表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/95

第63章:裏世界の初日の出と、賑やかな

初詣


誰もいない屋上、三人だけの夜明け

1月1日。午前6時45分。

除夜の鐘のアルバイトを終えた俺は、眠い目をこすりながら、再び裏世界(旧校舎)へと潜っていた。

「間に合った……」

俺たちは、旧校舎の屋上にいた。

冷え切ったコンクリートの上だが、加藤先生(25歳)が用意した熱い甘酒のおかげで、体は温かい。

「もうすぐだぞ」

先生が東の空を指差す。

現実世界なら、そこには住宅街やビルが並んでいるはずだ。

しかし、ここ(裏世界)の屋上から見える景色は、見渡す限りの「冬の花畑」だった。

櫻子先輩の心が作り出す、白銀の霜が降りた植物たちが、朝靄の中でキラキラと輝いている。

「……来たわ」

先輩の言葉と共に、地平線が黄金色に染まる。

そして、ゆっくりと、厳かに、初日の出が昇り始めた。

現実の太陽ではない。

この世界の住人たちの「想い」を照らす、優しい光だ。

「明けましておめでとう、太陽さん」

先輩が手を合わせる。

その横顔が、朝日に照らされて神々しいほどに美しい。

俺も慌てて手を合わせた。

(今年も、先輩と一緒にいられますように。……そして、この幸せな時間を、永遠にする方法が見つかりますように)

「よし! 今年も生きるぞ!」

加藤先生が太陽に向かって吠えた。

残り少ない寿命を知っている俺には、その言葉が重く、そして力強く響いた。

現実への帰還と、振袖の衝撃

「さて、戻らなきゃ。みんなが待ってる」

初日の出を見届けた俺は、名残惜しくも現実世界へ帰還した。

一旦家に帰り、着替えてから地元の神社へ向かう。

今日は、クラスの仲間と初詣の約束をしているのだ。

「古田くーん! こっちこっち!」

神社の鳥居の下で、手を振る人物がいた。

俺は一瞬、誰だか分からずに立ち止まった。

「……え、綿貫さん?」

そこにいたのは、艶やかな振袖姿の綿貫なのはさんだった。

淡いピンク地に桜の柄。髪もアップにして、花の髪飾りをつけている。

普段の活発なオカルト少女とは別人のような、正統派の美少女だ。

「ど、どうかな? 変じゃない?」

なのはさんが、照れくさそうに袖を広げる。

「ううん、すごく似合ってる。……びっくりした」

俺が正直に言うと、なのはさんは耳まで赤くして「そ、そう? えへへ」と笑った。

「おう古田! 遅えぞ!」

雰囲気をぶち壊す大声と共に、赤城烈兎が現れた。

彼はなぜか、野球のユニフォームの上に「必勝」と書かれたハチマキを巻いている。

「なんだその格好!」

「正装だろ! 今年こそ甲子園に行く祈願だ!」

さらに、塩原文子さんも合流した。

彼女はシックな袴姿(ハイカラさん風)だ。さすが文学少女。

「皆様、あけましておめでとうございます。今年のテーマは『大正ロマンとアイドルの融合』ですわ」

カオスなメンツが揃ったところで、俺たちは参道へと進んだ。


境内での遭遇戦


境内は初詣客でごった返していた。

本殿の前でお賽銭を投げ、柏手を打つ。

(どうか、櫻子先輩を蘇生させて、加藤先生を救えますように……!)

俺の願いは一つだ。

横で赤城が「150キロ投げられますように!」と叫び、なのはさんが「古田くんと……ムググ」と小声で祈っている。

「お守り買おうぜ!」

社務所へ向かうと、そこでは巫女姿のキティ先輩(本田子猫)が、高速でお守りを捌いていた。

「家内安全、交通安全、学業成就! アイヨッ!」

「先輩、バイトですか?」

「あら、古田さん。……実家の手伝い(中華)よりはマシですわ」

キティ先輩は優雅に微笑みつつ、裏でお釣りの計算を暗算でこなしている。

さらに、おみくじ売り場の奥から、強烈な視線を感じた。

祖母・時田茜だ。

神主姿で、ジロリと境内を監視している。

「降太。……変なモノ拾ってないだろうね?」

「大、大丈夫だよ!」

俺は慌てておみくじを引いた。

結果は『中吉』。

『待ち人:来たるが、予期せぬ形なり』

『願事:困難あれど、執着せよ』

「……執着せよ、か。俺らしいな」

俺は苦笑いして、おみくじを結んだ。

二つの世界を繋ぐお守り

帰り道。

俺は屋台で買った甘酒を飲みながら、ポケットの中の「二つの小さなお守り」を握りしめた。

さっきキティ先輩から買った、綺麗な刺繍入りの「健康祈願」のお守りだ。

一つは、自分用。

もう一つは、後で百葉箱に入れよう。先輩用だ。

「古田くん、何ニヤニヤしてるの?」

なのはさんが覗き込んでくる。

「え、いや。……今年も賑やかになりそうだなって」

「ふふっ、そうだね。今年もよろしくね、顧問!」

「おう! バッテリー頼むぜ!」

仲間たちの笑顔と、冬の青空。

そして、その裏側にある、花畑の初日の出。

二つの世界、二つの大切な場所。

どちらも守り抜くために、俺は今年も走り続ける。

そんな決意を新たにした、14歳の元旦だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