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第十八話:君の右腕を作って見せる。

 明滅する魔法陣に飛び込んだムイタの眼前に飛び込んだのは、あの白い少女の右腕だった。

 ムイタが転移した先はユウサリが切り伏せた、冒険者達の死体の下だった。

 頭の中に氷を突っ込まれたような、芯から冷える悪寒がムイタの全身を支配する。

 次の瞬間、少年の頭はどうすれば少女を救えるかそれだけを考え、声を押し殺した。


 そこから起きたことは実に数秒のことである。


 ユウサリの呻き声を聴き、下卑た笑みを浮かべたレオ達はムイタに気付かなかった。

 

 ムイタは冒険者の死体のから這いだし、その陰に隠れる。

 そして、敵と部屋の様子を確かめてから。腰に付けたポシェットから瓶を取り出し投げた。


 瓶の中身は煙草と火薬、そして唐辛子の粉末が入っている。ゴブリンとの戦闘で危険になった時の為の『自家製催涙瓶』。


 瓶に気づいたイアンが、防御姿勢を取り、ナシアが杖を構え、レオがムイタを見る。

 ムイタはユウサリの横に並ぶために作った新たな愛銃を両手で握り、狙いを定めた。

 瓶とレオの心臓が重なるその一点を狙い、引き金を引く。


 ユウサリが持つ【恩寵(スキル)】を受けた。その弾丸が爆音と共に発射された。


 銃口を見て、剣で銃弾受けるレオだったが、余りの威力に吹っ飛ばされ、同時に煙幕が室内に満ちる。


「ユウサリっ!!」


 返答はない。ゴーグルをしている自分には煙幕ごしに、レオ達の影がわかる。

 牽制の意味も込めて、ナシアとイアンに一発ずつ放つ。

 回転式の弾倉は正しく機能し、ダブルアクションによって撃鉄が引き上げられ連射を可能にしていた。

 しかしその反動の大きさゆえに狙いがブレていることをムイタは感じていた。

 命中したかを確かめる余裕はない。


「目がっ、このっ! 何よこれっ!」


「グッ、これは魔導銃!? 奴は魔法陣から現れたのか? そんなことはできないはず……」


 ナシアからの火炎弾が、帽子をかすめる。

 唐辛子の粉末は効果を発揮しているようだった。

 ユウサリに駆け寄り、抱き上げ走り出した。

 背後から火炎弾が脇腹を掠めるが、必死に足を動かす。

 鍛えていたとはいっても、低レベルかつ【運命と歯車の神:シュタール】の加護をしか持てない彼の身体能力は低い。

 しかし、ナシア達はムイタを追うことができなかった。


 煙幕が薄まると、現状が移される。

 レオはムイタの銃弾を受けた剣が身体に激突して気絶、ナシアは見た目は無傷だがユウサリとの戦闘で魔力を消耗している上に唐辛子の粉末をもろに受け、涙で前が見えない。

 イアンは弾丸が脇腹を直撃し、回復しようにも傷口に白い炎が纏わり、処置が遅れていた。

 

 いくら不意をつかれたとはいえ、彼等は一流の冒険者、通常であれば対応することはできただろう。

 しかし、ユウサリとの戦闘により体力と気力を使い果たし、さらに勝利の余韻に浸っていたタイミングでの強襲はムイタの予想以上に効果を発揮していた。

 

 結果として、少年は少女の奪還を果たす。しかし状況は最悪だった。

 しばらく走り、後ろを振り返り追手が来ないことを確認しムイタはユウサリを降ろして状態を確認する。


 ただでさえ白い彼女の肌は血の気が失われ、その右腕は上腕から先がない。

 包帯を取り出し、縛るも血が止まらない。


「ユウサリ、返事しろ、ユウサリ、ユウサリっ!! クッソ。ここは三階か、上までは間に合わない! どうすりゃ……」


 今にも消えそうな、命の灯。

 どうすることもできず、ムイタは茫然とした。

 

「ニャス!!」


「ルビー?」


 懐からルビーが鳴声を挙げた。

 その額の石が輝き、足場が無くなるような浮遊感。

 

 次の瞬間、ムイタはいつも使用している隠し部屋の中に居た。

 見ればユウサリもそこにいる。


「これは……転移? お前の力か」


「ニャア」


 肯定の鳴き声だが、今はユウサリが優先だ。

 ユウサリの様子はいよいよ、悪化しており、その呼吸も途切れ途切れだ。


「ここなら、一応血止めもある。火も用意できるから、傷口を焼きつぶせば……薬箱は……」


 手順を口に出して確認をしてた少年はその視界に入ったものの為に言葉を失う。

 少年の視線の先には、コルトに取りつけられていた古い義足があった。

 銃の部品に使ったものだが、接続部分は丸々残っている。


 思い出すのは少女を初めてみた時のこと、神様が作ったものだと思った。

 許されるなら自分が作りたいと願ってしまった。

 

 傷を焼きつぶしてしまえば、彼女の腕は使い物にならないだろう。

 しかし今なら、義足を調整し、義手として接続部分を取り付けることができるのではないか?


「俺が……願ったから」


 そんなことは在りえないと思いつつも、そんな考えが頭をよぎる。

 もし、自分達が出会わなければ、ユウサリはこんな目に合わなかったかもしれない。

 普通にレオのギルドに入って、上手くやっていただろう。

 俺と出会ったせいで、俺が願ったから。


「ニャ……」


 心配そうに、見上げるルビーを机に置き、ムイタは義足に手を伸ばした。

 

「クッソったれだ。シュタール、運命の神、聞こえてるんなら。答えろよ、これは運命なのか?」


 取り付け部分を引き出し、手持ちの工具で外側の形を整える。

 接続部の骨を魔鉄鋼の芯と合わせ、固定。魔力を流すと義足が噛みつくように変形し腕に取り付けられた。

 ここからは時間との勝負になる。骨と肉、そして血管と神経。

焼きつぶしたほうが、一本一本繋ぐより素早く確実に血を止めることができ、安全だろう。

 しかし、少女が剣を振るえなくなることは自分が許さない。

 ただの一本だって失敗してやるものか、完全に完璧に繋いで見せる。

 

「俺が、ユウサリの右腕を作って見せる」


 少年の宣言が部屋に響き、その両手に歯車の紋章が浮かび上がった。

 しかし、少女のみを見る少年は気づかない。

 宣言は確かに神の耳に届いていた。


 運命の歯車は今、まさに動き出したのだ。

遅くなってすみません。

ここまで読んでくれた貴方に格別の感謝を。

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