ちょっと昔話を➅
黙ってちょんとクォーダの斧に触れる柳。斧に課された負荷がすっと消失した。
「フンッ。礼は言わねぇからな。」
「はいはい。そんなことより、第2ラウンドといきましょう。」
そう言って、ラビへと視線を移す柳。大きな法力がラビに集積されていく。ラビの周囲には薄紅色のオーラだろうか…いずれ特大の一撃が来ることは火を見るより明らかだった。
「あまり遊んでいる暇はなさそうですね。クォーダ、俺が隙を作りますので、小柄な女性の方をお願いできますか。ただし、くれぐれも手荒な真似をしないように。」
そう注意すると、柳も魔法を唱えた。
「雷とまではいきませんが、痺れさせるくらいの電気なら俺も作れるんですよ。」
剣を持っていない左手から魔法を放つ。本人が自覚している通り雷属性の魔法ではあるが、雷というよりも電気に近い。天空より神の稲妻が、なんて法術であれば堂々と雷属性と胸を張れるのだろうが、柳の魔法は静電気の様なもの。ごく小さな雷光が数発、ラビに襲い掛かった。この魔法に攻撃判定はなし。当たるとちょっとの間体が痺れる程度。その時既に、柳の隣にクォーダの姿はなかった。柳、そしてその正面に蓑口が立っている。
「蓑口さん、お願いです。」
放った魔法の行き先を見送ることなく、柳が蓑口を説得にかかった。
「どうか我々に協力して頂けませんか。法術士だけのパーティーではどうしても限界がくるのは蓑口さんもご承知の通りです。同様に我々近接だけでも遅かれ早かれ壁にぶつかることが目に見えています。お2人の安全は我々が命をかけてお守りします。あのクォーダという男も口は悪いですが、信頼できる仲間です。ずっとチームを組んできた私が保証します。」
「いいわ、一緒に行きましょう。いずれどこかのパーティーに吸収されるという話はラビともしていたから―」
「ありがとうございます。それでは宜しくお願いします。」
そう言って差し出された手に手を重ねる蓑口。
「私達も一応は異名があって、『マジックソルト』なんて呼ばれているんですが、クレイジーソルトと一緒になったら何と呼ばれるんでしょうね。」
「どうでしょうか。地獄の料理人とでも呼ばれますかね。」
柳と蓑口の契約が成立した頃、クォーダはどこに隠し持っていたのか、太いロープでラビをぐるぐる巻きにしていた。
「わ-!!離せ-!!コノヤロ-!痴漢!変態!コラ-!」
騒ぎ、罵り、喚くラビを、泥棒が大袋を担ぐように肩に引っ掛けて運ぶクォーダ。さほど重さは感じていないはずだが、耳元で遠慮なく叫ぶラビの怒声に顔を歪めながら歩いてきた。
「もう、クォーダ。乱暴は駄目だと・・・」
「いや、だってよ~・・・斧でぶっ叩く訳にはいかねぇし、ちんたらしていたら火の玉が飛んでくるだろうしよ~、結構難しいぞ。このおチビ、そこら辺のモンスターなんかよりよっぽど厄介だ。」
そう言ってラビを下ろす。クォーダなりに気を遣ったのかは定かでないが、一応はクォーダ流の誉め言葉だったのだが―
「わ-!離せ-!燃やしてやる-!○%$÷#□4%△&"|=?!・・・」
蓑口も慰めて協力してくれているが、訊く耳を持たないラビ。特大の一発を唱えられても困ってしまうのでロープを解けない。そこで柳が説得を試みた。
子供に離し掛けるみたいに腰を曲げてラビと目線を合わせる。
「柳と申します。ラビさん、お話を訊いて頂けませんか。お願いします。」
「い、や、だ-!ロ、-、プ、を、ほ、ど、け-!!」
大声を出しすぎてラビの声が枯れてきた。
「分かりました。ロープを解きますから、ひとつだけ約束して下さい。」
対して落ち着いた口調の柳に、クォーダが離し掛けた。
「おい、柳。いいのか?」
簡単にラビの要求を呑むという柳に確認を入れるクォーダを、片手を軽く上げて制止する柳を、困らせるラビを腕組みして見守る蓑口。お手並み拝見といった感じか。今も昔も4人の関係性は変わらないな。
「それではロープを外しますが、ひとつだけお願いを訊いて下さいね。実はこれ、ラビさんのお願いでもあるのですが―」
半ベソをかいたような表情で地面を睨むラビ。柳の言う約束とかお願いという単語に対しては何の反応も示さないが、静かにはなってくれた。柳がロープを解きながら続ける。
「ラビ、お願いというのはですね―」
皆が訊き耳を立てる
「ラビの好きなものをあそこにいるお爺さんから聞きました。突然ですがラビ、お菓子屋さんになりませんか?」
「えっ!?」
はらりとロープが解けた。
「チョコレート、ゼリー、プリンとか・・・あとはどんなお菓子がありますかね。」
ラビの瞳がキラキラ輝きだした。柳の問いに素直に答える。
「あと、クッキーとかクレープとかアイスとかもあるぞ。」
「いいですね。お菓子作りは楽しいですよね~。私からのお願いはですね、ラビ。お菓子屋さんになりませんか?」
「な、なれるのか?お菓子屋さんに。」
「今は悪い奴が邪魔していまして・・・そいつを倒せば―」
「よしっ、いいぞ。悪者を倒してお菓子屋さんになってやる!」
柳の狙い通りに話が進んだ。
お菓子屋さんになる為には悪い奴をやっつけなくてはならないということで、ラビを引き抜くことに成功した。こうして、後に伝説人と呼ばれるパーティーが結成された。色々と準備もあるだろうということで出発は翌日に。元々の女性陣、男性陣に一旦別れた。
「で、何なんだ、お菓子屋って?」
アラタヤードの宿屋にて。
「小田爺に訊いたら、ラビはお菓子屋さんになるのが夢なんだそうです。ですから少々心は痛みましたが、利用させてもらうことにしました。」
ケロッと答え、コーヒーをすする柳を前に大きく息を吐き、髪のない頭をペチンと叩き、煙草を取り出したクォーダ。火を点けて問う。
「あのラビとかいうガキは何者だ?それなりの戦力になるというのは分かったが、どうやってあれだけの法力を手に入れたんだ。努力か?才能か?禁忌か?それとも何か特別な道具でも手に入れたのか?」
「元魔王です。」
クォーダが顔を真っ赤にしてむせ返ったのは言うまでもない。




