第142章:秘密の女子会と、バレバレの尾行
1. 探偵・古田降太
8月某日。
俺、古田降太は、隣町のショッピングモールにある観葉植物の陰に潜んでいた。
サングラスにマスク、そして帽子。
誰がどう見ても不審者だが、俺は真剣だ。
「……見つけた」
視線の先、噴水広場の待ち合わせスポットに、二人の少女がいた。
一人は、西野園櫻子先輩。
今日は白のブラウスに、ロングスカート。麦わら帽子を目深に被り、手にはレースの手袋。避暑地のお嬢様のような清楚な出で立ちだ。
もう一人は、綿貫なのは。
黒のゴスロリファッションに、日傘。
真夏に黒ずくめという、熱中症待ったなしのスタイルだが、本人は涼しい顔をしている。
「いい? 櫻子。今日はあんたの『秋服』と『メンテナンス用品』を買うんだからね」
「ええ、頼りにしているわ、綿貫さん。今の流行なんて分からないもの」
二人は楽しそうに歩き出した。
俺は柱の影から、忍者のように(と本人は思っている動きで)追跡を開始した。
(心配だ……。櫻子先輩は世間知らずだし、なのはは趣味が偏ってるし……。もし先輩の関節が外れたりしたら大惨事だ!)
俺は「保護者」としての義務感(と、仲間はずれにされた寂しさ)を胸に、尾行を続けた。
2. 着せ替え人形
二人が最初に入ったのは、若者に人気のファッションビルだった。
「これなんかどう? 『森ガール』風」
「あら、可愛い」
なのはが次々と服を持ってくる。
試着室……ではなく、鏡の前で服を合わせる櫻子先輩。
「……悔しいけど、何でも似合うわね」
なのはが溜息をついた。
それもそのはず。櫻子先輩のスタイルは、人形作家が魂を込めて作った「黄金比」だ。
どんな服を着ても、モデルのように決まってしまう。
「じゃあ次はこれ! 私とお揃いの『ゴシック・ロリータ』!」
なのはが、フリフリの黒いドレスを持ってきた。
「あら、素敵。お葬式みたいで落ち着くわ」
「でしょ? 死人にはピッタリよ」
ブラックジョークを飛ばしながら楽しむ二人。
なのはは、櫻子先輩の腕をポーズさせたり、首の角度を調整したりしている。
「(……完全に『リアル着せ替え人形』扱いしてるな、あいつ)」
俺は少し羨ましく思いながら、遠くのマネキンのフリをして監視を続けた。
3. 衝撃の「スキンケア用品」
次に二人が向かったのは、なんと**「ホームセンター」**だった。
服屋からのホームセンター。温度差で風邪を引きそうだ。
「櫻子、アレが必要なんでしょ?」
「ええ。最近、関節の動きが渋くて」
二人は工具売り場へ直行した。
「あったわ。『KURE 5-56(潤滑スプレー)』」
「これこれ。これを肘と膝に吹くと、動きが滑らかになるのよ」
櫻子先輩が、嬉しそうに工業用スプレーをカゴに入れた。
さらに彼女たちは掃除用品売り場へ。
「あとは……これね。『激落ちくん(メラミンスポンジ)』」
「必須よね。陶器肌の汚れは、これで削り落とすに限るわ」
「(……エステの会話じゃねぇ!!)」
俺は心の中で突っ込んだ。
彼女たちにとっての「化粧品」と「スキンケア」は、完全にDIYの領域なのだ。
周囲の客が「DIY女子かな?」という目で見ているのが救いだった。
4. クレープと本音
買い物を終えた二人は、フードコートでクレープを食べていた。
俺は二つ隣のテーブルで、新聞紙(今どきどこで手に入れた?)に穴を開けて覗いていた。
「……ん、美味しい。生クリームって、幸せの味がするわ」
櫻子先輩が、口の端にクリームをつけながら微笑んだ。
「あんた、本当に生き返ってよかったわね」
なのはが、ストローを回しながら言った。
「……正直、最初はムカついてたのよ。古田の初恋の相手だし、顔はいいし、性格は小悪魔だし」
「ふふ。今は?」
「……今は、まあ。私の『最高傑作のコレクション(友達)』ってとこかな」
なのはは顔を赤らめて、そっぽを向いた。
ツンデレだ。教科書通りのツンデレだ。
「ありがとう。……私も、綿貫さんといると楽しいわ。古田くんとはまた違う、女子だけの時間って感じで」
「でしょ? 古田なんて放っておけばいいのよ。あいつ、心配性すぎてウザい時あるし」
「ふふ、そうね。……でも、そこが彼のいいところよ」
櫻子先輩の言葉に、俺の心臓が跳ねた。
「あの人は、私のために一生懸命悩んで、走って、傷ついてくれる。……そんな人、49年間で初めてだったもの」
「はいはい、ごちそうさま。……まったく、愛されてるわね、あいつ」
なのはが呆れたように笑った。
俺は新聞紙の裏で、顔が沸騰するのを感じた。
もう帰ろう。これ以上聞くのは野暮だし、心臓に悪い。
そう思って、俺が立ち上がろうとした時だった。
5. 確保完了
「……で? いつまでそこにいるつもり? ストーカー君」
背後から、冷ややかな声がした。
ビクッとして振り返ると、そこには綿貫なのはが仁王立ちしていた。
「あ、いや、これは……偶然、ここに……」
「偶然? 電車の中からずっと尾けてきてたでしょ? バレバレよ」
なのはがジト目で俺を見下ろす。
そして、その後ろから櫻子先輩が顔を出した。
「ふふ。……隠れるの下手ね、ふるふる君。あなたの『気配』、ずっと感じていたわよ?」
「えっ、最初から!?」
「ええ。ホームセンターで私が『激落ちくん』をカゴに入れた時、すごい勢いで心の中でツッコミ入れたでしょ?」
全部筒抜けだった。幽霊の察知能力を甘く見ていた。
「はぁ……。悪かったよ。心配だったんだよ」
俺が観念してマスクとサングラスを外すと、二人は顔を見合わせて笑った。
「まあ、いいわ。ちょうど荷物が重くなってきたところだし」
なのはが、大量の紙袋(服と工業用品)を俺に突き出した。
「ほら、持ちなさい。ここからは『荷物持ち』として同行を許可してあげる」
「……へいへい」
俺は苦笑いしながら、袋を受け取った。
「行きましょう、ふるふる君。次はゲームセンターでプリクラを撮るのよ」
櫻子先輩が、俺の腕に自然と自分の腕を絡めてきた。
その陶器の腕からは、ほんのりとクレープの甘い匂いがした。
「しょうがないな。……付き合いますよ、お姫様たち」
バレバレの尾行は、強制的なデートへの合流で幕を閉じた。
ショッピングモールの雑踏の中、俺たちの夏休みは、賑やかに過ぎていく。
(第142章 完)




