ちょっと昔話を⑤
戦いとしては非常に分かり易い。距離を詰めれば柳とクォーダの勝ち。寄せつけなければ蓑口、ラビ組の勝利が濃厚である。近接攻撃vs遠距離砲。間合いが勝負を分ける。
「クォーダは向かって右側の、小柄な女性をお願いします。くれぐれも魔法攻撃に注意して下さいね。油断できない相手です。」
「おうよっ。柳も流れ弾には気を付けるこったな。不意打ちは効くだろうからな。」
「そうですね。お互い、流れ弾は自己責任ということで。」
どこか楽しげに会話する柳とクォーダ。まるで仲の良い幼い兄弟か親友だ。そして眼前のイベントが待ち遠しくて仕方ない。この2人とは対照的に、蓑口とラビに笑顔は見られない。
「やれやれ・・・本当に勝手な人達なんだから。」
「いいさ。一発でお終いだ。蓑口、巻き添え食わないようにな。」
「ラビ、殺し屋ダメよ。モンスターじゃないんだら。」
「さぁな。勝手に戦いを始めたあいつらが悪い。それに、この程度でくたばるようなら、それまでということだ。」
あっという間の展開だった。ラビから放たれた巨大な火球。ラビの何倍、何十倍の大きさ。いとも簡単に、ためらうことなく柳とクォーダを飲み込んでしまった。2人の姿が炎の中に消える。
「大丈夫かの~。駄目かもしれんの~・・・・・・ふぁっ、ふぉっ、ふぇっ・・・」
本気で心配しているかどうかは定かでないが、小田爺も興味深そうに戦況を眺めていた。
やがて広大な敷地の一箇所に放たれた大きな火の球は徐々に形を崩し、巨大な焚火の様相を呈した。外から内側の様子は伺えない。抗う暇もなく火球に飲み込まれ、爆炎に炙られているであろう柳とクォーダ。十秒程メラメラと焼かれ続けた頃、動きが見られた。炎の中の一点が輝き出した。
焚火の中。
「いや-、参りましたね。思った以上に凄い火球が飛んでくるものだから、ビックリしてしまいました。素晴らしい!」
感心しながら己と仲間を守る柳。火の中の光源はこの男の様だ。
「そういう割にはあっさりとガードしているじゃねぇか。物足りねぇんじゃねぇのか?」
柳が壁となり、その背後にクォーダがいる。2人は無事どころか、ダメージも全く見受けられない。
「守りに専念すればこれ位は・・・まぁ、なんとか。油断はできませんし、そこまで余裕はありませんけどね。クォーダ、攻撃に移れそうですか?」
「問題ない。お前が仲間に誘いたいという根拠は分かった。確かに悪くない。あのおチビちゃんを生け捕りにすればいいんだな。」
周囲を業火に囲まれた状態での会話とは思えない落ち着きを見せる2人。
「あはははは・・・言い方がちょっと問題ありですが、お願いします。」
そんな一連の会話を終えて、炎の中から、柳の背後からクォーダが姿を消した。
大魔法を唱えたラビの背後で待機する蓑口は、しっかりとクォーダの動きを追っていた。追跡することができていた。
「大した魔法攻撃だが、近付いちまえば勝負ありだな。観念しな。」
いつの間にか間合いを詰めたクォーダが斧を振り被った。狙われているラビは微動だにせず。
「それはどうかしら、力持ちの戦士さん。」
お次は私の番と言わんばかりに蓑口がひょいと杖を操った。軽く片目も瞑ったろうか。冷静にクォーダの攻撃に対処していた。
「ぬぅあに(何)-!!?」
ズド-ン!斧が物凄い勢いで地面に突き刺さった、握りを離さないクォーダを引き連れて。
「うふふ・・・ちょっと重かったかしら。手を離せばいいのに、馬鹿ね。」
そっと呟いた蓑口が続けて魔法を唱える。
「頑丈そうだし―大丈夫よね。」
火球の次は大きな大きな氷の塊だった。賢者である蓑口は回復魔法や味方を補助する魔法を得意とするのだが、攻撃魔法だってお手の物。隙やチャンスを逃すようなことはしない。本来は氷柱の様に先を尖らせて相手に致命傷を与えるのだが、今回は蓑口の温情が施されて単なる氷塊で許されるようだ。
「そじゃぁね、戦士さん。」
蓑口が笑みを携えて別れの挨拶を口にした途端、氷の塊が粉々に砕け散った。アイス屋で使われている小さな掌サイズの氷が砕けたのではない。ラビの火球に匹敵する大きさの氷が一瞬でアイス屋のサイズ程に砕かれ崩され刻まれたのだ。何分割、何太刀見舞ったのだろうか、柳は。蓑口にもラビにも悟られぬ内に間合いを詰め、気付かれぬ内に氷塊を毀してクォーダを助けたはずだった。
「嘘・・・いつの間に・・・・・・」
蓑口とラビが宙を見上げる。氷が蓑口、ラビ、そしてクォーダに降り注いだ、美しく可憐に。柳はと言えば既に蓑口の背後を取っていて、この時点で勝負は決していたのだが。
「バッキャロ-!!柳っ、余計なことするんじゃねぇ!この程度の重力魔法、屁でも無ぇんだ!」
雄叫びながら片手で軽々と斧を持ち上げるクォーダ。さらにブンブン振り回す。
「信じられない。なんて馬鹿力なのかしら。」
呆れ返ることしかできない蓑口。彼女の中でも勝負は決していた。どう転んでも勝つことは難しい。そうだな、小田のお爺さんの言う通り戦場に戻る頃合いなのかもしれない。
「しかもあのタイミングでお前が出てきたら、俺がやられる寸前に助けられたみたいに見えちまうだろうがっ。カッコ悪いじゃねぇか!」
クォーダの身勝手な理由で叱られる可哀相な勇者。
一方でラビは諦めていなかった。呪文を唱えながら走ってその場を離れていった。




