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「World Of Gran Dariya」  作者: アマタキ
16/17

シャナーラとシュナイダー

******************************

:帝都治安局に向けて『採掘集落シャナーラの概要と近況』



 シャナーラの町は古くにあった小さな集落から発展したものである。聖圏せいけん寄りの立地にありながら当国との関わりが深く、されど大した利点も無いために今ではなかば放置されたような……ある意味で騒乱そうらんとはえん遠い町と言えよう。


 交易の種として古くの民から始まったのが耗輝岩もうきがんの採掘と加工である。町の人々にとってそれは貴重な収入源でもあるし、町の個性や誇りとも思っている。代々の町長は採掘の強い権限を持ち、実利とシンボルの意味も込めて採掘場を発展、護ってきた。


 これまでおだやかな町であり、大事おおごとも少ない辺境の長閑のどかな町というイメージはある。だが、当国の庇護ひご下にはあるものの、それはお情け程度でしかない。立地として半端な立場の旅人が多く訪れることからある種のあやうさは潜在的にあったものと思われる。


 そこに目を付ける“ならず者”が現れるのも時間の問題だったのかもしれない……。



参照:「リナラ=オルベアン報告、前置き」より





「おい、それは俺の5000PLペルラだ! 返せ!!」


「なにクソ、これは俺のもんだ! コイツ!!」


「痛っ、何しやがる!! この野郎……やっちまうぞ!?」


「あんだぁ!? かかってこい、返り討ちだ!!!」


 何やら騒がしい。それはシャナーラの歴史ある採掘場、そのキャンプ地の一角で騒ぎが起きているようだ。


 テントが5つ点在するキャンプ地は今でこそボロボロに荒れてているが、それはここを占拠せんきょしているやから共の気性を表している。


 ガサツで粗野そやな“盗賊共”は血気盛んに荒く、今朝も町民から奪った金を巡って殴り合いを始めたようだ。


 そんな殴り合う2人の盗賊を囲うように他の盗賊共も「なんだなんだ」と集まって野次を飛ばし始めた。


 荒くれ者の盗賊団――『岩堀り盗賊団』と自称する彼らだが、そのきずなはどうにも浅い。すぐに争うし、互いを信頼もしてないようである。なんたって彼らのほとんどはここ数か月でかき集められた他人同士だからだ。


 だが、それでもこうしてがりなりにも町の一拠点を制圧して維持できているのは……それらを“統率する存在”がそれら以上に荒いからに他ならない。


「――――おやおや、楽しそうですね。このすがすがしい朝に……なにをやっているんでしょうか?」


 拠点でも一際ひときわ大きなテントから1人の男が姿を現す。男は手にしている白い帽子――シルクハットのほこり丁寧ていねいはらってからそれを被った。


 赤い手袋に赤いネクタイ。それらが全身白のタキシード姿にえている。


 薄い化粧を乗せた顔立ちは端正たんせいだが、その表情に浮かぶみは口元だけであり、目元に変化は薄い。腰元には丸めてまとめられた細長い革製の“得物えもの”がるされている。


 シルクハットの男は一度伸びをした後、ゆっくりと騒ぎの現場に向かった。


 さわやかに風がふき抜けるキャンプ地の草原。緑の大地に清潔感ある白の姿がよく目立っている。ゆったりと近づいてくるその存在に、やんややんやと騒いでいた盗賊共も気が付いた。


「このやろ――アっ!?」


「ひゃっ!? ぼ、頭領ボス!? あ、あわわ……」


 楽しそうにしていた盗賊共が一斉いっせい萎縮いしゅくする。殴り合っていた2人はもちろんのこと、それをかこう他の盗賊共も硬直して気まずそうにうつむいていた。


 シルクハットの男――どうやらそれはこの岩堀り盗賊団をまとめている頭領のようだ。


 盗賊の頭領は薄く微笑ほほえんだままその場にじっとたたずんでいる。変化の少ない目元で瞳が動き、顔がれている2人の盗賊を交互に見た。そして、「ハハハ」と穏やかに笑い声をこぼす。


 状況を見た彼はさとすように、優しく語りだした。


「仲良くしましょうよ、私たちは仲間ではありませんか? 日々を仕事にはげみ、お金を沢山たくさん集めて、暮らしを良くしていきましょう。さて、そのためには何が必要でしょうか……」


