勇者連盟vs道具屋連合⑨
夜も夜で盛り上がるチマミカ。もう一日中騒ぎっぱなしだな。そしてどちらかと言えば、こちらが本番か。酒場の中も外も関係なし。宿の窓から覗いただけなので店内の様子は定かではないが、少なくとも外は大盛況。苦情や治安維持部隊はなさそうなので、どうやらこれが日常なのだろう。至る所で何度目かも分からない乾杯が発声され、肩組んで大合唱で盛り上がり、笑い声が絶えなかった。最近は独りで過ごすことが多かったし、賑やかなのは苦手じゃないし、コロッセオで飲んだビールは美味かったし、部屋の中では暇だったし、雫の光る気配も感じられなかったので、俺も表に出た。誘われるようにというよりは、我慢できずにというのが正直な所かな。
1歩外に出た途端(というのはさすがに盛りすぎだが)、絡まれた。まるで待ち合わせた友人が現れたかのように若い男性に肩を組まれ、ビールを渡され、店の中へ連行された。この町でなければもちろん拒んでいたが、チマミカには溶け込みたいと思わせる不思議な何かがあった。
「店長ー!お客さん、ひとり追加ね~。何パーセントにしますか?」
「え・・・」
ああ、もうビールということは決定事項なのね。俺の選択肢は何パーセントを飲むかということ。
「じゃ、じゃあ、5パーセントでお願いします。」
「おお、分かってますね~。そう、男の一杯目は5パーと決まっているんです。店長ー!5パー1丁ね~。」
「はいよー。」
店内は大盛況には違いないのだが、どうも様子が奇妙だった。ほとんどの客が1ヶ所に集まっているのだ。イベントか何か、だろうか。
「―ひとつ目の武器がお釈迦にされた時に、俺は悟ったわけよ。コイツやるじゃねぇか、楽しめそうじゃねぇか、ってな。」
ひとりの男を中心に輪が広がっていた。
注文したビールが運ばれてくるまでの間、呆然と立ち尽くしていた。ひと際体の大きい男がビール片手に演説を繰り広げていたからだ。今日の闘技を振り返り、自分がいかに強いかの自己顕示。内容としてはそんな所なのだろう。でっかい声でしゃべるから、結構な距離でも耳に届いてくる。あれなのかな、聴衆にとっては闘技会のヒーローが我が町にやってきたという感じなのだろうか。楽しそうなのは結構だし、俺も運び屋に相談したいことがあったのだが、たとえあの輪の中心にクォーダ以外の2人がいても話ができる環境ではない。店を出るかと思っていた頃、ポンポンと肩を叩かれた。ビールが運ばれてきたようで、振り返ってみると、ビールを運んできてくれたのは蓑口さんだった。その瞬間、俺はどんな顔をしていたろうか。まぬけ面をしていたんだろうな。
「カウンターで一緒に飲みませんか。運び屋さんも一緒ですよ。」
蓑口さんの指差す方を見ると、勇者がひらひらと手を振っていた。
「クォーダさんは何をしているんですか?随分と盛り上がっていますけれど―」
カウンターに3人並ぶ。
「自慢話よ、自慢話。もうかれこれ1時間。ず~っとおんなじ話で、おんなじ様に盛り上がっているわ。話す方も訊く方もよく飽きないわね。」
壁際に運び屋、真ん中に俺が座り、右隣に蓑口さんがいる。ジョブで言うと勇者、魔王、賢者ってことでいいのかな。全くもってとんでもねぇカウンターだな。それよりも凄いのは―1時間も話してんのか、クォーダは。決着はあっという間だったじゃないか。何をそんなに話すことがあるというのだ。ただ、まぁ・・・異様に盛り上がっているのは確かなんだけれど。
鼎の沸くが如し。ただ、店中の注意、着目、全神経がクォーダに向いているおかげで、他人の耳を気にすることなく喋ることができた。
「何故、闘技会に参加を?まっすぐラストダンジョンに向かってくると思っていましたが。」
答えたのは運び屋だった。
「どっかの誰かさんがモンスターを強化して、宝箱のアイテムランクを大きく下げてしまいましたからね。結構厳しいですよ、我々でもね。油断すれば一気に窮地に追い込まれます。それと、失くしたくない武器や防具もありますからね。気軽にラストダンジョンへ入ることは難しくなりました。」
