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第40話:隠れ潜む者の場所

 父さん達と共に病院へと辿り着いた俺はリオンが言っていた事を伝えるため、母さん達の下へ向かう。

「母さん! 母さん!」

「オーア、大丈夫だったの?」

「うん、大丈夫だよ。それより、トリスメギストスの隠れ家の場所が分かったんだ」

「……分かった。ちょっと待っててくれる?」

 そう言うと母さんはマティ姉やヘルメスお姉ちゃんを呼びに奥へと戻っていった。

「オーア兄、本当にあの人が言ってた場所に居るのかな?」

「分からない。でも、あの女の人は居る、それだけは確かだ。あの人は絶対何か知ってる」

 あの人は、いったいトリスメギストスに何をされたんだろうか……。人を殺したくなる程って事は相当な事な筈だ。それこそ、俺みたいに大切な人が狙われたとか……。

 そんな話をしていると、奥からズィーブントとマルデダが歩いてきた。

「オーア、早かったな」

「ズィーブント……まだここに居たのか」

「ああ、思ったより他の患者の治療に時間が掛かってな」

 ズィーブント達とは母さんの店で待ち合わせる予定だったが折角だ、ここで話してしまった方が早い。

 俺は父さんとピールに一旦一人にして欲しいと告げた。二人は俺の言う通りにその場所から離れてくれた。

「邪魔だったか?」

「いや。実は……トリスメギストスの隠れ家の場所が分かったんだ。役所で会ったあの人もそこに行ったらしい」

「何……?」

「オイ、それマジなのか?」

 ズィーブントとマルデダは予想外の報告に困惑している様だった。

「マジだ。この街の海沿いにある洞窟……そこにあるらしい」

「洞窟……確かにあるが、あの洞窟は何も無かった筈だが……」

「兄貴、行った事あるんですか?」

「ああ。この街に最初に来た時にな」

 あのリオンが嘘をついていたとは思えない。恐らくズィーブントも知らない何かがあるのだろう。あるとしたら、隠れ家を隠すための仕掛けか……。

「オーア、悪いがその情報はどこから仕入れたんだ?」

「あの人を追ってた時に会った、リオンって人に」

「リオン? 誰だ……?」

「……生物兵器として作られたって言ってたけど」

 ズィーブントの表情が一瞬強張る。

「……人間を、作った?」

「トリスメギストスがね。でも別におかしくはないでしょ。あいつは自分の娘が生きていると認識させたがってる。だったら人間の体を作ってても不思議じゃない」

「……彼は、そこまでなのか……」

 ズィーブントは俯き、考え込み始めた。

「ガキ、今から行くのかよ?」

「そうだな、そうしようと思ってる。これ以上長引かせたくないし」

「なら俺も連れてけ」

「何で? お前は関係ないだろマルデダ」

 マルデダは腕を組む。

「……お前が外に出てる間に兄貴からあいつの事について聞いたんだよ。俺みたいなのが言えた義理じゃねェが、あいつは生かしとく訳にはいかねェ」

「……何か企んでるのか?」

「馬鹿違ェよ! その……俺らはよォ……今まで散々お前らに迷惑掛けてきただろ? その償いみたいなもんだ」

 確かに命を狙われたりもした。だが、元々はトリスメギストスが命令したからだ。ズィーブントはともかく、マルデダは何も知らなかった。それに……マルデダは俺の事を助けてくれたりもした。

「もう十分助かってるし、償いはいいだろ」

「それはお前の考えだろうが! こっちはまだ納得出来てねェんだよ!」

 マルデダを説得するのは無理だろう。こいつにもメンツというものがある。俺がそれをこっちの都合で汚したりするのは良くないな……。

「分かった。だけど、俺は助けないぞ? 助けるのは、家族だけだ」

「ああ。それでいいぜ」

「……そっちは?」

「兄貴?」

 俺達が問い掛けた事によってズィーブントは気が付いた様だった。

「え? あ、ああ、そうだな」

「じゃあ後で洞窟の前で落ち合おう。それまでは準備でもしててくれ」

「おう、じゃあな」

 そう言って病院を出て行こうとしたマルデダを他所に、ズィーブントは俺に尋ねた。

「……オーア」

「何?」

「君は……後悔しないか?」

「何が?」

「恐らく彼は……君を容赦なく殺そうとするだろう。彼が欲しているのはあくまで君の能力だ。君が言う事を聞かないと分かれば、また殺そうとする。下手をすれば、君の家族も口封じに……」

