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『異世界パッチノート:社畜エンジニアのバグ取り無双 ~管理権限(ルート)を奪取して、絶望の仕様を書き換える~』  作者: たま


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第一話 異世界の草原で、僕は十五歳になった

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

第一話 異世界の草原で、僕は十五歳になった


車を運転していたら、世界がグニャっと歪んだ。


ハンドルから手が離れ、視界が渦巻く。地震か? と思った瞬間、強い光に包まれた。


目を開けると、そこは見知らぬ草原だった。青空がどこまでも広がり、風が草をなでる音だけが聞こえる。さっきまで握っていたハンドルも、ダッシュボードも、アスファルトの道路もない。僕の愛車、白のコンパクトカーは跡形もなく消えていた。


「ここはどこ…?」


立ち上がり、周囲を見渡す。地平線まで続く草原。遠くにゆるやかな丘の輪郭が見えるが、人工物らしきものは何もない。空気が澄んでいて、日本とは明らかに違う。匂いも、草の香りが強い。


パニックになりかけたその時、視界の端に何かが動いた。


水色の、ゼリーのように揺れる塊が、ぷるぷるとこちらに向かって跳ねてくる。大きさはバスケットボールほどか。表面がゆらめき、中には小さな気泡のようなものが浮かんでいる。


「な、なにこれ…」


僕は思わず後ずさったが、スライムは速度を上げた。逃げる間もなく、足元にぶつかってきた。冷たい、というよりひんやりとした感触。痛くはないが、気持ちが悪い。


咄嗟に近くに落ちていた枝を拾い、振り回した。スライムめがけて、思いきり叩きつける。


ポン、という鈍い音。スライムは少しへこんだが、すぐに元の形に戻る。もう一度、二度、三度…必死に枝を振り続けた。三十回ほど叩いただろうか、水色の塊は震え、だんだん小さくなっていった。そして最後に「フーッ」というかすかな音を立てて、霧のように消え去った。


消えた場所に、キラキラと光る小石が一つ落ちていた。拇指の爪ほどの大きさで、透き通るような水色をしている。触るとほんのり温かい。


僕はその石を手に取り、呆然と立ち尽くした。


「まさか…異世界転移?」


妹が高校時代に夢中になって読んでいたライトノベルのことを思い出した。車で移動中に事故に遭い、異世界に転移する…そんな話があったような。妹は何度も「兄さんも読んでみれば?」と勧めてくれたが、忙しいからと適当に流していた。あの時、少しでも読んでおけばよかった。


とにかく、現状を把握しなければ。妹の話では、転移した主人公たちはまず自分のステータスを確認すると言っていた。


試しに、僕は小声でつぶやいた。


「ステータス」


すると、ポケットの中から「ピピッ」という電子音がした。驚いてスマホを取り出す。日本にいた時と同じ機種だ。しかし画面には、見慣れたホーム画面ではなく、シンプルな文字が表示されていた。


ステータス


名前 高橋たかはし 翔太しょうた年齢 15歳

種族 人間

称号 異世界転移者


能力値

体力 12

魔力 8

筋力 10

敏捷 14

知力 15

運  9


スキル

・鑑定(初級)

・異世界語理解(自動習得)

・魔力感知(微)


ギフト

・『万物再構築ゆるがぬもののまどわず


注意

転移に伴い肉体が最適化されました。転移前の記憶・知識は保持されています。


「…え?」


僕は画面を何度も見直した。特に「年齢15歳」の文字が目に焼き付く。


二十五歳、社会人三年目、毎日通勤に車を使い、残業続きで少しお腹も出てきたはずの僕が、十五歳?


慌てて自分の体を見る。確かに手が小さい。ズボンの裾が少し長すぎる。上着の肩幅がだぶついている。近くの小川に顔を映すと、そこには確かに十年ほど若返った、少し面影の残る自分の顔があった。頬にあった日焼け跡の小さなシミも消えている。


「なんで…」


しかし驚きはそれだけでは終わらなかった。ギフト欄に表示された『万物再構築』という言葉。その下に小さく注釈がついている。


万物再構築ゆるがぬもののまどわず

・接触した物質・物体の構造を理解し、魔力を消費して再構成できる。

・現在の魔力値では小さな物体(石、木片など)の形状変更が限界。

・スキル『鑑定』と併用することで、対象の材質・構造を詳細に把握可能。

・成長に伴い、より複雑な再構築が可能になる可能性あり。


「これは…」


僕は先ほど拾った水色の石を握りしめ、もう一度スマホを見つめた。画面の右上には、小さなMP(魔力)と表示されるゲージのようなものがある。現在は8/8で満タンだ。


試しに、地面に落ちている別の小石を拾い、左手に持つ。右手でスマホを操作し、スキルの『鑑定』を起動する。


アイテム 草原の小石

材質 花崗岩の欠片

状態 やや風化

価値 ほぼなし


情報が視界に浮かび上がる。文字通り「目に見える」のだ。次に、その石をしっかり握り、心の中で『形を変えて』と念じる。


手のひらがほんのり温かくなる。魔力が流れ出ていく感覚。石が柔らかくなり、粘土のように形が変わり始める。平らな円盤状に…と思い描くと、その通りに変形していく。数十秒後、手のひらには円盤状に平らになった石があった。MPゲージは7/8に減っている。


