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第44話:機械仕掛けの強敵

 オーア兄とヘル姉はお母さんから言われるがままにトリスメギストスを追いかけていった。その場に残った私達は目の前に居るオーレリアさんによく似たオートマタと向かい合う。

「マティ姉……」

「ピールは後ろに下がってなよ。母さん守って」

「おいテメェ、俺達の目的はあのジジイだ。すぐに退けば見逃してやるぜ」

 オートマタは少しだけ前屈みになると、背中から金属製の羽根の様な物を生やした。それは黄金色に輝いており、思わず見とれてしまう程の美しさだった。

「おいおい何だァ?」

「何でもいいよ、さっさと終わらせるっ!」

 マティ姉はオートマタが動く前に駆け寄ると、その胴体に拳をめり込ませた。しかし、そもそも人では無いという事もあってか、オートマタは一切の反応を示さなかった。

「……え?」

「マティ姉下がって!」

 私が叫んだ瞬間、オートマタの体は眩く光り始めた。その光はどんどん強くなり、薄暗い洞窟を照らし出した。ついには目を開ける事も出来なくなり、それと同時に何かが奔る様な音が鳴り響いた。

 しばらく経ち目を開けると、そこには光り輝く羽根の様な物を生やしたオートマタが浮いていた。マティ姉は顔を抑えながら、ゆっくりとこちらによろめきながら戻ってきた。

「ク、ソ……」

「マティ!」

 お母さんはマティ姉に駆け寄り、顔を覆っている手を退かした。その下にあったのは火傷で顔の右半分が爛れてしまったマティ姉の顔だった。どうやら至近距離であの光を浴びた影響でこうなってしまった様だった。

「大丈夫……この程度、どうって事無い……」

「……テメェらは下がってろ」

 そう言うとマルデダは私達の前に出る。

「……どうするの?」

「どうもこうもねェ。俺があいつを殺る」

 無茶だ……確かこの人が使う戦法は地面の中を移動して、地面に挟んだりとかするやり方だった筈。宙に浮いてるあのオートマタ相手だと不利過ぎる……どう考えたって足止めにもならない……。

「……私も行くよ」

「テメェも下がれ。死ぬぞ」

「目の前で大切な家族が傷付けられたんだよ? 私にも戦う理由がある」

「……勝手にしな。俺は守んねェからな」

「自分の身位自分で守れるよ」

 私は左腕をいつもの様に解れさせる。

 これであれを地面に引き摺り下ろす事が出来れば、何とかなるかもしれない。そこまで持っていければ、マルデダが上手く戦える筈……。

「対象を確認……ピール・メイ、クィジーン・メイ、マチルダ・メイ、マルデダ・メニンゲン……これよりマスターからの命により、討伐を開始します」

「へっ……人様の事野生動物みたいに言うんじゃねェよ」

「……っ」

 私は相手が何かしてくる前に先手を打ち、解れさせた左腕を伸ばし、オートマタの右足に巻きつけた。オートマタはそれに対しては何も反応せず、まるで何も問題無いと言わんばかりだった。私はそのまま体を捻り、オートマタの体を引っ張り、地面に叩きつけようとする。

「あっ……れ?」

「何だ……?」

 全力で引っ張っているにも関わらず、オートマタの体は空中に固定されているかの様にピタリと止まっていた。するとオートマタの体が再び輝いたかと思うと、巻きつけていた私の左腕に火が点いた。解れさせていたせいで密度が薄くなっていたせいで火が点いてしまったのだろう。

「っ!」

 すぐさま腕を元に戻し、火を消そうとしたものの、一度点いてしまったせいで戻せなかった。もしこのまま戻してしまえば、全身に火が回る可能性もあったからである。

「クソガキがっ……」

 マルデダは悪態をつきながら地面に触った。すると触った場所が沈む様に陥没し、マルデダの手が少しだけそこにめり込む。更にマルデダは燃えている私の腕を掴むと、解れている部分を無理矢理地面の中に突っ込んだ。地面の中に入れられたおかげもあってか、火は鎮火した。

