最後のムラ 終
決定的だ。突然ラビが声を上げて笑い出した。俺の話は確かにちょっと恥ずかしかったかな。熱血漢の様な情熱で身内を絶賛していたから、その点は笑われても致し方ない。そう考えると顔が熱くなってくる。
「ま、いいだろう。協力してやる。手短にお前の計画を話せ。その場で判断ができれば修正してやるし、細かい手直しは封じられている間に考えておいてやる。」
「え~と・・・その・・・・・・どういう風の吹き回しで?」
急展開にラビの心境を問わずにはいられなかった。
「ん?小ラビがうるさいんだよ。いつもお前が相手にしている方のラビな。普段は私もあいつも、表に出ない側は何も喋らない。邪魔をしない。別に取り決めた訳ではないがいつの間にやら、暗黙の了解って奴だ。」
「はぁ・・・」
「ただ、今日に関しては・・・・・・うるさくて敵わん。何なら通訳してやろうか。え~、何なに―如月さんをいじめたら許さないです。ちゃんと如月さんの言うことを聞くです。仲良くしないといけないです、だそうだ。」
似せたのだろうな。喋り方だけではなく声色も意識したせいで、同一人物なのだから当たり前っちゃ当たり前なのだが、そっくりだった。
「小ラビが騒がしくてたまったもんじゃないが、お前が信頼されていることはよく分かった。如月 淳、お前の陰謀に乗っかってやるよ。それと…なんだお前、トマトが食えんのか。情けない…」
「ぐっ、それは関係ないし、あまり思い出したくない。」
ラビの馬鹿正直な告白に助けられたおかげで、ラビの協力を得られることに繋がったのだが、ラビの奴め、余計なことまで話しているな。
「とにかくだ、時間がない。大まかにお前の話を聞かせろ。」
首にマジックポーションを掛ける。相当に体力が削られるのだろう。運び屋に手を引かれて帰って行ったのだが、半分落ちていた。首がこっくりこっくりと。
ラビからも助言があって、中でもテレポートに関しては非常に助かった。ラビの人物をターゲットとしたテレポートについてだが、さすがに魔王や敵モンスターを対象として瞬間移動することはできないとのこと。けれども、冒険者が魔王の所に到着したら、その勇者を狙って魔法を唱えれば良かろう。そんな話をしてくれた。
「でも、どのパーティーが魔王の所まで辿り着くかは分かりませんよ。一応、俺の方でステータスを調べることはできますけれど、アラタヤードに通いた時点では大体似たり寄ったりですよ。」
有望そうな勇者に目を付けてチャンスを待つのかと思っていたが、違ったようだ。
「運び屋に言って『魔光草』を持って来させろ。」
「マコウソウ・・・ですか。」
メモを取りながらラビに尋ねる。
「ああ・・・魔界の光る草と書く。魔力に反応して光る魔界の草なんだが、こいつを利用する。魔光草は二輪一組の花。その片方をお前が保管しておき、もう片方を勇者に持たせておく。花は付近の魔力に応じて白、青、黄、緑、そして橙、赤と色を変える。赤、それはすなわち魔王と考えて間違いない。お前は預かった花がオレンジになったら出発の準備を始める。赤になったら私を起こせ。魔王の所へ連れて行ってやる。」
政樹との再会はずっと先になりそうだが、これは致し方ない。それよりも、もっと具体的な問題があるぞ、ラビ。
「その為には、魔光草を冒険者にずっと持っていてもらわないといけないんですよね。店で頼んではみますが、捨てずに持っていてくれますかね、魔光草。」
「ああ、その点は考えてある。道具は使えばなくなる。武器や防具は遅かれ早かれより強いモノ、使い勝手の良いモノが選ばれる。ましてやラストダンジョンでは、それが生き残るための肝となるから、不要な装備品はすぐさま捨てられる。冒険者が重宝してずっと持っている道具。お前、ついているな。面白い道具を作ったものだ。アイテム所持上限の増える道具『牢乎な袋』。明日、大至急で100発注しろ。その際、魔光草の片割れを粉末にして刷り込ませればいい。発注票に書いて、ついでに柳にも言っておけば大丈夫だろう。奴も初めてではない。昔、似たようなことをやっているからな、すぐに理解するだろう。」