「本当に…変わった」


僕は息を呑んだ。これは現実だ。紛れもない現実。


十五歳の体。異世界。スライム。ステータス。そしてこの不思議なギフト。


草原を吹き渡る風が、僕の少し長くなった前髪を揺らす。遠くで鳥らしき鳴き声が聞こえる。すべてが未知で、不安でいっぱいだった。


しかし同時に、どこかでわくわくする気持ちも湧き上がってきた。二十五歳の社会人としての毎日は、確かに安定していた。でも、どこかで「このままでいいのか」という思いもあった。新しいプロジェクトへの挑戦、転職の可能性…いつも頭の片隅にありながら、踏み出せずにいた。


そして今、僕は文字通り「新しい世界」に踏み出してしまった。


「まずは…生き延びないと」


妹が読んでいた小説の主人公たちは、最初はみんな弱かった。スライム一匹倒すので精一杯だった。でも、少しずつ強くなっていった。街に行き、仲間を作り、冒険をしていった。


僕は再びスマホのステータス画面を見る。十五歳。体力も筋力も、二十五歳の時より数値は低いかもしれない。でも、敏捷と知力はなかなかいい数値ではないか。そしてこの『万物再構築』というギフト…使いようによっては、武器や道具を作れるかもしれない。


足元に転がる枝をもう一度拾い上げる。『鑑定』をかける。


アイテム 樫の枝

材質 堅い木材

状態 枯れているがまだ強度あり

価値 低い


この枝を、もっと使いやすい形に変えられないか? 例えば、先を尖らせて簡易的な槍のように。


MPを消費するが、今は7/8ある。少しだけ試してみよう。


枝を握り、先端を尖らせるイメージを強く持つ。手のひらから再び温かさが広がる。枝の先端がゆっくりと、自然に尖っていく。木が自らの形を変えるように。MPゲージが6/8に減る。


できあがったのは、確かに先の尖った、原始的な槍のようなものだ。軽く振ってみる。バランスはあまり良くないが、スライム程度ならこれで戦えるかもしれない。


「よし…」


僕はその手作り槍を握りしめ、草原を見渡した。どこかに街や村はあるのだろうか。人々はいるのだろうか。この世界のルールは? 通貨は? 食べ物は?


疑問は尽きない。でも、立ち止まっている時間はない。


太陽の位置から、だいたいの方角がわかる。東から昇った太陽は、今は少し高い位置にある。午前中だろう。とりあえず、太陽の動きを目安に、まっすぐ進んでみよう。水辺に沿って行けば、人の居住区にたどり着く可能性が高いと、どこかで読んだ気がする。


小川の流れを確認し、その下流方向へ歩き始めた。十五歳の足は軽い。二十五歳の時に感じていた膝の重さはない。呼吸も楽だ。


歩きながら、頭の中を整理する。


まず、この世界で生きるためには、基本的な情報が必要だ。街や村を見つけ、この世界の常識を学ばなければ。そのためには、おそらくお金が必要になる。先ほどのスライムが落とした水色の石は、もしかしたら何かの素材になるかもしれない。取っておこう。


次に、この『万物再構築』の能力をもっと理解し、鍛える必要がある。今は小さな石や枝を変形させるのが精一杯だが、もっと大きなもの、複雑なものを作れるようになれば、武器や防具、あるいは生活用具を作れるかもしれない。魔力の消費量と効果の関係も把握したい。


そして最後に…なぜ僕がここに来たのか。なぜ十五歳に若返ったのか。この転移には目的があるのか、それとも単なる事故なのか。


ふと、日本に残してきた家族のことを思い出す。両親。そしてあの、ライトノベルが大好きな妹。僕が突然消えたら、どんなに心配するだろう。何か、帰る方法はないのか…


胸が苦しくなる。でも今は、目の前の現実に対処しなければ。


「兄さんがこんなことになったら、絶対『チャンスだよ!』って言うだろうな」


妹の声が頭の中に響く。確かに彼女なら、悲しむより先に、目を輝かせてそう言いそうだ。


「そうだな…チャンスかもしれない」


僕は独り言をつぶやき、歩調を速めた。


草原の向こうに、森の輪郭が見えてきた。川はその森へと続いている。森があれば、食料になる木の実や、より大きな木材も手に入るかもしれない。危険な生物がいる可能性もあるが、今の僕には『鑑定』と『万物再構築』がある。なんとかなるはずだ。


スマホをポケットにしまい、手作り槍をしっかりと握る。水色の石ももう一方のポケットに入れた。


太陽が少しずつ高く昇っていく。異世界での一日が始まった。


二十五歳の社会人、高橋翔太の人生は、あのグニャっと歪んだ瞬間に終わった。


そして十五歳の転移者、翔太としての冒険が、今、この草原から始まる。


どこにたどり着くかわからない。何が待ち受けているかもわからない。


でも、一歩ずつ進んでいこう。


だってこれは、紛れもない現実なのだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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