右前方の茂みの奥から、先ほどのスライムとは違う、もっと刺々しい「気配」を感じた。

「……っ!」

ガサリ、と音がして飛び出してきたのは、額に一本の角が生えたウサギだった。

大きさは柴犬ほどもある。目は血走っており、明らかにこちらを敵と見なしている。

【個体名:ホーンラビット】

状態:空腹・興奮

危険度:E(一般人には危険)

「鑑定、助かる……けど、くるぞ!」

ホーンラビットが地を蹴った。

速い。時速五十キロは出ているだろうか。

僕は二十五歳の頃の反射神経なら、間違いなく角に貫かれていただろう。

だが、今の僕には十五歳の若さと、『敏捷14』という数値がある。

「見えた!」

体が勝手に反応した。

横に跳んで突進をかわすと、ウサギは勢い余って巨木の根に激突する。

その隙を逃さず、僕は手作りの槍を突き出した。

「はあぁっ!」

槍の先端がウサギの脇腹を捉える。

だが、所詮は木の枝だ。深くは刺さらず、ホーンラビットは怒り狂って再び跳躍した。

今度は角を振り回すような、なぎ払いの攻撃。

(枝じゃ、強度が足りない!)

パキッ、と嫌な音がして槍の先端が折れた。

僕は後ずさり、背中を木に預ける形になる。

ホーンラビットが、とどめの一撃を放とうと後ろ脚に力を溜める。

(何か……何か武器になるものは!)

ポケットの中に手を入れる。指に触れたのは、先ほどのスライムが落とした「水色の石」だった。

MPは残り「1」。一回だけ、再構築が使える。

僕は咄嗟に、折れた槍の先端にその石を押し当てた。

「頼む……形を変えろ!」

脳内に浮かべたのは、金属よりも鋭い「やじり」のイメージ。

スライムの核だったのか、その石は僕の魔力に過剰に反応した。

MPゲージが「0」になると同時に、石が溶けて木の枝と一体化する。

青く輝く、クリスタルのような鋭利な刃が、槍の先に形成された。

「いけえっ!」

跳んできたホーンラビットに対し、僕は全霊の力で突きを放つ。

青い刃は、ウサギの強固な皮を紙のように切り裂き、その深奥へと突き刺さった。

「キィッ……!」

短い悲鳴。

ホーンラビットは数回痙攣した後、静かになった。

収穫と、見えてきた希望

「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」

その場にへたり込む。

心臓がうるさいほどに鼓動を打っている。

だが、恐怖よりも先に達成感がこみ上げてきた。

倒したホーンラビットが淡い光に包まれ、その死体が消えていく。

後に残ったのは、一塊の肉と、小さな茶色の石だった。

「これ……倒すとアイテム化する仕組みなのか?」

スマホを確認すると、通知が来ていた。

【戦闘勝利:経験値を獲得しました】

【レベルが上がりました:Lv1 → Lv2】

【ステータスが上昇しました】

体力:12 → 14

魔力:8 → 10

筋力:10 → 11

MPが回復している。最大値が増えたおかげで、今の消費分も少し補填されたようだ。

そして、新しく手に入れた茶色の石を鑑定する。

【アイテム:土兎の魔石】

詳細:土の属性を微量に含む魔石。燃料や素材として価値がある。

「なるほど。この魔石を素材にして『万物再構築』を使えば、もっと強い装備が作れるってことか」

僕は、青い刃がついたままの槍を見つめた。

スライムの魔石を合成したこの槍は、元の木の枝とは比較にならないほどの鋭さと「重み」を持っている。

これなら、この森でも戦っていけるかもしれない。

ふと、お腹の虫が鳴った。

そういえば、こちらの世界に来てから何も食べていない。

目の前には、ホーンラビットが落とした「肉の塊」がある。

「……食べるしかないよな。でも、生はちょっと」

僕は周囲を見渡した。

乾燥した枝を集め、石をいくつか拾う。

これまでの実験でわかった。僕の『万物再構築』は、物質の性質をある程度操作できる。

僕は二つの石を手に取り、それらを「火打ち石」として最適化するように念じた。

さらに、集めた枝の一部を「燃えやすい炭のような構造」へと組み替える。

カチッ、カチッ。

火花が飛び、簡単に火が起きた。

サバイバル知識なんて、テレビのバラエティ番組で見た程度だ。

けれど、このギフトがあれば、知識をそのまま「物理的な結果」に直結させられる。

「すごいな……これ、エンジニアが魔法を手に入れたようなもんじゃないか」

肉を枝に刺し、焚き火で炙る。

香ばしい匂いが漂い始めた。味付けはないが、驚くほど肉は柔らかく、ジューシーだった。

空腹が満たされていくと同時に、冷静さが戻ってくる。

「さて、これからどうするか」

川はまだ先へ続いている。

森を抜ければ、街道や村があるはずだ。

もしこの肉や魔石が売れるなら、当面の生活費にはなるだろう。

このスマホがなぜ起動し続けているのか、なぜ僕が若返ったのか。

その謎を解くためにも、まずは情報の集まる場所――「街」を目指さなきゃならない。

僕は立ち上がり、火を消した。

自作の「魔石の槍」を肩に担ぎ、再び歩き出す。

十五歳の少年になった僕の視界は、かつての二十五歳の時よりもずっと高く、そして広く感じられた。

不安がないと言えば嘘になる。

でも、ポケットの中のスマホと、自分の手にあるこの力が、何よりの相棒に思えた。

「行くか、高橋翔太。……いや、今はただの『ショウタ』でいいか」

僕は森の奥へと続く、かすかな獣道を迷わず進み始めた。

【現在のステータス】

名前:ショウタ(高橋 翔太)

レベル:2

年齢:15歳

称号:異世界転移者

【能力値】

体力:14

魔力:10/10

筋力:11

敏捷:14

知力:16

運:9

【スキル】

・鑑定(初級)

・異世界語理解(自動習得)

・魔力感知(微)

【ギフト】

・『万物再構築ゆるがぬもののまどわず

【装備品】

・魔石の短槍(スライム核+樫の枝)

・再構築された作業ズボン

・元の世界のスーツジャケット(ボロボロ)

「……おっと、そうだ。次はあのジャケットをなんとかしないとな。流石に森でスーツのジャケットは目立ちすぎるし、動きにくいし……。何に作り変えるのが正解だろう?」

僕は歩きながら、次の「設計図」を頭の中で描き始めていた。

現代のファッション知識と、異世界の素材。

その融合が、僕の生きる武器になる。

森の向こうに、夕焼けの色が差し始めていた。

今日という一日が終わる前に、せめて今夜の寝床くらいは見つけたい。

僕は足早に、しかし慎重に、未知なる領域へと踏み込んでいった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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