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閑話:迫る危機①

 ユウサリとムイタが走り去った後の【猛煙の宴】は騒然としていた。

 次代の英雄ともてはやされていたレオが真っ向から敗北したのだ。


「このことは絶対に外に漏らすなっ!」


 大声で指示を出すのはギルドマスターのバンゴという男だった。大柄な体躯に赤毛の髪と髭を蓄えたその姿は人というよりは鬼の姿に近い。

 ユウサリとの一騎打ちを二階より見ていた彼の対応は迅速だった。

 その場にいたギルド職員と冒険者に誓約書まで書かせ秘密を守るように徹底した。

 大手と呼ばれるギルド間の対立は激しく常に弱みを探り合っている。

 もしこのことが広まれば、水に置いた犬の如く叩かれるだろう。

 外から覗いていた冒険者も捕まえたが、全員ではない情報は必ず洩れる。

 怒りを隠そうともせず、バンゴはギルド内にある治療室のドアを蹴破らんばかりに開け、治療を受けていたレオの前に詰め寄った。


「この恥さらしが。このことはいずれ広まるぞ。無名の冒険者にやられた英雄の紛い物がいたとなっ!」


「……油断しただけだ」


 歯を食いしばり、唸るようにそう言ったレオの相貌はいつもの美男子のそれではなく、怒りに狂う獣ようだった


「黙れ! こうなったらあの女を殺しても報復ととられるだけだ。どうにかしてこのギルドへ抱き込め。ワシはこれからキサマの尻ぬぐいだ」


 そう言って、バンゴは部屋を後にした。沈黙が部屋を支配する。

 必死に怒りを呑み込もうとするレオに、腕に入れ墨で【グラミドロ】の紋章を入れている男が話しかけた。レオのパーティーで前衛を担当しているイアンは、ユウサリに前々から目をつけていた冒険者の一人でもある。


「……レオ」


「黙れイアン。今お前の言葉は聞きたくない」


「あの女を確実に手に入れる方法がある。奴隷に落とせばいい、そうすればどうするのも俺達しだいだ」


「フッ、何を言うかと思えば。どうやって奴隷なんぞに落とす? 殺すよりも難しいだろう」


「【契約と天秤の神:イスペリア】の加護を持つ者に奴隷契約の誓約書を用意させる。無論非合法だ」


 奴隷はこの迷宮都市ではポピュラーな商材の一つである。

 怪我をした冒険者、借金を負ったもの、決闘に破れた者、犯罪者、様々な理由で奴隷となった者たちは自身の主人に忠誠を強制的に誓わされる。

 その契約を担うのは、契約を専門とする神官だった。本来は冒険者に与えられる加護を、神官が持つことはないのだが、いく柱の神々は迷宮攻略の手助けとして、例外的に冒険者意外にも加護を与えることもあった。【手助けの恩寵(アシスタント・スキル)】と呼ばれるそれらのスキルはギルドによって管理されている。正規の手続き以外で奴隷契約をすることは困難であることはこの街の常識だった。


「非合法の誓約書? そんなものどうやって手に入れるつもりだ」


 その問い掛けに対し、それまで傍観していたナシアが一枚の紙を差し出す。


「私の下僕の一人が【闇ギルド】に伝手があるの、これに本人が血判をすれば契約は完了よ。契約の内容は契約の神との交渉しだいかしら」


「そんなことが公になれば破滅だぞ……いや、そんなことはどうでもいい。あの女を捕まえて無理やりにでも判を押せば……」


 ギラギラとした目でレオが紙を見つめる。その脳内はあの白い少女をいかに辱めるかの算段をしていた。その様子をみてナシアは笑みを深め、イアンは口を開いた。


「しかし、あの女は強い。下手にことを起こして大事になってはこちらが困る」


 ダンジョン内で他冒険者へ危害を加えることはもちろん街の法を犯す行為になる。 

 最悪、冒険者としての資格を失うが、功を焦り罪を犯すものは後を絶たない。

 しかし、一流ギルドのエースパーティーであるレオ達がそれをすることはリスクが高すぎることだ。


「それについても問題ないわ、いかにあの女が化け物でも所詮は小娘、やりようはいくらでもある……私よりも注目されるなんてこと許さないわ」


「……俺はダンジョンにいくつか罠をしかけていてな。過去に何人も自分のものにしたことがある」


「ハハッ、なんだイアン。そんな楽しいことをしていたのか。どうりでお前みたいな奴が女奴隷を何人も侍らせているわけだ。それも【闇ギルド】のおかげか?」


「どうだかな? あの女は罠に嵌めた後も暴れるだろう。だが、お前と俺、そして兵隊をつれて襲い掛かれば彼奴とて仕留めることは容易い」


「いいね、乗ったよ。あいつは二人で楽しむってことにしよう。薬漬けにして手足を潰し、二度と剣が持てない体にして家に飾ってやる。人形の様にな」


 下卑た笑いが部屋に満ちる。彼らは忘れていた、白い少女には一人の少年が傍にいたということを。

更新遅れてすみません。ユウサリに危機が迫ります。


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