再会4
懐かしさを感じる風景は広がっていなかった。緑から青、そして眼前から靄が霧散する。肩から手が外され、隣にいたラビは黙って歩き出した。かつて勇者と共に旅をしたラビはフィオの友達なのだろうか。できればフィオの顔を覚えていてくれると嬉しい。でないと、フィオが絶対に悲しむ。それを知った、俺の知っているラビも悲しむ。2人は良いお友達だ、100パーセント。俺達の数メートル横には運び屋の馬車が停まっていて、蓑口さんは無言でそちらへ歩いて行ってしまった。
ふと背後を振り返ると長く険しい階段がそびえ立っていた。覚えているさ、忘れるわけがない。ここを昇ると名物のうどん屋がある。フィオがおねだりして、彼女の母親と3人で上がったこともあった。途中でフィオが疲れてしまって、俺がおんぶしたっけな。はは・・・懐かしいな、思い出だけは。フィオは、フィオは無事だろうか。俺は再び振り返り里の様子を再確認した。至る所から炎が上がり、家屋が焼け崩れ、樹々は炭へと変わっていく。朝でも昼でもないこの時間帯、闇に身を任せ静かに暮らすクゴートではありえない明るさに包まれていた。
「如月さん―」
馬車の方から蓑口さんが戻ってきた。運び屋とクオーダは車中だろうか。
「これから道具屋へ―如月さんのお店へ向かいます。里の皆さんは階段を昇った先に避難しているそうです。如月さんはどうされますか?」
「俺も道具屋へ連れて行って下さい。そこで大人しくしていますから。」
「分かりました。」
意外とあっさり許可が下りた。
里や街を魔王軍が襲うのは稀なことだそうで、しかも今回クゴートの里を襲撃したのは魔王の直属部隊。詰まる所、強い。撃退を依頼された勇者タチはこれまで4、5パーティーいたそうだが、いずれも返り討ち。まるで歯が立たず。そこで運び屋達に声が掛かった。彼らは『影法師』の異名を持つ、かつて大魔王と戦った経験を持つ伝説人。何故バラバラで各々の職業に就いているかは教えてもらえなかったが、勇者と呼ばれる者がひとりではないのと同様、魔王も一体ではない。倒されては次の魔王が現れる。姿、形、能力が異なる新たな悪の親玉が。いつ終わるとも知れぬいたちごっこ。そして、冒険者の最終目的地にて待っているはずの魔王とその護衛軍。それが今、クゴートにいる。目と鼻の先に。
「それでは如月さん。絶対にこの結界から出ないで下さいね。何があってもです。絶対ですよっ。」
ちょっと怖い。怒っている位に真剣な蓑口さんも素敵だ。いつの間にか皆、戦装束を言うのだろうか、戦闘用の装備に着替えていた。ただし、凄い、強そう、恰好いい、スタイリッシュ。
「蓑口、そこまでだ。あちらさんからおいでなすったぜ。」
クオーダが似気無い落ち着いた声で指摘した。柳もラビも構えている。直属部隊が道具屋に来店するようだ。音もなく一体いつの間に・・・
「まずいですね。拠点にするつもりがバレてしまいましたか。如月さん、マジックポーションをすぐ出せるようにしておいて下さい。」
運び屋にいつものヘラヘラした感じはなかった。
大袈裟な表現をするからもっと大部隊かと覚悟していたが、数は少なかった。まさかこちらの人数に合わせたということはないと思うのだが。
「ダークナイト、ギガントトロル、闇の司祭にダークドラゴン・・・相変わらずお強そうだことで、クックック・・・」
ラビは何が嬉しいのか、半笑いで奴等を紹介してくれた。
「久し振りに暴れがいのある敵さんだよな。フッフッフ・・・中途半端な勇者共じゃ一溜りもねぇか。蓑口、いつもの奴、頼むわ。」
「はい、はい。そしたら斧出して。」
「そっ、らっ、よっ。」
ドゥスゥーン!!
・・・・・・・・・俺の店の床が、ヘコんだ!?その斧、何百キロあるんだよ、全く。その斧に蓑口さんが魔法をかけた。それをクオーダが片手でひょいと持ち上げる。ほんの数秒のことだった。この人達にとっては何ら特別なことではない、日常なのだろう。
そうか、もうひとつ謎が解けた。鳩時計に重力魔法をかければ軽く持ち上げて運べるわな。
「ラビ、怪我人の様子は?」
柳がラビに尋ねる。
「問題ない。重傷者は全員治した。」
「マジックポイントは?ポーション使っておくか?」
「要らん。雑魚と一緒にするな。」
俺の知っているラビは、こんなに口は悪くない。立ち居振る舞いも堂々としていてどこか気味が悪い。
「お喋りはそこまでだ。行くぞ!」
クオーダが注意を喚起すると、4人は結界の張られた道具屋を出て行った。店と結界に被害が及ばないようにという配慮があってのことだろうか。それでも、両の目でしっかりと魔物を見据えることができた。