 俺は包帯を巻いている右手を見せる。

「大丈夫だ。俺は、家族のためなら何も怖くない。例え全身がこうなったとしても、俺はあいつを倒す。皆を守る」

「……覚悟は決めているという事か」

「当たり前だ。俺は家族のためなら生きられる」

「……そうか」

 ズィーブントは納得した様子で病院を後にした。

 丁度そのタイミングで母さんが他の皆を連れて戻ってきた。

「オーア、さっきの二人は?」

「ズィーブントとマルデダなら後で合流するって」

「マジ? あいつらも来るの?」

 父さんが俺の肩を掴む。

「信じてるんだな?」

「うん。あいつらも……被害者だ」

「でもオーア兄、あの人達は元々敵だったんだよ?」

「でも今は味方だよ」

「……そうだね」

 俺はピールの肩に手を回す。

「大丈夫。絶対に」

 それを見てか、父さん達もお互いに肩を組み、俺達は円陣を組んだ様な形になった。

 父さんが口を開く。

「いいか? これはメイ家始まって以来の事件だ」

「そうね。今までこんな事は無かったもの」

「だね。大切な家族が利用されそうになった訳だし」

「許す訳にはいかないね?」

「え、えっと……わ、私は……し、師匠を止めるつもりです。あの人の弟子ですから」

 皆がこっちを見る。

「……皆ありがとう。これが最後になるといいな……」

 これで、本当に最後にしたい。命を狙われるのも、誰かの命が奪われるのも、もう御免だ。俺は皆と平和に過ごしていたい。だから……。

「……行こう」

 俺がそう言うと、皆は一斉に腕を離し、病院を後にした。




 人の居ない通りを抜け、海沿いにやって来た俺達は浜辺を歩いていた。今までこの街の浜辺には来た事が無かったが、ゴミなどは落ちておらず綺麗なものだった。

 しばらく歩いていると、うっすらと砂浜に足跡が残っていた。足跡は複数個あり、それぞれが入り乱れているせいで何人通った跡なのか分からなかった。

 他に足跡が無いということは、リオンが言っていた事は間違いではないらしい。この先に洞窟がある。そしてそこに行けば何か分かる筈だ。

 そう信じて進んでいると、やがて一つの洞窟が見えてきた。入り口にはズィーブントとマルデダが立っており、足跡もそこへ続いていた。

「来たか」

「随分と大人数で来てんな」

「……そっちは、何か見つけた?」

「いや、少し前に来たところだ。まだ中には入っていない」

 俺達が話している横でマティ姉が入り口の岩肌を突付く。

「……親父、ちょっと来て」

「どうした?」

「触ってみて」

 言われた通りに触った父さんは岩を軽く叩く。

「……これ、天然物か?」

「やっぱ変だよね? これ普通の岩じゃない」

 それを聞いたヘルメスお姉ちゃんは不安気な様子で父さん達に近付く。

「あの、ちょっといいですか?」

「ん? どしたのヘルちゃん」

 ヘルメスお姉ちゃんは岩を舐める様に観察すると指で軽く突付いた。

「……やっぱり」

「何?」

「これ、天然物じゃないかも……自然にこういうのは出来ないよ……」

 ズィーブントはマルデダの肩を叩く。

「頼めるか?」

「行ってみます」

 マルデダは洞窟に入ると、自らの足元の岩に両手を付いた。恐らく能力を使ってこの岩が砕けるかどうか試そうとしているのだろう。しかし、何故か岩はビクともしなかった。

「……こりゃあ普通じゃねェな」

「た、多分ですけど、この岩は師匠が作ったんだと思います。もっと言えば、この洞窟を作った可能性も……」

「ん~~~? どういう事なのヘルメス姉?」

「えっと……色んな金属や石を混ぜたりするとこういうのが作れるの……。こんな複雑なものが作れるのは、師匠だけ……」

 やはりここで間違いは無い様だ。あいつはここで計画を進めているのかもしれない……。

「……とにかく入ってみよう。まずはあの人に追いつかないと!」

 走り出した俺を追う様に皆は洞窟の奥へと入っていった。



 洞窟内は光が入ってきていないにも関わらず不気味な程明るく、明らかに普通ではない雰囲気を醸し出していた。そんな中を走っていた俺達の前に、金属製の大きな扉が見えた。その扉には見た事も無い様な紋様が入っており、既に開けられた後の様だった。

「誰が開けやがったんですかね兄貴?」

「……恐らく、俺とオーアが役所で会った女だろう。隣にはオートマタも居た。彼らなら可能だろうな」

「この奥に居るのか?」

「それは分からない。俺達が自分の目で確かめるしかない」

 俺は扉の奥に目を凝らす。人影は見えないが、何かが居る様な気配は感じられた。ズィーブントの言う様に、自分の目で見るしかないのだろう。

「オーア、無理はしないで」

「うん、分かってるよ母さん。……行こう」

「父さんがオーアの前を歩く。皆、円になれ」

 父さんがそう言うと、父さん達は俺の周りを取り囲む様にして歩き始めた。確かにこの中で一番最初に狙われるのは俺かもしれないが、ここまでするものなのだろうか?

 しかし、ここで文句を言っても仕方が無いと考えた俺は、皆に守られる様にして奥へと進んでいった。

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