4.イーファ
冒険者ギルドを出た私たちは、とりあえず一度戦闘をしてみようということでフィールド…街の外に出てみた。が、しかし。
「まぁ、こうなってるよなぁ」
「オープン初日だものね」
「先行組はこうなると予想はできたよな」
「人が…ごm「それ以上はいけない」…むぅ」
ナツが有名なセリフを言いかけていたが、まさにそんな感じ。
東西南北の四つある門のうち、ギルドから一番近い南門から街の外へ出るとなだらかな平野が広がっている。東門は森に近く、北と西は山が近いせいか一定のランクがないと出入りできないらしい。そうでなくても領主の館が近いせいか警備が厳重で近寄りにくい。領主の館は北寄りに、高級住宅は西に集中しており、一般の人たちは南と東に居を構えている。
東の森はゴブリンやコボルトといった二足歩行の魔物や虫、鳥類の魔物が多く生息しており、初心者が相手にするにはまだ早い。よって、自然と南のこの平野に冒険者が集中するわけで、さらにゲーム初日ということもあってレベル上げに余念がない人たちがほとんど。平野は私たちプレイヤー〈異邦人〉で埋め尽くされていた。
「きたっ、ウサギ!」
「しゃああああこらあああ経験値よこせええええ!」
「血祭じゃああああ!」
魔物がリポップ…倒されて一定時間経過で再び出現しても、血走った眼のプレイヤー達がすぐに経験値に変えていく。これは酷い。
五人で話し合った結果、他の四人はとりあえずβとの違いも確認したいのでこのまま戦闘に、私はそこまでこだわっていないので街の戻ることに。戦闘の経験値はパーティー人数で割られるので、そのうち効率の良い魔物でも見つけたらレベル上げに付き合ってもらうことに。
「じゃあ気をつけてね」
「「「「はーい!」」」」
カフワの友達なだけあって、私にも嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれた。良い子たちである。きっとβ組なだけあって戦闘大好きだろうから、生産で何か作ってあげたいものだ。
南門に戻りながら辺りを鑑定してみると、ポツリポツリと視界に名前が出てくる。『何かの草』『何かの草』『何かの草』『何かの石』…鑑定ぇ…。
これは鑑定のレベルが低いからだろうとは思うけどもう少しマシな表記はなかったものか。とりあえず採取しとこう。小さなナイフは持っているけど、根も何か調薬に使うかもしれないと思ったので根ごと土を付けたまま『採取』。
鞄は収納空間になっており、時間の経過もない。これは異邦人の特権のようだ。食品等は腐らないし、かなり大きいものでも入れたいと思えばこの鞄に入ってしまうのだからゲーム要素万歳。
『何かの草』の他にも、木の実や花なんかを採取しながら南門の門番にギルドカードを提示すると、門番のおじさんに不思議そうな顔をされた。
「姉ちゃん、冒険者だろう。すぐ戻ってきたが何かあったのかい?」
「いえ、あまりに人が多くて…戦闘は後日改めて、とりあえず街を散策しようかと思いまして。この街で有名な食べ物や特産品はありますか?」
「ははっ、確かに今日は異邦人の冒険者がすごいからな。よし、なら飯がうまいお薦めの宿を紹介しよう。俺の名前を出せば少し飯が豪華になるぞ!俺はオリバーだ、よろしくな姉ちゃん」
「リーフです、こちらこそよろしくお願いいたします。じゃあその宿に泊まらせていただきますね」
宿はログアウトを安全にするのに必要だ。ログアウトするとアバターである肉体はそのまま残る。もしフィールドやダンジョンでログアウトするならば専用のテントが必要だし、街の中でも不審者として捕まったり運が悪いと人買いに攫われたりするらしい。よって、セーフティーエリアである宿・教会・フィールドセーフティーエリア以外ではログアウトしなようにしなければならない。
オリバーさんの薦めで、門をくぐってすぐ左を進んだ先に見える宿『赤べこの蹄亭』に足を進める。このはじまりの街イーファでは、食事の美味しい宿として有名らしい。特に赤べこ…牛型の魔物らしい、の煮込みが絶品だとか。南のフィールドで時々出現するらしく、常時買い取り依頼も出ている。
「こんにちは、宿泊をお願いしたいのですが…」
「いらっしゃい!まだ大丈夫だよ、何泊だい?」
「とりあえず3泊、食事もお願いいたします。あ、オリバーさんにここの煮込みが美味しいと伺ったのですが夕飯に出せますか?」
「おや、オリバーからの紹介か。なら美味しいの作らなきゃねぇ!今日は赤べこが入荷したから夕飯に出せるよ」
『赤べこの蹄亭』に入ると、すぐカウンターに恰幅のいい女将さんがいたので宿泊と夕飯を頼むとオッケーが出る。オリバーさんは女将さんの弟だそうだ。
まだ夕飯まで時間はあるので、鑑定のレベル上げと料理に使えるものを探しに商店街に向かうとしよう。
商店街は南門から街の東側にかけて点在している。武器や道具屋もこの辺りにある。
冒険者ギルドの近くは精肉店が多く、おそらく解体したての魔物の肉を卸しているのだろう。東門に近づくにつれて道具屋、武器屋が多くなってくる。活気に満ち溢れているが、トラブルも多いのか巡回している騎士らしき人を見かける。お疲れ様です。
「ひったくりだ!」
大きな声に振り向けば、勢いよくこちらに走ってくる細身の男が見えた。得意げに口を歪ませ、笑っている顔に何だか無性に腹が立った。ので、
「そいやぁ!」
「ふぶんぐぁ!」
スライディングして顔面から転ばせ、視界不良になっている隙に空いている腕をひねり上げる。そのまま全体重をかけてマウントをとっていると、追いかけてきた騎士がそのままもう一本の腕もひねり、動けないうちに亀甲縛りにする。
「よくも儂の鞄を盗みよったなコソ泥め!天誅じゃ!」
「きゃああああああ!」
そうこうしているうちに、盗まれた鞄の持ち主であるあじいさんが現場に到着。顔を真っ赤にして怒っており、ひったくり犯に近づいたかと思うと、膝立ちになっている奴の股間目掛けて足を上から下へ振り下ろした。悲鳴は私のではない、ひったくり犯の悲鳴です。騎士がちょっと内股になってるのは見なかったことにしよう。