その後、俺が計画を話し、ラビが助言や質問によって詳細を詰めたりして、あっという間に17時5分前となってしまった。
「ありがとうございました。とても参考になりました。さっき音がしていたので、運び屋も来ているでしょう。」
「そう言って俺は立ち上がった。」
「魔光草が赤になったらまた呼べ。そうそう、それまではお前なりに道具を具現化してみたらいい。特記欄に特発コード224-010と記入すれば小田のジジイに届く。オーダープレートのような感覚で使えば良かろう。ふふ・・・今回はお前の賭けに乗ってやるよ。小ラビもそれで満足だそうだ。」
そういうと、ラビは目を閉じて姿勢を正した。
「ありがとう、ラビ。では、封印石を掛けますね。」
「ああ。」
どうしたことか最後、ちょっとしんみりした感じになった。長い休みを挟む前の別れの挨拶の様に。
よく考えれば分かることだった。よく考えなくたって分かることだった。そりゃそうか、と。想像力が欠落していた。店の休憩室が急激に狭くなってしまった。圧迫感が凄い。そりゃ、花瓶が100個もありゃぁ、なぁ。香りがさほど強くないのがせめてもの救いではあるが、それでもずっと休憩室にいると気持ち悪くなってしまう。虫とか花粉は大丈夫だろうな。どちらもあまり得意ではない。特に後者は仕事に影響を及ぼすからな。一方のラビは日々喜々として水をやっている。如雨露を片手に行ったり来たり。もしも色が変わったら教えてくれと伝えると、
「え-!この花、色が変わるですか?すごいですね~。楽しみですね~。」
だそうだ。
それから1週間が経過した。そしてアラタヤードを訪れるパーティーが増えてきた。彼等のこれからの未来は決まっていて、まずはオリハルコンの獲得を目指す。ただし、アラタヤードに到着したばかりのパーティーにとって容易に手に入れられる代物ではない。村周辺の敵でさえも全滅の可能性が漂う強敵、曲者揃い。洞窟の最深部に眠るオリハルコンまで到底辿り着けないと痛感するだろう。そんな時に寄り縋るのは店売り最強の武器群だ。もちろん高価な品々。容易くは買えまい。戦闘を繰り返して経験値を溜めてレベルを上げる。同時にルナを貯めて武器を買い替えるのだ。
オリハルコンを入手できれば『オリハルコンの剣』を作成することが可能だ。その頃には、店売り最強装備に身を包む。加えて牢乎な袋を購入してアイテムの持てる数を増やすことが必須となる。勇者達にとっても俺にとっても。何が何でも絶対に買わせなくてはならない。
「新しい袋は絶対に購入しておいて下さい。魔王城には強力な装備品や特殊アイテムが眠っていると訊きます。装備品以外にもできるだけ沢山のアイテムをキープする為にも牢乎な袋は買ってておいて下さい。それが攻略の鍵となります。」
セールストークも完璧だろう。尤も、牢乎の袋が活躍するのはラストダンジョンに入ってからだがな。また、2回目のローグライク・ミーティングにも参加した。発注票を使った遣り取りでも十分だったが、せっかく店にまで誘いに来たから参加してやった。俺の計画に沿った道具を、頭に描いた魔王までの道のりを実現する為の特殊アイテムを複数作り出すことができた。あとは・・・
「如月さ~ん!やったです-!!お花の色が変わったです~。」
「お~、きれいな青じゃないか。ラビが頑張って水をやってくれたからだな。」
「もっともっとがんばるですっ。」
「そうだな。」
ラストダンジョンに挑む一行が増えていくことだろう。
【最後のムラ 終】




