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第96章:浪速のバディと、逆ナンの洗礼


道頓堀の熱気


新大阪から移動し、俺は大阪の心臓部・道頓堀に来ていた。 グリコの看板、カニの動く看板、そして凄まじい人の波。 背中のソーラーパネル付き巨大リュックが、通行人にぶつからないよう縮こまって歩く。

『ふるふる君! 見て、あれが食い倒れ人形ね!』

スマホの画面の中で、櫻子先輩が観光客モード全開ではしゃいでいる。

「先輩、声大きいです。変な目で見られますって」

「せやな。兄ちゃん、浮いとるで」

不意に、声をかけられた。 目の前に、二人の女性が立ちはだかっていた。


ヒョウ柄とモッズコート


一人は、派手なヒョウ柄の服を着て、パーマをあてた小柄なおばちゃん。 透けている。……幽霊だ。

もう一人は、モッズコートを羽織った、モデルのように背の高い美人なお姉さん。 こちらは生身の人間だが、目力が強烈だ。

「……えっと、何か?」

俺が身構えると、霊媒師らしきお姉さんが、俺の胸元を指差した。

「あんた、新幹線で『疲労喰い』を祓うたやろ? 見てたで」

「えっ」

「塩の撒き方、手慣れとったなぁ。プロか?」

おばちゃん幽霊が、俺の顔を覗き込んでニヤニヤする。

「ええ筋しとるわ。ウチらの好みや」

「は?」


強引な逆ナン


「決まりやな。なぁ、恋ちゃん」 「せやな、愛さん」

二人は顔を見合わせて頷くと、左右から俺の腕をガシッと掴んだ。

「え、ちょっ、何ですか!?」

「ええから来い! 奢ったるさかい!」

「『逆ナン』や! ありがたく思えよ少年!」

俺は抵抗する間もなく、二人に引きずられていった。 周りの観光客が「うわ、あの子連れ去られた」「大阪のお姉さんは肉食やなぁ」とヒソヒソ話している。誤解だ。

『あらあら。ふるふる君、モテモテね』

ポケットのスマホから、先輩の他人事のような声が聞こえる。 助けてくださいよ!


粉もん屋の尋問


連れ込まれたのは、路地裏のディープなお好み焼き屋だった。 鉄板を囲んで、俺は二人に挟まれて座らされた。

「……で、あんた、東京のもんか? 修学旅行にしちゃ装備がガチすぎるし、一人やし」

おばちゃん幽霊が、飴ちゃん(アメ)を俺のポケットにねじ込んでくる。

「いえ、俺は……一人旅の修行中で……」

「ふーん。修行か。ええ心がけや」

お姉さんは、手際よく焼きあがった豚玉を俺の皿に乗せた。

「食え。マヨネーズは必須やぞ」

「い、いただきます」

熱々のお好み焼きをハフハフと食べる。美味い。 本場の味に感動していると、おばちゃんがスマホの画面を指差した。

「ほんで、そのスマホのお嬢ちゃんは、彼女か?」

『!』

画面の中の櫻子先輩が、ビクッと反応した。 この人たち、スマホの中の霊体まで視えているのか。

「……彼女というか、大切な先輩です。事情があって、一緒に旅をしてるんです」

「へぇ~。『持ち運べる地縛霊』か。新しいな!」

お姉さんが面白そうに笑った。

名乗りの儀式

「気に入ったで、少年」

お姉さんはビールをあおり、ドンとジョッキを置いた。

「ウチらはな、この界隈で『霊的トラブルシューター』やっとるコンビや」

彼女はニカっと笑い、親指で自分を指した。

「ウチは梅田うめだ れん。霊媒師や」

続いて、おばちゃん幽霊がVサインをする。

「ウチは難波なんば あい。見ての通りの幽霊や」

「愛と恋」のバディ。 名前のインパクトが強い。

「で、兄ちゃん。名前は?」

「古田降太です」

「フルフルか。ええ名前や」

恋さんが、真剣な顔になった。

「単刀直入に言うで。……あんた、今晩ヒマか?」

「えっ」

「いやらしい意味ちゃうわ! ドアホ!」

恋さんが俺の頭をコテで軽く叩いた。

「実はな、ちょっと手が足りん『案件』があるんや。あんたみたいな『視えて』『動ける』若手が欲しかったんや」

「案件……ですか?」

「せや。道頓堀の川底に、ちょっとデカいのが沈んでてな。……手伝ってくれたら、大阪の『ディープな裏観光』案内したるで?」

愛さんがウィンクした。 ただの観光旅行が、いきなり「霊的アルバイト」に変わりそうな予感。 でも、校長の宿題は「力と知恵を使え」だ。 現地の同業者と交流するのも、経験値になるかもしれない。

俺はチラリとスマホを見た。 先輩は、画面の中で『面白そうじゃない! やりましょう!』と親指を立てている。

「……分かりました。手伝います」

「よっしゃ! 交渉成立や!」

「頼りにしてるで、フルフル!」

こうして、俺の大阪初日は、最強のバディ「愛と恋」と共に、「道頓堀のヌシ(?)」に挑むことになった。 たこ焼きを食べる暇は、まだなさそうだ。


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