「勝手な事すんじゃねェ……死んだらそれまでなんだぜ?」

「そっちこそ、助けないんじゃなかったの?」

「ここでテメェが死んだらあいつに申し訳が立たねェだろうが」

 マルデダの言う通りだ。私は死ぬ訳にはいかない。お父さんとお母さんとマティ姉とオーア兄とヘル姉、皆で……帰るんだ。皆で一緒に、また笑い合いたい……。

「私は死んだりなんかしないよ。それより、あいつから気を逸らさないで」

 マティ姉は母さんから支えられながら話す。

「ピール……あいつは、多分人間じゃない。触った感じが人間じゃなかった。もしかしたら動かせなかったのも、見た目以上の重さだからかも……」

「うん……」

 いや、きっと違う。実際に巻きつけた時、僅かに食い込んだ。あの感触は間違いなく人間だった。もしかしたらマティ姉が触った部分、体は生物じゃないのかもしれないけど……少なくとも足は間違いなく生物だった。動かなかったのはまた別の理由な筈……。

「対象の言語によるコミュニケーションを確認。指令には支障を来たさないものと判断しました。攻撃を続行します」

 そう言うとオートマタは空中で体を前方に傾けたかと思うと、羽根を羽ばたかせる事も無く、こちらに突っ込んできた。通った後にはまるで雷の様な閃光が走り、バチバチと音を立てていた。

「っ!」

 私は両腕を解れさせると、それをオートマタが出てきた機械に付いている二つのパイプの様な箇所に巻きつけ、先端をこちらに戻し、編み込む様にして網を作った。オートマタは一切勢いを緩める事無くその網に突っ込み、無理矢理にでも私達の方へと来ようとしていた。何とか踏ん張ってはみたものの、その勢いはかなりの力であり、解れさせている私の腕は悲鳴を上げ、今にも千切れてしまいそうになっていた。

 その時、マルデダが両手を地面に付けた。それと同時に触れている地面が突然砕け、オートマタへと飛んでいった。羽根の様な部分に当たった破片は即座に消滅してしまったが、残りの破片は頭や胴に当たった。するとオートマタはバチッと音を立ててその場から消え、少し離れた所へと移動した。

「そっか……そういう事か……」

 マティ姉は何かに気が付いたらしく、お母さんに何やら耳打ちをしていた。

「いくら飛んでようが的がでかけりゃいくらでも当てられる」

 確かにマルデダの言う通りかもしれない。ハエを落とせって言うならともかく、相手は普通の人間と同じ位の大きさだ動きがある程度制限されてる状況なら、物を当てる事も出来るかも……。

 そう考えていると、マティ姉が私達に話し掛ける。

「マルデダ、頼みたい事があるんだけど」

「何だ、こっちは手一杯だ」

「別に大して難しくないよ。適当にいつも通りに戦ってくれればいい」

「馬鹿言うんじゃねェよ。相手は浮いてんだぞ?」

「いいからあたしの言う通りにしなってば。あたしとオーアを殺そうとした時みたいにやればいいよ」

「……何考えてやがる」

「それとピール、ピールはマルデダの援護をしてやってくれないかな?」

「え?」

「とにかく石を飛ばしたりしとけばいいから、よろしく」

 マティ姉が何を言っているのかさっぱり分からなかったものの、既にオートマタが動きを再開していた事もあって聞く事は出来そうも無かった。

 オートマタは両腕から針の様な物を出すと、周囲に撒き散らした。それと同時にマルデダは能力を使って地面の中に潜り込み、地面を抉り破壊しながらオートマタを攻撃した。その隙を突きながら、マティ姉は母さんに支えられながらひっそりと移動をしていた。

 私はマルデダ達をサポートするため、行動を開始した。右腕の肘部分と手首から先をリボンの様に解れさせると肘と手の両端を結び、更に残った部分を二の腕辺りに巻き付ける事によって、腕をボウガンの様に変形させた。とは言っても、記憶を頼りに変形させたため、本来のボウガンと比べれば歪で、不恰好なものだった。

 私はマルデダが破壊しながら作り出していた石の破片を拾うと、弦のような形に張っていた部分にセットし、左手で弦を引きながら狙いを定めた。オートマタは空中を飛び回りながら地面の中を移動しているマルデダへと何やら光を飛ばして攻撃していた。

 今はマルデダに集中してるけど、もし私がこれを撃ったら今度は私が標的になる。それこそタイミングを間違えればマティ姉やお母さんまでも狙われてしまう。マティ姉は何か思いついてたみたいだし、今一番守るべきはあの二人だよね。

