第114章:スマホの中のハロウィンと、冥道からの請求書
パンプキン・パニック
10月31日。世間はハロウィン一色だ。 俺、古田降太は、深刻な悩みを抱えていた。
「……重い」
物理的にではない。スマホの動作が、極端に重いのだ。 画面をタップしても反応が遅れ、端末はホッカイロのように熱い。
「先輩、大丈夫ですか?」
俺はなんとかアプリを起動した。 画面の中の部屋は、カボチャのランタンやコウモリの飾り付けで埋め尽くされていた。 その中心で、魔女のコスプレをした櫻子先輩が、動きをカクカクさせながら立っている。
『あら……ふる、ふる君……。トリック・オア……トリート……』
先輩の周囲には、無数の「画像データ」が浮遊していた。 ネットで検索した「可愛いハロウィン衣装」「カボチャのレシピ」「映えるメイク」……。
「先輩、これ全部保存してるんですか!?」
『だって……初めてのハロウィンだもの……どれも可愛くて……』
どうやら、先輩の「好奇心」がスマホの**ストレージ容量(ROM)**を限界まで圧迫してしまったようだ。 このままでは、メモリ不足でフリーズ、最悪の場合データ破損の危険がある。
専門家の確保
「マズい……。ダイエットが必要だ」
しかし、どのデータを消すかなんて俺には選べないし、先輩も嫌がるだろう。 外部に逃がすしかない。それも、霊的なデータをそのまま扱える場所へ。
「あいつしかいない!」
放課後。俺は1年生の教室へダッシュした。 狙うは、陰陽師の末裔・安倍清和だ。
「安倍! 緊急事態だ! ちょっと来い!」
「うわっ、古田先輩!? ハロウィンパーティーなら他を当たってくださいよ!」
帰ろうとしていた安倍くんの襟首を掴み、俺は強制連行した。
禁断のルート
「ちょ、どこ行くんですか!?」
「裏の園芸部だ! 急患だ!」
俺たちは旧校舎の裏へと回った。 本来なら屋上の「どこでもドアノブ」を使うのが正規ルートだ。 しかし、今は一刻を争う。スマホの発熱が限界に近く、屋上まで走る時間が惜しい。
「ここから入るぞ!」
俺は紫陽花の植え込みをかき分けた。 そこには、以前よりも少し広がった**「空間の綻び(バックドア)」**がある。
「えっ、ここ、だいぶガタが来てませんか? 変な色の風が吹いてますよ?」
「細かいことは気にするな! 行くぞ!」
俺は安倍くんを引きずって、綻びの中へ飛び込んだ。
陰陽師のクラウド・ストレージ
園芸部に転がり込むと、テラスでカボチャを彫っていた**加藤先生(25歳)**が驚いて飛び起きた。
「なんだ少年! トリック・オア・トリートか!?」
「先生! スマホが爆発しそうです!」
俺はテーブルにスマホを置いた。画面の中の先輩は、処理落ちしてポリゴンのようになっている。
『うう……お菓子……くれないと……バグるぞ……』
事情を聞いた安倍くんは、呆れながらもスマホを覗き込んだ。
「なるほど。霊的な質量(ハロウィンの浮かれ気分)がデータ量を肥大化させてるんですね。……物理的なSDカードじゃ追いつきませんよ」
「じゃあどうすれば?」
「外部に**『霊的サーバー』**を作るしかありません」
安倍くんは、懐から一枚の真っ白な**和紙(式神用紙)**を取り出した。
「僕の術で、この和紙を『外部ストレージ』化します。先輩の思い出をここに移せば、スマホは軽くなりますよ」
「おお! さすが現代っ子陰陽師! 頼む!」
俺たちはデータの「仕分け作業」を行い、ハロウィン関連のデータを和紙に移し替えた。 数時間後、スマホの動作はサクサクに戻っていた。
『ふぅ……。体が軽い! 箒で飛べそうよ!』
先輩が画面の中でクルクルと回る。完全復活だ。
「この和紙は、僕が神棚で管理しておきますね」
安倍くんが和紙を丁寧に畳んで懐に入れた。 一件落着……と思った、その時だった。
冥道からの請求書
ゴゴゴゴゴ……
園芸部の床が揺れた。 そして、俺たちが入ってきた「入り口(紫陽花のバックドア)」の方から、ドス黒い霧が噴き出してきた。
「毎度ォ! ホンマ、お前らええ加減にしときや!」
霧の中から現れたのは、派手なスーツの優男。 ニャルラトホテプだ。 手には「カボチャのバケツ」を持っているが、顔は笑っていない。眉間に深い皺が寄っている。
「ニ、ニャルラトホテプ……?」
「お前らなぁ! あの裏口、緊急時以外は使うな言うたやろ!?」
彼は入り口を指差した。 そこには、無理やりこじ開けられたことで広がってしまった空間の裂け目があり、その奥から**「ヒョー……」**という不気味な音が聞こえてくる。
「あそこ、もう**冥道(死者の通り道)**と繋がりかけてるで! ハロウィンの時期やから霊気が活性化して、変なモンがこっち(裏世界)に漏れ出しとるがな!」
「変なモノ……?」
俺が覗き込むと、裂け目の奥から、形を持たない**魑魅魍魎**の影が、這い出してこようとしていた。
「うわっ!?」
「修理せなアカンけど、タダではやらんで?」
ニャルラトホテプはニヤリと笑い、俺と安倍くんの肩をガシッと掴んだ。
「これは**『トリック・オア・ワーク(労働)』**や。修理費の代わりに、漏れ出した魑魅魍魎の掃除……やってもらおか?」
「ええええ!?」
「断る権利はないで。さあ、働け若人! これが本場のハロウィンナイトや!」
こうして、俺と安倍くん(と、カボチャ頭を被った加藤先生)は、ハロウィンの夜に、冥道から溢れ出る有象無象の処理という、ブラックなアルバイトを強制されることになった。