そういう運び屋の話を、俺は半信半疑で訊いていた。確かに彼の言う通り。けれども伝説人が苦戦するモンスターレベルかと問われれば、少なくとも前半は楽勝だろうな。苦戦を強いられるにしても地下50階以降。そもそも、俺が魔王に転職して以降、ラストダンジョンに足を踏み入れていまい―
ポンポン・・・運び屋の話が一段落した所で、蓑口さんが肩を叩いて俺を呼んだ。一冊のモンスターブックを開いて。
「如月さん、ちょっと見て下さい。モンスターのデータ、大分集まったんですけれど・・・」
上品なほろ酔い美女って、なんでこんなにいいんだろうな。モンスターブックにモンスターのデータを記すには実際にそのモンスターと戦い、勝利することが条件。ナンバー1~200までが地上で出会えるモンスターで、201~300までがラストダンジョンに出現するモンスター。1~200番まではほぼ全て埋まっていた。伝説人の実力を考えれば当然だな。ペラペラと200番以降も拝見したが、ラストダンジョンを訪れた形跡はなし。さて、200番までのモンスターで埋まっていない所は・・・
「ここです。105番だけ埋まっていなくて―無理に全部を埋める必要はないのですけれど、1ヶ所だけ空いているなんて気持ち悪いじゃないですか。ここまで来たら全部埋めたいですよね。それに、こういうモンスターに限って重要だったりすると思うんですよ。レアだと思うんです。」
確かに。まだ虫食い状態の方が気にならないかもしれない。あとひとつとなれば是非ともコンプリートしたいというのが心理というものだ。しかもこのモンスターは地上で最も希少なモンスター。その辺の推測もお見事。理由は武器と防具、両方の耐久値を回復できる特技を覚えるから。
「そこを埋めるまでラストダンジョンへは行かないと言い張っちゃって・・・困っちゃいますよね。」
「だって気になるでしょう。あと一匹じゃない。あなたは運び屋さんでしょう。全国各地を飛び回っていたんだから、ちょっと探してきて、ちゃちゃっと倒してきてよ。」
「言い出したらクォーダよりも頑固なんですよ。」
わざと小声にした運び屋の言葉が訊こえないはずもなく、蓑口さんはむぅ~と顔を膨らませていた。
「―で、闘技会で何か手掛かりが見つからないかと思って参加している訳です。もしかしたら、闘技会でイベントモンスターとして登場するかもなんて思っていたのですが・・・」
「へぇ~・・・」
伝説人が行き詰っているとまではいかなくても、ちょっと迷っている、悩んでいる現状を目の当たりにすると、不思議なことにちょっと嬉しいんだな。別に蜜の味がするとかそういうわけではなく。そして答えを知っているから、助言ができるからなおのこと。
「3人以下のパーティーで、今の伝説人なら丁度いいですね、転職の館ヨーギへ向かって下さい。『転職をご希望か?』の質問に『いいえ』と答えると、新しい展開になるはずです。」
こっちもこっちで盛り上がる。楽しい席のお酒はおいしいな。
「ところで、如月さんはどうしてチマミカへ?」
最初は奴の斬竜刀を頂くつもりだった。
「そうそう、魔王様がこんな所で油を売っていたら、小田のお爺さんに怒られてしまうでしょう。」
だが目に留まった物は奴のアクセサリー。
「ラストダンジョンで万事屋を営んでいるのですが、最近『紋付き勇者』が多くて―中には周りに人がいないのをいいことに戦闘を仕掛けてくる輩もいまして。ちょっと地上の様子を覗いてみようかと。」
強くなれることは間違いねぇが、手段が、過程が気に食わねぇ。
「ん~・・・なるほど・・・モンスターブックのお礼も兼ねて、紋付きのお話をしましょうか。魔王様の参考になるかは分かりませんが、ね。」
そんでもって奪い取ったのがこの石。そしてこいつは、こうだー!!ガッハッハッハッハッ!!!
わざわざ後ろは振り向かない。3人共ちょっと会話を休憩して、溜息交じりに微笑んだ。