 私は大きく息を吸い、止めた。体のブレは徐々に無くなっていき、標準が定まり始める。足元はマルデダの移動によってそこら中が破壊されており、歩くのが困難になっていた。そんな中、ついにオートマタは動きを止め、地面の一点を見つめながら体の前方に雷を纏った光球の様なものを出現させた。恐らくあれで地面ごとマルデダを倒すつもりなのだろう。

 私はオートマタの頭部に狙いを定め、腕のブレが完全に無くなった瞬間、手を離した。しなっていた弦は石の破片を凄まじいスピードで弾き出し、頭部に着弾するまで私の目にも映らなかった。オートマタは頭を撃たれた影響でかバランスを崩し、その場に墜落した。

 その瞬間、マティ姉は自分を支えているお母さんから飛び出す様にして離れると、懐から何かを取り出し馬乗りになった。

「マティ姉!」

「マティ!」

「……おい何してやがる?」

 マティ姉はオートマタの首を押さえる。

「やっぱり合ってたかぁ……あんたは地面が無いと上手く浮けない、そうでしょ?」

「対象からの質問を確認……回答権存在せず」

「誤魔化したって無駄。マルデダが飛ばした破片があんたに当たった時、おかしいと思ったんだよ。あれだけ速く動けるあんたがあれをかわせない筈が無いって。あの時、ピールの腕を消火するために地面が少し抉れてた、そして破片が飛ばされた。だったらもう、答えは一つでしょ」

 もしかしてあのオートマタは地面を探知して浮遊してるって事が言いたいのかな? あの時破片が当たったのも、今こうやって墜落してるのも、足元が不安定になってるからバランスを取り難くなってるから?

 オートマタは反撃しようと両腕を伸ばそうとしたが、すぐさま地面が隆起し、両腕を地面の中に呑み込んでしまう。

「そうはさせねェぞ」

「……これで終わりだよ。あんたの名前は知らないけどさ、これもあの子を守るためなんだよ」

 そう言うとマティ姉はオートマタの頭の横に持っていた物を突き刺すと、そこに付いていた紐にマッチで火を付けた。あれはダイナマイトだ。

 マティ姉はすぐにそこから離れると、お母さんの手を引き、走り始めた。マルデダも地面に潜り移動し始めていた。私はすぐに腕を元に戻すと巻き込まれない様に大急ぎで走った。

 それから僅か数秒後、凄まじい轟音と共に爆煙が上がった。立ち止まって見てみると、爆心地の中心には全身が大きく破損したオートマタが倒れていた。しかしあれだけの至近距離で爆発が起きたにも関わらず、まだ原型は留めていた。

「倒した……?」

「ピール、近付かない方がいいよ。今動けなくなってるだけかも」

「……それよりも急いだ方がいいんじゃねェのか」

「だね……」

 マルデダにそう返事を返したマティ姉は歩き出そうとした。その瞬間、体の力が抜けたかの様にその場に倒れてしまう。

「マティ!」

「あれ……おっかしいな……足が動かないんだけど……」

 見てみるとマティ姉の足は重度の火傷で爛れており、それが原因で歩けなくなっている様だった。

「マティ姉……」

「そんな顔しないでよ……あたしはさ、お姉ちゃんだよ? 妹や弟、家族の事守るのは当たり前じゃん?」

 私は屈み、右腕を解れさせ、マティ姉の足に巻き付ける。

 これで処置になるかは分からない……でももしかしたら何とかなるかもしれない。例え解れたとしても腕は腕、皮膚は皮膚なんだ。この状態で千切ったりすれば、もしかしたらマティ姉の足を治せるかもしれない。

 そう考え、腕を千切ろうとした瞬間、マティ姉は私の腕を掴む。

「お姉ちゃんにはお見通しだよ? 今ピールがやろうとした事は良くない事……」

「でも!」

「女の子なんだから、もっと自分を大切にしなって」

 私は何も言い返せず、ただ腕を元に戻すしかなかった。お母さんは念のために持ってきていたと思われる軟膏を取り出すと、マティ姉の足に塗り始めた。

「マティ……お願いだから、自分の事もちゃんと大切にして……」

「ごめんごめん……」

 マティ姉が動けない以上、ここから離れる訳にはいかない。本当はオーア兄とヘル姉を追いかけたいけど、今は二人を信じるしかないよね……。うん……きっと大丈夫だよ、きっと……。

 私達はマティ姉の治療とオートマタの見張りをしながら、全てが終わるのを待つ事にした。

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