 頭領は諭しながら腰元に吊るしてある革製の“得物ぶき”を引き抜いた。表情に変化は無く、変わらず口元だけ微笑んでいる。


「ひっ!? ぼ、ボス……すんません。もうしませんから、仲良くしますから……!」


「ご、ごめんなさい、ボス……仕事しますから、どうか許して……!」


 鼻血をぬぐいながら盗賊の2人は頭領の手元を見ている。細長い革製の“丈夫じょうぶむち”がときほどかれ、垂れ下がる様を見て震えた。


 盗賊の頭領は周囲の野次馬盗賊共もながめた。語りながらも、彼の周囲では鞭がうなってくうを切り裂いている。


「みなさんもお仕事の時間ですよね。さぁさ、ピッケルとバケツを持って! 今日は良い朝です……労働後の食事はさぞ美味おいしいでしょう。ええ、それで……考えてみました。そうですね、良い暮らしに必要なことは“信頼と誠実”です」


 語りを続けたままである。そのままで、頭領は勢いをつけた鞭を盗賊の2人に打ち付けた。


「「ンギャァァァあぁぁ!!??」」


 響く悲鳴。一撃ずつ打たれた盗賊の2人は背中をおさえてその場にうずくまった。背中には赤黒く血がにじんでいく。


 その光景を見た野次馬の盗賊共は「ハイ、仕事してきます!!」とあわてて岩の採掘などに散っていった。


 背を向けて散り散りに去った盗賊共を「いってらっしゃい」と優しく見送ると、盗賊の頭領はあらためて鞭を振り回し始める。


 風切り音は鋭く、次第に速く「ビュンビュン」と勢いを増していく。その勢いは風圧と摩擦まさつによって足元の草地をえぐるほどだ。激痛によってうずくまっている2人を見下みおろす頭領の目元にはやはり変化がなく、口元は何かしゃべっているようだが風切り音のせいで本人以外に聞こえにくい。だが、他人そんなことなど彼は気にしていない。


「――あんまりかしこくないんですよ、だから僕が考えなくてはならないんだよね。どうすればいいのだろう、何をすれば上手くいくんだろう? 例えば人と豚の違いはどこにあるのか……それは知性にあると思いたい。気分次第で責務を忘れて争いあうのならば、それはどちらに近いのだろう??」 


 考え込んでいる。盗賊の頭領は「う~~ん」とうなって考えながら、気ままに鞭を打ち下ろす。


 激しく振り回される鞭は嵐のように荒れ狂っており、常に虚空こくうを裂きながらたまに思い出したように2人の盗賊を打ちえた。その一撃の度に赤い飛沫ひまつが上がり、がれた皮膚の一部が草原にへばりつく。


 衣類など無いかのように……気まぐれな革の鞭は人体の外皮がいひを肉までえぐる威力と精度がある。


「ヒッ、ヒィィィ!? も、もうやめて……!」


 気まぐれな恐怖から逃げようとしたのだろう。盗賊の1人がどうにかいつくばりながら四足歩行で駆け出した。しかし、即座にその足首へと革製の鞭がからみつく。そのまま「グイッ」と引き上げられて彼はひっくり返された。


 意識がうわそらでありながら、この頭領は盗賊の動きに対して瞬間的に身をかがめ、鋭く踏み込んでから何事も無かったかのように直立して逃げる男の足をすくい上げたのである。素早い身のこなしだ。


「――約束は護っているし、それは彼らも理解しているはずだ。何も横暴おうぼうなことをしているわけではない……なのに、不真面目なのはどうしてだろう? 反省があればこうして逃げることもないだろうし。だって、そうであれば約束を間違えてしまうことになるでしょう?? だとすればこれほど悲しいことはない……ないだろうがよぉぉぉぉぉ!!? こんなの腹が立つよな、ありえないだろぉが!!!!!」


