第133章:オカルト部長の直感と、2.5次元のライバル
1. 休み時間の連行劇
「……で、西野園さん。ちょっと顔貸してくれる?」
転入初日の2時間目休み。
黒山の人だかり(男子生徒)に囲まれていた櫻子さんの前に、仁王立ちする女子生徒が現れた。
オカルト部部長、綿貫なのはだ。
「あ、綿貫さん……」
俺が声をかけようとすると、なのはは俺をジロリと睨み、人差し指を立てた。
「古田くんは黙ってて。これは『女同士』の話だから」
彼女はそう言うと、櫻子さんの手首をガシッと掴んだ。
「行くわよ。屋上」
「あら。……お手柔らかにお願いするわね」
櫻子さんは驚く様子もなく、むしろ楽しそうに微笑んで立ち上がった。
二人は教室を出て行った。教室に残された男子たちが「おい、呼び出しか?」「転校生いきなりピンチか?」とざわつく中、俺は頭を抱えた。
(……まずい。なのはの奴、気づいたか?)
なのはは霊感ゼロだが、「超直感」を持つ女だ。
そして彼女は、俺が2年生の頃、スマホの中の「デジタル櫻子(通称サクラ・チャン)」とニヤニヤ会話していたのを、ずっと「推しのVTuberに入れ込んでいる」と勘違いして見ていたのだ。
あんなにそっくりな転校生が現れたら、疑わないはずがない。
2. 屋上での尋問タイム
屋上への階段踊り場。
誰もいない場所に来ると、なのははクルリと振り返り、櫻子さんを壁ドン(壁に手を付く)した。
「単刀直入に聞くわ。……あんた、『サクラ・チャン』でしょ?」
なのはの瞳は真剣だ。
「あら、何のことかしら? 私は昨日引っ越してきたばかりの……」
「とぼけないで! その顔、その声、そして古田くんを見る時のその目! ……古田くんがいつもスマホで見てた、あの『推しVTuber(AI)』と瓜二つじゃない!」
なのははビシッと指を差した。
「私、ずっと怪しいと思ってたのよ。古田くんがあんまりにも画面の中の『サクラ・チャン』に話しかけてるから……ついに科学部とかの技術で、実体化(3D化)させちゃったんじゃないかって!」
「…………」
櫻子さんは目を丸くした。
まさか「幽霊」ではなく「具現化したVTuber」として疑われるとは予想外だったらしい。
でも、あながち間違ってはいない。「スマホの中にいた」のも「人形の体で実体化した」のも事実だからだ。
「……ふふ。すごいわね、名探偵みたい」
櫻子さんは観念したように(というか面白がって)微笑んだ。
「ええ、そうよ。私は画面の向こうから、彼に会うためにやってきたの」
「や、やっぱり……! 2.5次元の壁を超えたってわけ!?」
なのはは驚愕で後ずさった。
オカルト部部長として「幽霊」は信じないくせに、「科学と愛が生んだ奇跡(AIの実体化)」は信じるらしい。
「認めるのね? つまり、古田くんの家に住んでるっていうのも……」
「ええ。彼が私を『インストール』してくれたの。……今は丁稚奉公として、お掃除とお料理をして恩返しをしているわ」
「い、インストール……同棲のことね!?」
なのはは悔しそうに唇を噛んだが、すぐに深呼吸をして、フンと鼻を鳴らした。
「まあいいわ。あんたが画面から出てきたっていうなら、もうバーチャルな存在じゃない。……同じ土俵に立ったってことよね」
「土俵?」
「そうよ! 私は負けないからね。古田くんのことも、部活のことも!」
なのはは宣戦布告をした。
相手が「最強の推し(VTuber)」だろうと関係ない。実体があるならライバルだ。
「ふふ。受けて立つわ、綿貫さん」
櫻子さんも嬉しそうに微笑んだ。
その時、チャイムが鳴った。
「あ、ヤバ! 次、体育じゃん! 着替えなきゃ!」
3. 更衣室のピンチ
3時間目は体育。女子は更衣室で着替えだ。
ここで、櫻子さんに最大のピンチが訪れた。
「……ねえ、西野園さん。着替えないの?」
クラスメイトの女子に聞かれ、櫻子さんはジャージを持って立ち尽くしていた。
「あ、ええ……。その、少し恥ずかしくて……」
櫻子さんの体は、球体関節人形だ。
服を着ていれば分からないが、脱げば肩や肘、膝にある「球体」が丸見えになってしまう。
特に肘と膝は、半袖短パンの体操着では隠しきれない。
(どうしよう……。VTuber設定は誤魔化せても、さすがにこの関節を見られたら……)
櫻子さんが冷や汗をかいていると、横からスッと手が伸びてきた。
「ちょっと西野園さん! 先生が呼んでたよ!」
なのはだ。
彼女は櫻子さんの腕を引くと、更衣室の奥にある「用具入れ」の陰へと連れ込んだ。
「え、綿貫さん?」
「あんた、バカなの? その体で堂々と着替えられるわけないでしょ!」
なのはは小声で囁いた。
「えっ……気づいていたの?」
「当たり前でしょ! さっき壁ドンした時、手首が『カチッ』て鳴ったし、肌の質感も人間離れしすぎ! ……あんた、やっぱり『ロボット(アンドロイド)』なんでしょ!?」
なのはの中では「VTuberが実体化=ロボットボディに入った」という図式が完成しているようだ。
「……ええ。まあ、そんなところよ」
「マジか……。古田くんの執念、恐るべしね……」
なのはは呆れつつも、自分の通学鞄から何かを取り出した。
黒い肉厚のサポーターだ。
「ほら、これ使いな。膝と肘につければ、その『メカ部分(関節)』隠せるでしょ」
「これは?」
「オカルト部のフィールドワーク用装備よ! 防空壕跡とか、狭い配管の中を探索する時に這いつくばるから、必需品なの」
さすがオカルト部部長。行動力が違う。
彼女は予備のサポーターを櫻子さんに放り投げた。
「怪我の予防ってことにしとけば怪しまれないわよ。……ほら、早く着替えて!」
なのはは背中を向けて「壁」になり、他の女子から櫻子さんが見えないようにガードしてくれた。
4. 秘密の共犯関係
「……ありがとう、綿貫さん」
着替え終わった櫻子さんは、肘と膝にサポーターを巻き、少し照れくさそうに言った。
「別に。あんたが騒ぎになって、古田くんが『変なロボット持ち込んだ』って停学になるのが嫌なだけよ」
なのははツンとそっぽを向いたが、その耳は少し赤い。
「ふふ。あなたって、本当に古田くんのことが好きなのね」
「う、うるさいわね! 余計なお世話!」
なのはは顔を真っ赤にして怒ったが、すぐにニヤリと笑った。
「でも、これで『弱み』は握ったわよ。……あんたのその体の秘密、私が守ってあげる。その代わり、私の恋路の邪魔はしないでよね」
「ええ、もちろん。……でも、私も負けるつもりはないわよ?」
櫻子さんも不敵に笑い返す。
更衣室の片隅で、奇妙な友情――いや、「オカルト部長とアンドロイド(?)の共犯関係」が結ばれた瞬間だった。
グラウンドに出ると、古田くんが心配そうにこちらを見ていた。
なのはは彼に向かって「大丈夫よ!」とばかりにサムズアップし、櫻子さんはサポーターをつけた腕で小さく手を振った。
3時間目の体育。
球体関節の転校生(元VTuber疑惑)と、直感鋭いオカルト部長の「最強タッグ」が、バレーボールの授業で無双するのは、また別の話だ。




