第十三話:人形少女は白炎と踊る
ユウサリの背後から、レオの大剣が振り下ろされる。
【炎獅子】の名に恥じない、烈火を纏った一撃。誰もが白の少女が殺されたことを確信していた。
甲高い、刃の滑る音。背中の剣を抜いたユウサリは事も無げにレオの一撃を受け流す。
高級な絨毯ごと床が叩き割れ、レオの紅蓮の炎とユウサリの雪白の火の粉が舞う。
「グッ、おいおい。何躱してんだぁあああ」
「……」
レオの一言に無言で返す、ユウサリは剣先を下げ、半眼で佇む。
『……白炎』『人間じゃねぇ』『白磁の……人形』
たなびく白髪に紅眼。人とは思えぬその美しさに、周囲の人間は引き込まれ夢を見るようにその姿を形容する。
「なんだその面はっ! オオオォ!」
地面から引き抜き突き出されたレオの大剣は、確かに必殺の威力を誇っているが、その先にユウサリはいない。
ユウサリは剣の下に潜り込み、膝を抜いた脱力からの円を書くような下段薙ぎを放つ。
脛に入る斬撃は具足に弾かれるが、その下の足にもダメージは入る。何よりも、切られた具足は白い炎がまとわりつく。
「グッ、このアマぁ!!」
レオの【位階】は13、この街でもっとも英雄に近いと言われているだけの実力はあった。
最初の一撃も受けそこなえばユウサリは致命傷を負っていたであろう。
しかし、ユウサリのこの下段切りはそのまま決定打となっていた。
軸足へのダメージは踏み込みを甘くし、フェイントもかけることができない。
籠手、膝、肘、内腿、脇の下、踊るように淀みないユウサリの斬撃がレオの体と心を削る。
「【獅子の吠声】ィっ!」
劣勢を覆そうと、レオは最大の一撃を放つ。【恩寵】を纏う一撃は渦巻く炎となりユウサリを巻き込んだ。
「ユウサリっいいい!」
ふらつく体を起こし、ムイタが叫ぶ。
生き物のように蠢く紅蓮の炎を見てレオが口元を歪めるが、その紅蓮に白が混ざり、隙間を縫うようにユウサリの長剣が炎を切り裂いた。
そして、ムイタを見て首を傾げる。
「……なに?」
「いや、えっと、大丈夫か?」
「……(コクリ)」
何でもないというようにユウサリはムイタに返事をするが、その装備はやや焦げており、少なからずダメージはある様子だった。しかし表情はいっさい変えず、ユウサリはレオに歩み寄る。
自身の最大の一撃を持ってしても、勝負を決められなかった、レオはこれまで無視していたダメージが噴き出し、膝をついた。
「グッ、か、身体が動かない。こ、この俺が……お、おいっ。待てっ」
その時、ムイタは見た。二回へと繋がる階段の踊り場、そこからこちらを見ていた露出の激しい恰好の女性が杖を構えていたのを。
「今だ、ナシア。魔術で殺せっ!」
尻もちをついた姿勢のまま、レオが手を振り、ナシアと呼ばれた女魔術師が魔術を放つ。
「レオが負けると、あたしが困るのよ【炎弾】ッ」
女魔術師から放たれた緑の炎は一直線に、ユウサリに向かう。ユウサリがそれに気づき迎撃しようとするもダメージの為か姿勢が整っていない。防御の姿勢をとって衝撃に備える。
轟音が響く、炎弾は空中で弾け飛ぶように霧散した。
「あたしの魔術が!?」
その音の先には、先程まで無様に転がっていた少年が銃を構えていた。
銃身は完全に割れており、飛び散った破片で額から血が流れているが、ムイタは笑う。
「横入は無粋だろ、決めちまえユウサリ」
「ま、待てっ、今なら冗談でいい。そうだ、俺のハーレムに入ってもいいぞっ」
「……」
無表情で近寄るユウサリが剣を振る。
「ヒィイイイイイイイ、俺の負けだあああああああ」
その宣言を聞いて、剣が首元で止められる。誰が見ても完璧な決着だった。
ユウサリはそのまま、剣を背中にしまい。受付で硬直しているベスチカに向き直る。
「……仮登録の解除」
「えっ、はい。た、ただいまっ!」
治療のためにギルド職員に運ばれるレオと、言葉を発することができないギャラリーを横目に解除の手続きは迅速に行われた。
自身の冒険者証明を確認すると、ユウサリはどうだと言わんばかりに、ムイタに歩み寄りそれを突き付けた。
「……(ドヤァ)」
「いや、そんな顔されても。いいから、とっととずらかるぞ」
周囲からの様々な感情の入り混じった視線に耐えきれずハンチング帽を目深に被り直し、ムイタはユウサリの手をとって走り出した。
締め切られた扉を、強引に開けて外へ飛び出す。
その様子を歯を食いしばって見ていた者が一人いた。
「なんで、アイツが、あんな出来損ないが……クソッ、クソッ」
ジグは、走り去るムイタとユウサリを血走った眼で睨み付けていた
更新が遅れてすみません。失踪はしないようにします。
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