 標的がしぼられた。頭領は逃げようとした1人を集中して打ち始める。


 標的にされた盗賊は数秒まで悲鳴を上げていたが……しばらくして静かになった。理由は彼の意識が消えたからである。


 鞭によって皮膚と肉をえぐり飛ばされる痛みは想像をぜっするものだ。刑罰で鞭打ちが執行しっこうされると、規定回数へと至る以前にその痛みで絶命する者も少なくない。


 もっとも、この盗賊の頭領は人を鞭で打つことに熟練じゅくれんしているらしく、どの程度で相手が反省できるかを彼なりにはかって打ちえているようだ。


 それに……仮に絶命させてしまったとして、彼が何を感じることもない。


 つまり気分次第ということだ。盗賊が意識を失ってからは単に手癖てくせで人のはだうがった。その間も頭領は自問自答を行っている。標的から外れた他の盗賊は耳をふさいでうずくまり、嵐が過ぎるのを待つようにその場をしのいでいた。


 やがて……気まぐれな嵐はおさまった。


 盗賊の頭領は血まみれの鞭を仕舞いながらなおも独り言をこぼしている。ここまで彼の表情は変わらず口元だけの微笑みであり、目元に変化もなく、血まみれになって動かない男を見下ろしている。


 頭領はふと、白いタキシードに赤いシミが着いていることに気が付いた。彼はここで明確に機嫌を悪くして表情を曇らせる。そして苛立いらだちによって、加減のない鞭の一撃を血まみれの物体に振り下ろした。


 彼は不満そうにしながらその場を立ち去ろうとしたようだが…………ふと、思い出したように振り返る。


 そしてうずくまっていまだ耳を抑えている盗賊の残りに向かって歩き寄る。


 そうして近づいてから屈みこみ、穏やかなにささやく。


「――あれ、どうしました。お仕事の時間ですよ?」




******************************

:帝都手配手記参照――第二種手配「シュライザー兄弟」について



 シュライザー兄弟は帝都生まれの生粋なる犯罪兄弟である。手配の種別としては“逸脱いつだつ級”であり、領域内外関わらず社会への脅威きょういとなりえる存在だ。彼ら兄弟は特に審議不問とし、生死問わずの解決を国家として望まれている。特に兄弟の長兄である【ブリューゲル=シュライザー】はまさしくそうあるべき者であろう。


 ブリューゲルは一般家庭にて何不自由なく育ったとされるが、最初に殺人を犯した相手は幼馴染の友人であった。当時の年齢は互いに8才。


 殺害手段は溺死できしであり、動機は不明。「やっぱり死んじゃった」との発言から計画性と殺意はあったと思われるが……それを罪とは微塵みじんも思っていなかったらしい。殺人が罪であるということは理解できていたようだが、自分の行いが罪に問われる意味は理解できないという状態であった。


 彼はあっさりと拘束され、若年・精神性配慮により施設へと送られた。更生こうせいを期待されてのことだったが、一週間も経たずに逃走。その後、ブリューゲルは両親を惨殺してから各地を転々と移り住んだらしい。


 この時期の詳細は不明であるものの、帝域ていいき北方ほっぽうのエルテンにて聖圏せいけんの施設にとらわれたという情報もある。


 そうして……ある時期から彼は帝域内外問わずに即席の犯罪集団を結集し、集落や町を荒らしては姿をくらます……といった犯罪行為を繰り返し始めた。どうしたことかブリューゲルは社会的に破綻はたんした人格でありながら特定の人間をきつける才能ものがあるらしい。また、かせぎへの嗅覚も鋭いという。


 突出した犯罪者である長男に比べて次男である【ラザワック=シュライザー】はあまり特異的ではない。


 この気の大人おとなしい男は常に兄と行動を共にしてはいるが、主体的な発想と言うものがいちじるしく欠如けつじょしており、兄の指示と兄の危機以外に目立った行動はおこさない。口数も少なく、恐怖と暴力によって他者をコントロールする兄とは異なり、そもそも他者を従えることがない。


 あくまで彼は尊敬する兄に従うのみであり、なによりも彼は崇拝すうはいする兄の行いを“良いことだ”と信じてうたがわない。そして長兄もまた、この愚鈍な弟だけは“仲間”と認識しているようで、特段と贔屓ひいきするわけではなくとも同格……友人のように接しているふしがある。


 ……とは言え、そうそう兄ブリューゲルが危機におちいることなどなく、基本的には彼の“仕事”を支える程度に留まっているのがラザワックという男だ。



:参照終了

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